相模鉄道の相鉄本線 鶴ヶ峰駅の周辺では、地下化による連続立体交差工事が行われている。既存の線路の真下にシールドトンネルを建設するという難工事だ。うち第一工区の施工を担う清水建設JVは、地上から地下までの現場周辺の地形や構造物をBIM/CIMモデルや点群データ、LiDARスキャンモデルなどを集約してデジタルツインを構築し、スピーディーで正確な施工計画を行っている。その中心的なプラットフォームとなっているのが、コルクのBIM/CIM共有クラウド「KOLC+(コルクプラス)」だ。
デジタルツイン施工検討で大幅な生産性向上を目指す
横浜市旭区にある相模鉄道の相鉄本線、鶴ヶ峰駅周辺では、2033年の運用開始を目指し、全長約2.8kmにわたって線路の地下化による連続立体交差工事が行われている。
うち約2.3kmの第一工区では、清水建設JVが約2000mのシールドトンネルや地上につながる約300mの開削トンネル区間を施工する。
清水建設JVで開削トンネル部分の監理技術者を務める佐竹省胤氏は「現場は複雑な条件が多いため、従来の2D図面や地形図による施工計画や検討では、時間がかかりすぎます。スピーディーで正確な検討を行い、プロジェクト関係者間で共有するため、3Dのデジタルツインを導入しました。その中心となるのが現時点の最適ツールと考えている『KOLC+』です」と語る。
KOLC+とは、コルク(本社:東京都豊島区)が開発・運営するクラウドサービス。BIM/CIMモデルや点群データなど様々な3Dデータを、一つのバーチャル空間にまとめて表示できる。
さらにSafieのリアルタイム映像やGNSS(ichimill)、センサー計測データ、360度写真、動画、文書などのファイルとも連携し、様々な現場データを1カ所に統合できるのが特徴だ。
現場の周辺の地形は起伏に富み、密集した市街地に囲まれている。また、現場の真上には相鉄本線の線路や架線、ケーブル施設などがあり、通過する電車の走行に影響を与えないように、施工には細心の計画が求められる。
クラウドサービス「KOLC+」上に構築されたデジタルツイン空間は、遠隔地にいる工事関係者同士でリアルタイムに共有や活用が行える。この現場のデジタルツインも、発注者の相模鉄道や設計コンサル、協力会社、そして清水建設本社の間で共有されている。
「その結果、現場の状況確認や指示、安全管理や品質管理などで、移動や連絡、手戻りなどのムダな時間が大幅に削減できています」と佐竹氏は語る。いったい、従来の2D図面や地形図による検討と、どこが変わったのだろうか。
BIM/CIMと点群の統合で数十センチの干渉を回避
難工事の一つは、シールド機の発進立坑だ。通常は地上からシールド機の発進地点まで、まっすぐ下に立て坑を構築し、シールド機を下ろせばよい。しかし、この現場では営業中の線路わきからシールド機を地下に下ろし、横に水平移動できるように大きな立坑を建設する必要があるのだ。
この施工計画を行うために、地上と地下をつなぐ精密なデジタルツインが作られた。地上の線路や周辺部分は、3Dレーザースキャナーのように3D計測が行えるMatterport Pro3によって工区全体にわたって計測した点群データと、BIM/CIMソフト「Autodesk Navisworks」などで作成した構造物の3DモデルをKOLC+上に読み込んだものだ。
立坑の外周となる連続土留壁は、電車の運行がない真夜中に、80cm径のボーリング穴を少しずつ重ねて掘り、中にH鋼を建て込み、流動化処理土を打設して施工する。線路を横断する連続壁は、ボーリング穴及び削孔機械のロッドとレールやまくら木、架線が干渉する部分も出てくる。
「例えば架線とH鋼が干渉する場合は、施工中だけ架線を横に引っ張ってずらす『架線振り』を行います。KOLC+で立て坑のBIM/CIMモデルと地上の点群データを重ねて見ると、何十センチずらせばいいのかがすぐわかりますので、相模鉄道や電気軌道関係業者などへの依頼も定量的に行えてスムーズです。このような3Dモデルを使った検討は以前なら専門ソフトと専用知識を持った人しかできなかったものが、KOLC+によって誰でも簡単にできるようになりました。」と佐竹氏は言う。
このほか連続壁の施工中は、レールやまくら木なども一時的に撤去する必要がある。こうした干渉部分を正確に把握するのにもKOLC+を日常的に活用している。
BIM/CIMと点群から「断面図」を切り出し
