東京鋪装工業(本社:東京都千代田区)は、宮城県内で施工中の交差点改良工事で、インフォマティクスと千代田測器の共同開発のMR(複合現実)システム「GyroEye Holo TS+」を実工事として初めて導入した。工事完成後の車線や歩道、排水溝などの3DCGを実寸大で現在の現場に重ねて見ることで、工事関係者はこれからの施工現場を誤差10mmという高精度でリアルにイメージできた。この結果、現場では未来を先取りする施工計画が実現した。
現場の変貌ぶりに現場技術者もビックリ
「ここに飛び出ている排水桝(ます)まで歩道が上がり、桝はその中に隠れるんだ」「分岐する道は意外と手前に移動し、歩道とここで交差するのか。仮舗装はここまでやればいいんだな」。
2022年10月、宮城県美里町で行われている国道108号の交差点改良工事現場では、MRデバイス「HoloLens 2」や「XR10」を身に着けた現場技術者が、驚きの声を上げていた。
この工事は、国道108号の交通渋滞を緩和するため、丁字路の交差点に右折レーンを設け、全長約220mにわたって道路を拡幅・改良するものだ。
道路の脇には将来の排水溝や排水桝が既に完成し、工事に備えて撤去されたガードレールの代わりにカラーコーンが立ち並んでいた。
図面や完成予想図を見ただけでは、現場がどこまで広がり、既存の道路と歩道がどこを通るのか、境界線はどこなのかを、想像するのは現場技術者でも難しく、東京鋪装工業にとって長年の課題だった。
そこで、導入したのが、インフォマティクスのMRシステム「GyroEye Holo TS+」だ。実際の現場に、同じスケール、同じ角度で3Dモデルや図面などを重ねてみるMRという技術に、トプコンの墨出し用測量機「杭ナビ」(Layout Navigator)を組み合わせたシステムである。
通常のMRは、現場のある場所に『マーカー』という目印を正しい位置に正確に置き、ここで現場と3Dモデルの位置を合わせる。マーカーの角度や位置がズレてしまうこともしばしばで、その際には念入りに位置合わせ作業を行うのが通常だ。加えて、マーカーからの位置が離れてしまうと、現場と3Dモデルのズレも大きくなってしまうという問題があった。
そこで、杭ナビによる既知点の設定後、その情報をMRデバイスに転送することで、マーカーを一切使わずに図面やモデルを正確に現実空間に重畳させつつ、ヘルメットに付けた『プリズム』と杭ナビで、MRデバイスの位置を高精度に追跡することにより、数十メートル移動してもズレが大きくならないように補正機能を実装したのが「GyroEye Holo TS+」なのだ。

GyroEye Holo TS+の仕組み。ヘルメットに付けた測量用のプリズムを、高精度な測量機「杭ナビ」で自動追尾することにより、広い場所でも図面やモデルの正確な自動重畳と、リアルタイムなズレの補正の両方を同時に行うことができる
「GyroEye Holo TS+を導入した結果、完成後の車線や縁石、歩道の位置や高さと、現在の現場がどんな位置関係になっているのかが、手に取るようにわかるようになりました。すでに完成している排水溝や排水桝は、本物とCGの区別がつかないほど、ピッタリ重なるのには驚きました」と、この現場で監理技術者を務める東京鋪装工業の野尻司氏は語る。
他の現場担当者も代わる代わる、MRデバイスを身に着けて現場の隅々を見て回った。
現場代理人の西野浩司氏は、官民境界線に張られているロープが、現在の道路からかなり離れているのを不思議に思っていた。そこでMRデバイスを着けて現場と完成予想モデルを重ねて見ると、その疑問が氷解した。
「なるほど、ここは道路が少し高くなり、盛り土ができる。その外側に排水溝ができて反対側の桝に流すから、その分の用地が取ってあるんだ」と、西野氏は納得の様子だった。

