建築・土木の実務的な教育を担う専門学校では、より職業に密着した教育が求められている。そこで従来の図面による設計教育に加えて、導入され始めているのが、フォーラムエイトの3DVRソフト「UC-win/Road」や3DCADソフト「Shade3D」だ。富山、岡山、東京の専門学校における最新のカリキュラム動向を見てみよう。
(注:記事中の組織名や肩書などは取材当時のものです)
【第1部:富山】
VRが変える職業教育の現場
富山情報ビジネス専門学校、全学科でUC-win/Roadを導入
「地学一体」、すなわち地域と学びの融合を掲げ、時代のニーズに応える教育を展開する富山情報ビジネス専門学校(通称Bit)が、職業教育の在り方を大きく変えようとしている。
建築・デザイン学科の新設を契機に、2022年度から同校は全学科においてフォーラムエイトの3DリアルタイムVRソフトウェア「UC-win/Road」を用いたVR授業を本格的にスタートさせた。
その導入の端緒は、2020年初頭に建築・デザイン学科の設立構想が立ち上がったことに遡る。建築分野における最新技術の調査を進める中で、設計段階から完成イメージを顧客に伝えるツールとしてVRに着目。VR業界において先進的な取り組みを行うフォーラムエイトに辿り着いた。
学生のアイデアをVR空間でプレゼンテーション
同年夏、浦山学園の浦山哲郎理事長らと共にフォーラムエイト本社を訪問した能登一秀校長は、UC-win/Roadのシミュレーション事例を体験。学生が自らのアイデアをバーチャル空間で表現し、プレゼンテーションを行うという新たな教育手法の可能性に触れ、VRの持つ教育的価値を確信したという。
これを受け、2021年9月にはホテル・ブライダル学科1年後期の「ICT活用」授業において、UC-win/Roadの導入が先行的に実施された。授業ではまず、地形データから3D空間を生成し、道路や信号機などのインフラを構築。次に、最寄りの「あいの風とやま鉄道・小杉駅」からキャンパスまでの通学路を学生自身が再現。さらにShade3Dなどを使って、ホテルに置かれる家具や設備のモデリングにも挑戦する内容だった。
このような実践を通じて、VRによる空間認識力の向上、設計意図の可視化、さらには発表スキルの育成といった教育的効果が明確になりつつある。情報システム学科主任の山本晋平氏は、「最終的には学生が自ら作成したVR空間のホテルを舞台にプレゼンテーションを行うことが目標」と語る。
一方、これまでVRと縁のなかった学生の反応はどうか。山本教員は「当初は難しい部分があるのではと不安もあったが、想像以上に楽しんで取り組んでいる」と語る。ところが始まってみるとそれは全くの杞憂で、ICTに親近感もあってか、学生は非常に好奇心を持って取り組んでいるという。
能登校長もまた、「VRでなければ表現できない理想の世界や街づくり、コンピュータ内部の探検などが行えるメリットがある」と語る。今まで見られなかったものをVR空間に作る楽しみから学びのモチベーション向上につながると指摘する。
こうした成果を受け、2022年度からは全学科で「ICT活用」授業を導入。VRを単なる技術にとどめず、専門分野に即したVRや3D技術を軸とした教育改革を加速するプレゼンテーション・ツールとして活用することで、学科ごとの特性に即した教育が展開される予定だ。
その体制を支えるのは、教員の育成である。山本氏だけに頼ることなく、各学科における指導内容を分担する体制づくりが進行中だ。新型コロナウイルス感染症の影響下にあっても、学園はフォーラムエイトのUC-win/RoadやShade3Dの操作説明会に30名以上の教員を動員し、意欲的に研修を進めている。
今後について、山本氏は「VR環境の活用機会は確実に増えていく」と見通す。学生のうちからこうした技術に親しむことで、社会に出た後も即戦力となるスキルが養われるという。
将来的には、各学科で作成されたVR空間を統合的に管理・運用できるプラットフォームとして、フォーラムエイトの「メタバニアF8VPS」の導入も視野に入れている。BitのVR教育は、今まさに職業教育の新たなフェーズへと踏み出そうとしている。
【第2部:岡山】
VR×3Dが変える職業教育の現場
岡山情報ビジネス学院が挑む教育改革
岡山市に拠点を置く専門学校岡山情報ビジネス学院(OIC)は、Society 5.0時代に対応した人材育成を掲げ、建築・土木系にとどまらず、情報通信技術(ICT)を軸とした実践的な職業教育を推進している。その一環として注目を集めているのが、フォーラムエイトの「Shade3D」とWebベースの3DVRプラットフォーム「メタバニアF8VPS」の導入だ。
中心的役割を担うのが、情報スペシャリスト学科および情報システム学科の両学科長であり、自身も地元岡山でSEとして現場経験を積んできた伊藤宏一郎氏だ。
伊藤氏は「システム開発の実務ではチームワークが不可欠」との認識から、4~5人単位のチームによるプロジェクト学習(PBL)を導入。役割分担を明確にし、課題の本質を見極め、解決方法を自主的に考える力を育成してきた。
実務で使えるツールとしてVRを導入
転機となったのは2020年冬、同学院関係者が全専研の講演でフォーラムエイトのVRソリューションに触れたことだ。VRを単なるエンターテインメントとしてではなく、アバターによるコミュニケーションやバーチャルプラットフォームを通じた他学科とのコラボレーションなど、実務で使えるツールとして教育に取り入れる可能性を感じた伊藤氏は、すぐさま導入に向けた検討を開始した。
