広島市内を走る高架橋に、はく落対策用のネットを張る工事を担当した伏光組(本社:広島市南区)は、既存の橋桁や橋脚の計測に、ライカジオシステムズの高速3Dレーザースキャナー「Leica RTC360」(以下、RTC360)を活用。その結果、従来は高所作業車2台と4人で行っていた計測作業が1人で行えるようになり、さらに作業時間も1/2~1/3に減少し、労働生産性は10倍に向上した。
従来は2台の高所作業車を使って計測
施工箇所の橋梁は、開通から十数年が経過している。万一、床版や橋脚などからコンクリートがはく落しても、下を通行する人やクルマを保護するため、橋桁下に10mmメッシュのはく落防止ネットを張る作業が行われている。
この工事を請け負った伏光組は長さ約45mの橋桁を14スパン、工事延長586m分を施工する。このほか、橋脚6基にはく落防止メッシュシートを張る作業も受注している。
はく落防止ネットは、既設橋桁の外側にピッタリ合うように製作、設置するため、橋桁や周囲の排水管などの形状や寸法を正確に計測する必要がある。
これまでは橋桁の寸法を測るため、橋桁の両側に2台の高所作業車を配置。それぞれに2人の作業員が乗って橋桁下にメジャーテープを横断させ、手作業で橋桁各部の寸法を測っていた。
また地上からもネットの製作や設置に必要な寸法をトータルステーションやレベルで測り、ネットの図面は角度定規などを使って描いていた。
高所作業車を移動させるときには、作業床を下ろしたり、再び上げたりする必要があり1回あたり10分くらいかかる。加えて高所作業車の使用には、事前に下を通る道路の使用許可も必要だ。
RTC360の導入で生産性は10倍に向上
「この計測作業に、ライカジオシステムズの高速3Dレーザースキャナー、RTC360を導入したところ、1人でスピーディーかつ正確な計測ができるようになり、作業効率が向上したのはもちろん、なにより地上で計測できるため安全性が確実なものとなりました」と、伏光組
技術部 取締役部長の尾木原久氏は語る。
「危険の伴う高所作業車での作業は不要になり、従来工法では最低4人で行っていた計測作業は1人で可能となり、しかも現場での計測時間は従来の1/2~1/3程度になりました。労働生産性は10倍に向上した計算になります」(尾木原氏)。
点群計測はネットの設置前と設置後の2回行う。現場で点群データを計測した後は、事務所に戻っての作業だ。
ネット設置前は、点群データを点群処理ソフト「TREND-POINT」に読み込んで、ネットの形や寸法、面積を測る。ネット設置後は、点群から得られたデータをもとに2次元CADを使って発注者に提出する出来形数量を算出する。
「これまで、メジャーテープを使って現場で測っていた危険な寸法計測は、室内でのパソコン作業に代わり、とても安全になりました。桁がカーブしている箇所をメジャーテープで測るとブレが生じて精度が悪いこともありましたが、点群データによる計測では正確です」と作業を担当する土木部の吉村涼太氏は語る。
橋桁の横や下には、排水管が添架されている部分もある。こうした部分では、ネットを排水管の内側に張ることになる。
「RTC360で計測した点群データは正確なので、管の一部だけでも点群データがあると、管径までわかります。そのため排水管を避けることを考慮したネットの設計も正確に行うことができました」(吉村氏)。
計測スピードの圧倒的速さがRTC360選定の決め手に
「当社では以前から、生産性向上や品質向上などを目的に、3Dレーザースキャナーの導入を検討していましたが、今回のネット設置工事をきっかけに、RTC360を導入しました」と土木部工事長の元長大輔氏は説明する。
ライカジオシステムズのRTC360に決めた理由は、圧倒的な計測スピードだったという。
「他社製品も検討しましたが、1回の計測に約20分もかかりました。その点、RTC360は1回の計測がわずか約2分で終わるなど、他社製品に比べてスキャン速度が5~10倍も速かったのです。何度も繰り返し計測することを考えて、RTC360を選びました」(元長氏)。
RTC360はライカジオシステムズの代理店、山陽測器(本社:広島市西区)から購入した。
「使い始めは、山陽測器の営業担当者に電話や現場で10回くらい教えてもらいました。3~4回、測っているうちに、計測の要領がつかめてきました」と吉村氏は振り返る。
発注者も点群データを出来形として認定
今回の工事で、RTC360の導入は、建設DX(デジタル・トランスフォーメーション)の実践例として、発注者からも好評を得た。
従来、高所作業車2台と4人で施工前後に2回行っていた計測作業は、1スパン当たり2日かかっていた。今回の工事は14スパン分を行ったので、合計では112人工が必要だった。
それがRTC360の導入によって、1人で計測できるようになり、1スパン当たり計測時間も半分の1日で終わった。14スパン分だとわずか14人工に短縮された。さらに高所作業車を使用するための地上の交通規制手続きや要員も不要になった。
「広島で道路の維持管理作業に、3Dレーザースキャナーや点群データなどの3Dソリューションを活用し、大幅な生産性と品質、安全性の向上が実現したことを、発注者も高く評価してくれました。そして点群データを工事の完成形状や寸法の証拠となる出来形として認めてくれるようになったのです」と元長氏は言う。
伏光組では今後もRTC360や点群を活用し、さらに複雑な構造物の補修や維持管理などのDX化に取り組み、労働時間の短縮や生産性向上に取り組んでいく方針だ。
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