工区の横浜側端部には、地上からシールドトンネルにつながる約300mの開削すり付け斜路区間を設ける。線路わきの地面は微妙に凹凸があり、平らな場所は少ない。そこで重機の足場となる構台を線路に沿って設けている。
「現場の施工では、3Dモデルよりも2Dの断面図の方が便利な場合もあります。KOLC+が便利なのは、BIM/CIMモデルと点群データを合わせた状態で断面図を切り出せるところです」と佐竹氏は言う。
LiDARアプリで生成した「テクスチャ付き3Dモデル」を活用
この現場ではMatterportから出力した点群データだけでなく、iPhone/iPadのLiDARアプリを使ってスキャンしたテクスチャ画像付きのメッシュモデル(FBX形式)もKOLC+で統合して活用している。
「点群データだけでは鉄道設備や縁石などの細かい部分が確認できないため、360度写真やLiDARアプリも使って画像として記録しています。鉄道設備内は簡単に立ち入れないため、テクスチャ付きで3Dスキャンしていれば現場確認に非常に重宝します。先日のKOLC+のアップデートでY軸UPモデルも自動的に軸判定して統合できるようになり、テクスチャ画像が高画質のまま表示できるようになったのは、かなり大きい改善点です」(佐竹氏)。
KOLC+で数量算出や重機の配置検討も
BIM/CIMのメリットは、3Dモデルの各部材に、部材名や仕様などの属性情報が埋め込まれていることだ。3Dモデル作成時に属性データを入れて作成することでKOLC+では属性情報を検索して条件に一致する部材を抽出し、部材の仕様などをExcelのように一覧表形式で出力することができる。
「KOLC+上で数量や出来高の集計までできるようになればクラウド上で完結するので、さらに業務が効率化されると思います。KOLC+は毎月バージョンアップされるので、気が付いたら要望が実装されている場合も。集計機能も近いうちに実装されることを期待しています」と佐竹氏は語る。
掘削時には、どの重機をどこに配置するかが重要になってくる。KOLC+では3Dモデルをつかんで自由に移動・回転できるため、重機の配置検討や支障物の移設検討にも活用していく予定で、今後は4Dや5Dシミュレーションも実施予定だ。
クラウドカメラやワークフロー機能を活用した業務改善も
この現場では、現場内道路などの要所に、Safieのクラウドカメラを設置している。そのリアルタイム映像も、KOLC+のデジタルツイン上で確認できるようにした。
「カメラ映像をモニターに並べただけだと、どの場所を映しているのかわかりにくいですが、デジタルツイン上に連携すると、現場の状況が手に取るようにわかります。この映像はスマホでも見られるので、交通誘導員も業務に使っています」(佐竹氏)という。
さらに、KOLC+のワークフロー機能を活用したペーパーレス化にも取り組んでいる。これまでは紙での回覧を行っていたが、この現場では紙を廃止し、安全書類などを会社標準のクラウドストレージ「Box」で管理しつつ、回覧操作はKOLC+のワークフロー機能で実施する仕組みを導入した。「モバイル端末で確認と承認ができるようになり、場所にとらわれない作業が可能になりました」(佐竹氏)という。
BIM/CIMモデルを360度画像やVRにも連携して活用
清水建設JVではKOLC+に加えて、Matterportの3D画像とBIM/CIMモデルを合体して写真のようなリアルさで見られる「ArchiTwin」、360度写真で現場の施工状況を時系列的に記録し、BIM/CIMモデルや点群データと比較できる「Openspace BIM+」、BIM/CIMモデルをVR化し実寸大や模型サイズで検討や会議が行える「Prospect」などのシステムも導入して、デジタルツインによる施工計画に活用している。
現場事務所にはDXルームを整備
さらに、2024年2月に完成した現場事務所には、執務室に75インチのモニターを5台ずらりと並べた現場ダッシュボードや、直角の壁をスクリーンとして2画面連続のパノラマ映像を投影できるDXルームなどを設け、デジタルツインによる施工計画や施工管理を強化している。
現場をデジタルツインで管理し、情報共有するための様々なソリューションや設備によって、現場で働く職員だけでなく、発注者や設計者、本社スタッフなどを多くの工事関係者の業務を効率化してくれそうだ。
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