WebVRプラットフォーム技術が地方自治体の観光産業や地域振興を後押しし始めている。その効果は、単なる観光や産業の強化にとどまらず、地域の防災意識向上や業務効率化にも貢献している。この記事では、フォーラムエイトのWebVRプラットフォーム「F8VPS」によるメタバースを導入した秋田県男鹿市や秋田県にかほ市、リアルタイムVRソフトウェア「UC-win/Road」を導入した熊本県玉名市の事例を通じて、WebVR/AR技術の効果的な活用方法や効果、さらに将来の可能性を探る。
観光や産業振興を変え始めたVRやAR
WebベースのVR(仮想現実)、AR(拡張現実)技術が今、観光地や地域産業の活性化において重要な役割を担いつつある。
従来の観光案内や情報発信は、パンフレットやウェブサイトに頼ることが多かったが、これらの方法では伝えきれない情報をビジュアルかつ直感的に体験させる手段として、VRやARが注目されている。その具体的なソリューションが、フォーラムエイトのWebVRプラットフォーム「F8VPS」やリアルタイムVRソフトウェア「UC-win/Road」だ。
観光客にとってのメリットは、その地に訪れる前にあらかじめ観光スポットや歴史的背景をVRで体験できることにある。これによって旅行前の期待感が高まり、訪問後も満足度向上につながっている。また、現地での体験をARで補完することにより、観光地の魅力を最大限に引き出すことが可能となる。
これらの技術は、観光の質を向上させるだけでなく、観光客の滞在時間を延長し、地域経済への貢献度を高める役割も担っている。
「動くハザードマップ」で防災意識を向上
防災分野でも、WebVR/ARは有用だ。例えば、災害発生時のシミュレーションや訓練において、静的な紙ベースのハザードマップに加えて、VRを活用した「動くハザードマップ」を活用することで、よりリアルな体験を通じた防災教育が可能になる。地域住民や観光客に対して、緊急時の行動指針や避難経路の確認などを効果的に行えそうだ。
さらに人手不足に悩む地方自治体の業務効率化でも、WebVR/ARは役立っている。観光地の維持管理や案内表示の更新が仮想空間上で行えるため、物理的な作業の手間を省きつつ、より効果的な観光体験を提供することが可能となるからだ。これにより、観光業の業務効率が向上し、コスト削減にもつながる。
このように、WebVR/AR技術は単なる新しい観光サービスにとどまらず、地域全体の産業振興や業務効率化に寄与する重要なツールとなりつつある。その実例を3つの自治体の事例から見てみよう。
<秋田県男鹿市>
火山活動による寒風山の生成をARで現地体験
高齢者も石段の先にある重要文化財に仮想訪問
秋田県男鹿市は世界に誇る「なまはげ」の文化や、寒風山、自然の魅力に恵まれているが、その魅力を十分に発信できていないという課題を抱えていた。これを解決するため、男鹿市は「F8VPS」を活用し、観光資源の価値を最大限に引き出す取り組みを開始した。
男鹿市が初めてこの技術を導入したのは、2022年度の「寒風山ジオサイトVR/AR」プロジェクトだ。寒風山は男鹿市を象徴する名所であり、その火山活動による地形の形成過程をARで体験できるスポットが設置された。
訪問者は、スマートフォンを使って二次元バーコードを読み取ることで、過去の火山活動を視覚的に追体験できる。この取り組みは、観光客に対して新たな視点を提供し、滞在時間の延長や観光の質向上に寄与している。
足が不自由な人も石段上りを満喫
続いて、2023年度には「赤神神社五社堂AR」が導入された。この神社は男鹿市の南西端に位置し、鬼が築いたとされる九九九段の石段が特徴だ。
同市の菅原広二市長は、「なかなか訪れにくい場所ですけれど、一度訪れた人はその神秘的な魅力に引かれるところ」 と説明する。
AR技術により、訪問者はこの伝説を石段のふもとから体験できるようになった。特に、高齢者や足の不自由な人々にとって、物理的に石段を登ることが難しい場合でも、ARを通じてその雰囲気を味わうことができる。
これらの取り組みにより、男鹿市は観光資源の魅力を最大限に発信し、地域経済の活性化を図っている。また、F8VPSによるメタバースの活用は、観光客だけでなく地域住民にも地域の文化や自然の魅力を再認識させる効果を上げた。さらに、市はこれらの技術を防災や教育にも活用する計画を進めている。
<熊本県玉名市>
PLATEAUの3D都市モデルを活用
「動くハザードマップ」で災害リスクを可視化