まず2021年2~3月には、「Shade3D」の操作体験を目的とした企業連携の特別講義を実施した。対象は情報スペシャリスト学科の新3年生と情報システム学科の新2年生、総勢約100名。コロナ禍を考慮し、フォーラムエイトのオンライン指導による分散実習を実施した。
特別講義では、「岡山の観光業を盛り上げる」というテーマのもと、学生たちはチーム単位でアイデアを練り、Shade3Dを使って3Dモデルを作成。WebGLを用いた動作実習とプレゼンテーションを通して、実務さながらのVR開発のプロセスを経験した。
Shade3DをVR開発の基盤ツールに
この成果を踏まえ、2021年度前期には情報スペシャリスト学科3年生を対象にした正規授業「VR開発」をカリキュラム化。Shade3Dの基本操作からJavaScriptによるモデリング制御、最終的にはチーム開発による作品制作と発表までを一貫して行う内容となっている。2022年2~3月にも、前年と同様の構成で特別講義を継続実施した。
伊藤氏は、「学生にとって初めて触れる3Dモデリングツールでありながら、短期間で操作を習得できるスピード感や操作性のよさがうかがわれた」と語る。
また、フォーラムエイトが展開するWebベースの3DVRプラットフォーム「F8VPS」にも注目が集まっている。情報系学科の学生が構築した仮想空間を、ホテル・ブライダル学科など他学科の接客訓練や業務シミュレーションに応用することで、学内横断的な教育の可能性を広げる構想も現実味を帯びてきた。
Shade3Dは、このようなVRプラットフォーム開発の「基盤ツール」として早期から学生に習得させておくべきだ、との判断も導入の背景にある。
現在、情報スペシャリスト学科には約50名、情報システム学科には約80名の学生が在籍。常勤講師4名体制に加え、VRなどの最新技術に関しては外部講師も活用し、専門性の高い実習を可能にしている。
今後も、「VRを体験させ続けたい」という伊藤氏の思いのもと、OICではVRや3D技術を軸とした教育改革が加速するとみられる。「学生には好奇心を持って、これからの技術革新に積極的に取り組んでいってほしい」。その言葉には、職業教育の現場に革新をもたらす確かな意思が込められている。
【第3部:東京】
実践教育を深化させる“デジタルの力”
Shade3Dが切り開くインテリア教育の現在地
東京都中野区に校舎を構える専門学校東京テクニカルカレッジ(TTC)は、学校法人小山学園が運営する専門学校の一つである。1987年の開校以来、建築、ICT、環境・バイオといった多様な分野にわたる専門教育を展開し、11学科を擁する。注目されるのは、実践的な教育アプローチを重視している点だ。
「インテリア科」は、人々の心を豊かにし、快適な住環境を創出するインテリア空間の専門家育成を目指し、2年間のカリキュラムを編成している。その中核には、3DCGソフト「Shade3D」を中心としたデジタルプレゼンテーション教育が据えられており、設計図から立体空間を描き出すスキルの育成に力を注ぐ。
この取り組みのキーパーソンが、同学科の教員であり、TTCの卒業生でもある村田涼氏だ。村田氏は、10年ほど前、自分自身が学んだ環境にShade3Dを導入した教師の言葉を引き合いに出し、「国産で、モデリングからライティング、レンダリングまで一貫して対応できる統合型ソフト」とその利便性を語る。
CAD図面から素材・色味・光源の設定を施し、3次元モデルとして構築できる点が、カリキュラム構成の面からも非常に使いやすいという。
入学直後からShade3Dでデザイン教育
インテリア科の1年生は、4月の入学直後からプレゼンソフトやCADの基本を習得。その後6月より、Shade3Dを用いた授業が本格始動する。
初期には椅子などの家具を3DCGで制作し、ソフトの操作性に慣れる段階からスタート。9月以降には、なにもない部屋の展開図上に学生各自のテーマやコンセプトに基づくインテリアをコーディネートしたCG作品を制作する。これにより、素材の選定、家具配置、空間表現といった実務的要素を自ら考え、表現する能力を身に付ける。
11月からは設計授業で描いた住宅図面の一部をCG化。最終的には1〜2月にかけて、一軒の平屋住宅全体のインテリアをトータルコーディネートし、完成したパースや俯瞰図を盛り込んだコーディネートボードを作成。これが1年次の集大成となる。
2年生になると、さらに高度な応用力が求められる。住宅の規模も二世帯住宅や2~3階建てといった複雑な構成に拡張され、建物外観や周辺環境まで含めた総合的なCG表現に挑む。
後期には進路に応じて「家具制作」か「3DCGプレゼンテーション」のいずれかを選択。村田氏が担当する後者では、Shade3Dを用いて自ら設計した住宅のウォークスルーアニメーションを制作し、インテリアの魅力を視覚的に伝える力を磨く。
Shade3Dという統合型3DCGソフトは、単なるスキルの習得にとどまらず、学生の想像力と表現力を飛躍的に引き出すツールとなっている。
村田氏は最後に、「Shade3Dには使い込むことで、どこまでもクオリティを上げられるようなポテンシャルがある」と語った。
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