人手不足が深刻化する中、西松建設の中期経営計画2023では設計施工案件での設計BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の活用による生産性向上を重視している。同社のBIM推進室では、RevitやDynamo、BIM360などオートデスクのBIMソリューションを活用し、施工ステップ図作成や土量計算などの自動化を進めている。同時に場所を選ばずBIMを活用できる環境を整備し、生産性向上と働き方改革の両立を目指している。
水平、垂直がない建物の施工管理で感じた2Dの限界
「1997年の入社以来、20年以上にわたって様々な建築工事で施工管理を行ってきました」と語るのは、西松建設 意匠設計部BIM推進室課長として同課の施工BIMグループを統括する岩崎昭治氏だ。
「円すいや球体の建物や、傾いた壁や垂直・直角のない建物は、2次元でいくつも断面を切ったり、2次元CADとExcelで座標計算をしたりして施工管理を行ってきましたが、次第に2次元の限界を感じるようになりました」(岩崎氏)。
西松建設は2018年4月に設計BIMを担当する部署としてBIM推進室と、新しい生産管理システムを検討する未来戦略課を立ち上げた。
さらに2020年1月にBIM推進室内に施工BIMグループを設け、同年6月には生産設計プロジェクト室、2021年4月には建設DX課を設け、BIMの活用は設計から施工へと着実に広がってきた。
こうした業務の中核として使われているのが、RevitやNavisworks、Autodesk Viewer、BIM 360などオートデスクのBIMソリューションだ。
BIM推進室の施工チームを率いる岩崎氏の役割は、設計フェーズから施工フェーズ、維持管理フェーズに至るまでBIMに関することは何でもやると言っても過言でないほど、幅広い。
一例を挙げると、社内からのBIM活用に関する相談から、個別物件でのBIMマネージャーなどとしての対応、施工BIMモデルの作成、さらには生産設計プロジェクトとの連携でファミリ整備やモデリングルール、ツールの開発も担っている。
BIMを活用できる人材育成も重要な任務だ。コロナ禍に見舞われた2020年度は、クラウド型eラーニングシステム「etudes」を使って、若手社員約300人にBIM研修を行った。
こうした取り組みの結果、2020年2月から2021年9月までの20カ月間で、現場にBIMモデルが利用されている物件は40件弱にものぼった。
在宅勤務でもBIMをチームで活用
コロナ禍でBIM推進室メンバーも在宅勤務が基本になっている。
業務の指示やタスク管理は、コラボレーションを可視化できるタスク管理ソフト「Microsoft Planner」で行い、社内外、国内外の会議はオンライン会議システムの「Zoom」を使用。また、会議以外は現場用のチャットシステム「direct」を使って、在宅勤務を行いながらも、メンバー間で積極的なコミュニケーションを図りながら業務を進めている。
「ZoomではRevitやAutodesk Viewer、などの画面を共有しながら、マークアップ機能を利用した注記を書き入れたり、修正部分はBIM360の画面をキャプチャーして指示したりしています」と岩崎氏は説明する。
「中でもAutodesk Viewerをはじめ、BIM 360 Docsなどのクラウドツールは使い方が簡単なので、50代のベテラン現場所長も20分ほどの説明で使えるようになります。本人が担当する工事のBIMモデルを示しながら『この部分の納まりが難しいのでは』『若手がミスしそうな部分を一緒に見つけましょう』といった実施工に密着した課題を示すと、話に食いついてきます」(岩崎氏)。
またAutodesk Viewerは、BIMモデルを見る視点を指定してURLで書き出せるので、現場や支店のメンバーがBIMモデルを活用するハードルが下がったという。
このほか、企業向けのSNSサービス「Microsoft Yammer」上では、AutodeskのポータルサイトBIM DesignやBIM関連情報を公開している。BIM情報を社内のBIM啓発情報として有効活用し、よい書き込みには社内から「いいね!」が付くようにするなど、在宅勤務下でもモチベーションが高まる工夫も行っている。
Dynamoで施工ステップ図作成などを内製化
BIM推進室ではDynamoを活用し、RevitやCivil 3Dなどの3Dモデリングやデータ集計などを自動化するツールの開発にも力を入れている。
施工順序を時系列で見たい時はNavisworksのタイムライン機能を使うと、4Dシミュレーションが作れる。しかし、特定の日時を指定して、そのときのBIMモデルを見たいときは、Revitで3Dの施工ステップ図を作った方が見やすい。
「しかしステップ図を外注すると、ステップが多い物件では作成費用がかさんでしまいます」と、西松建設関東建築支社 建築企画部計画課の塚本雄太氏は説明する。
そこで同社は、Revitで施工ステップ図を自動的に作れるプログラムをDynamoで開発した。
「このDynamoプログラムのおかげで、施工ステップ図の作成を内製化することができました。現場での施工スケジュールが1日変更になったときなど、従来はその都度、修正の工数や負担がかかっていましたが、今はExcelのCSVデータによってすぐに変更後のステップ図を作れます」(塚本氏)という。この施工ステップ図は、Autodesk ViewerやNavisworksによって見ることができる。
施工ステップ図を、日々の施工管理に使える「生きたデータ」として、現場に使ってもらえるようになったのもBIMに取り組んだ収穫の一つだ。
BIMモデルの効果を現場全員で活用
施工ステップ図は、施工管理者だけでなく協力会社の職長や作業員など、現場関係者全員が工程を理解し、作業の段取りを計画する上で欠かせないものだ。
そこで誰もが施工ステップ図を見られるように、パソコンやスマートフォン、タブレットなど、ユーザーの環境に応じてNavisworks、BIM 360、Autodesk Viewer/QRコードといったツールを使い、全くアナログな人には4コマずつ描き出した紙を現場に張る、という方法を採用した。
「安い費用で施工ステップが見える化できると、細かい説明がいらなくなるなど、作業の効率化や安全性向上に大きな効果を発揮します。社内でもこのプログラムを繰り返し使う社員が出てくるなど、好評です」と塚本氏は言う。
「このほか、現況地盤を点群データで計測してRevitに読み込み、掘削後の地盤面と比較して正確に土量を計算するプログラムや、現場で生コンクリートの発注量を計算するプログラム、墨出しをするプログラムなど20種類以上の機能をDynamoで開発しました。その結果、これらの作業効率は5~6割は改善されました」(塚本氏)。
「DynamoはExcelで言うと関数やマクロのような存在です。上手に使えば100の工数が1に減ることもあります。今後、人手不足の深刻化が予想されていますが、BIMもモデリングをDynamoで自動化することは、省人化に大きな効果があります」と塚本氏は説明する。
中期経営計画でもBIMに大きな期待
西松建設は2021年5月、2023年度までの経営戦略をまとめた「中期経営計画2023」を公表した。全社での業績目標は、2020年に3362億円だった売上高を2023年度には4000億円に、売上総利益は398億円を520億円に伸ばすことを掲げている。
中でも国内建築事業は売上高を1876億円から2100億円へ、売上総利益は180億円から200億円と大きな部分を占めている。
具体的な方向性は、物流施設や市街地再開発事業の設計施工を重点分野とし、「BIMを活用した施工効率の向上、コスト低減による競争優位の実現」が大きく位置づけられているのだ。
こうした経営計画を実現するため、BIM推進室ではBIMワークフローを「改革」としてとらえ、生産性の向上に努めている。2023年度は100%の物件でBIM活用を行うことを目標にしている。
「改革はマインドが重要です。ポジティブなマインドを維持し、社員や現場、支店とのコラボレーションを進めていきます」と、岩崎氏は語った。
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