熊本県玉名市は、1300年の歴史を有する玉名温泉など豊かな温泉資源や歴史的な名所に恵まれている一方、2020年に発生した球磨川流域の豪雨災害を契機に防災意識の向上といった課題を抱えていた。そこで、市はUC-win/Roadを用いて、「動くハザードマップ」実便への取り組みを始めた。
UC-win/Roadをベースにして、国土交通省が全国の都市を対象として整備する3D都市モデル「PLATEAU」のデータを活用し、市の現状を3D VRでリアルに再現した。
洪水が広がる様子を時々刻々と体感
それをもとに浸水や避難のシミュレーションを作成。破堤や浸水の危険がある場所を割り出すとともに、地域の住民に浸水被害をVRで実感として体験してもらうことにより、防災意識の向上や避難誘導の高度化を図ることを狙ったものだ。
このVRによる洪水シミュレーションは、2022年12月には災害可視化で市が監修を受ける熊本大学大学院先端科学研究部の本間里見教授と庁内関係者、2023年2月には藏原市長や庁内関係者、当該地域の一部市民向けに実証が行われた。
その際、本間教授が既存の紙による静的で動かないハザードマップに対し、今回の3D都市モデル上で洪水の広がりが時々刻々と体感できる成果を「動くハザードマップ」と呼び、新たな防災ツールの一つになるのではと語った。
他の参加者からも、「従来のハザードマップよりも、直感的に分かりやすかったと」いう評価が得られた。
<秋田県にかほ市>
松尾芭蕉があこがれた九十九島の景気をVRで再現
観光客の滞在時間も延びる
秋田県にかほ市には、鳥海山や象潟をはじめとする自然景観や歴史的名所があり、これまでにも多くの観光客を迎えてきた。しかし、訪れる観光客が自然や景観を一目見て満足してしまう傾向があり、その結果、滞在時間が短くなる問題に直面していた。
こうした背景から、にかほ市では観光地を「見るだけ」の場所から、「体験する」場所へと変えることを模索した。その手段としてF8VPSの導入を決定し、2022年にF8VPSを活用した観光サービスを導入した。
具体的には、にかほ市が誇る自然や文化財をデジタル技術で再現し、観光客がより深く理解し、楽しむことができるコンテンツを提供することを目指している。
まず構築したのは、「鳥海山VR/AR」だ。約60万年前の火山活動により形成したとされる鳥海山は、約2500年前に発生した山体崩壊と岩なだれにより、山頂から約60億トンもの土砂が崩落した。
その一部は海岸部を越えて日本海に流れ込み、現行市域周辺に浅い海と数多くの小島からなる地形ができた。その過程をF8VPSのVR機能で体験できるようにしたのだ。
その後、浅海は潟となり、島々には樹木が茂った。17世紀にこの地を訪れた松尾芭蕉ら多くの歌人や俳人が目にした九十九島の絶景だ。ところが、1804年に起きた象潟地震で象潟の一帯は約2m隆起し、潟は陸地化してしまった。
F8VPSで江戸時代の景色を体験
また、同市は天然の良港に恵まれたこともあり、江戸時代には「北前船」の寄港地としてもにぎわっていた。
「松尾芭蕉が訪れた、当時の九十九島の姿をどう再現するかという問題は、以前から市議会などで議論されてきました」とにかほ市市長の市川雄次氏は振り返る。
その解決策となったのが、WebVR/ARプラットフォーム「F8VPS」だ。今回の市の取り組みでは、過去から今日に至る鳥海山や九十九島にフォーカスした地域の景観的推移を、先進のAR/
VR技術によって誰もが簡単に体感できるようにすることを目指した。
これらの取り組みにより、にかほ市の観光地は単なる観光スポットとしてだけでなく、教育的な価値も持つ体験型の観光資源として生まれ変わりつつある。観光客は単に風景を楽しむだけでなく、その背後にある自然や歴史、文化を深く理解することができるようになり、それが滞在時間の延長やリピーターの増加につながると期待されているのだ。
WebVR/AR技術は今後、観光、産業振興、防災など多岐にわたる分野での活用が期待される。技術の進化に伴い、よりリアルで直感的な体験が可能になり、観光地の魅力を効果的に伝えたり、めったに発生しない自然災害を自分ごととして感じたりする手段となるからだ。
また、実物を使った展示や教育施設などに比べて、コストが安く、より多様なコンテンツを展開でき、ネットワークで多数の人が見られる点で、WebVR/ARは観光や産業振興、防災対策において大きな可能性を秘めている。
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