現在の道路からかなり離れたところに張ってある官民境界線ロープ。MRデバイスで完成予想モデルを現場で見ると、盛り土の下端に排水溝を設けるとロープのすぐそばまで構造物が迫っていることが、未来の現場に行ったかのように理解できた
「MRで全く新しい施工管理ができる」
東京鋪装工業は以前から、道路の改良や拡幅工事の着手段階で、工事の完成形状が把握しづらいことが課題だった。
「あらかじめ、正確な位置で完成形状が分かっていれば、施工計画はもっと効率化できるのにと、以前から感じていました」と語るのは同社DX推進室担当部長の白山公三氏だ。
そんなとき、東京都内で千代田測器(本社:東京都台東区)が測量機器の展示会を開催した。そこでたまたま目にしたのが、MRデバイス「HoloLens」とトプコンの「杭ナビ」を連携させる「GyroEye Holo TS+」だった。
「この技術なら、工事現場が変わる。全く新しい施工管理が実現できると直感し、すぐにシステムを導入しました」(白山氏)。
その後、同社では群馬県高崎市内にある生産技術部で、舗装工事現場への導入を想定し、屋外で検証を行っては結果をインフォマティクスにフィードバックし、さらに高精度を追求していった。
「数十メートルの距離を移動しても、杭ナビが最終的には、5~10mm程度のズレで、現場と3Dモデルを高精度に重ね合わせる『重畳(ちょうじょう)』を行うことができました。位置合わせのためのキャリブレーションも簡単でした。これで現場でも使えると確信しました」と白山氏は振り返る。

ヘルメットにプリズムを付け、杭ナビで追尾することで、数十メートル移動しても高精度にMRデバイスの位置を割り出せる(左)。現場のマーカーと、MRデバイスのマーカーのズレは、5~10mm程度しかなかった(右)
炎天下の遊歩道現場で長距離精度検証
2022年の夏には、ある遊歩道の建設現場で、炎天下のもと、全長550mの区間で遊歩道の完成モデルと現場がちゃんと重畳できるのかを検証した。
「風もない日だったので、日傘でMRデバイスを覆って温度上昇による熱暴走を防ぎながらの作業でした。1時間の連続使用に耐えることができました」と白山氏は言う。
その結果は良好で、現場で設置済みの縁石や路盤面と、MRデバイス上に映し出された遊歩道の3Dモデルがピタリと重なった。
「施工全長にわたって通りや高さに、ほぼズレはなく、縁石も正しく設置されていることが確認できました」(白山氏)。
この現場では、実際の道路現場ならではの制約条件もあった。それは杭ナビの位置を割り出す「後方交会法」に必要な2つの既知点だ。
「現場の両端と杭ナビが正三角形に近くなるようにするのが理想的ですが、この現場では全長550mの遊歩道に対して、わずか55mほどしか離れておらず、しかも遊歩道に並行する2点を使いました。それでも、遊歩道の全長にわたって高精度を確保できました」と白山氏は言う。
こうした地道な改良と検証を経て、ついに冒頭の美里地区交差点改良工事の実工事で、GyroEye Holo TS+を施工管理に活用できるまでになったのだ。
MRの導入で施工管理が変わり始めた
GyroEye Holo TS+の導入以降、東京鋪装工業の施工管理が変わり始めた。まずは工事を行う際の交通規制や施工状況を、施工前から現場のリアルな雰囲気の中で、確認できるようになったことだ。
同社では以前から、現場の点群データ上に、建設機械のほか、カラーコーンや交通誘導員などの3Dモデルを配置して、交通規制や施工状況を検討していた。
その3DモデルをMRデバイスに入れて、現場で重畳してみることによって、現場を行き交う車のスピードや間隔を、施工本番と同様にリアルに検討できるようになったのだ。
ある現場では、新しいトンネルが開通することにより、道路の付け替え工事を行うことになった。これまでは、図面などで新しい道路の位置を地元の関係者に説明していたが、それをMRデバイスによって現場で体験できるようにしたのだ。
地元住民は、新しい道路が完成した後の風景を3Dでリアルに見ることで、車の出入りや駐車はどうしたらいいのかといった細かいことも、事前にイメージし、準備しておくことができる。道路開通後になって、急にあわてることがないので、地元満足度の高い合意形成ができそうだ。
また、東京都世田谷区の歩道整備工事の立会検査では、カラー舗装や点字ブロックの施工前に、発注者がMRデバイスを装着し、完成後の点字ブロックの位置などを現場に立って確認してもらった。
横断歩道と点字ブロックや「ボラード」と呼ばれる防護ポールの位置関係などが分かりやすいと、発注者にも好評だった。
今後、同社ではさらに「GyroEye Holo TS+」とタブレット端末を使って、バックホーで掘削する際のマシンガイダンスに利用するほか、仮設構造物の位置出し、そしてシンプルな線図によるCADデータを使った位置出しなどにも活用していく方針だ。
東京鋪装工業取締役執行役員で東北支店長を務める滝上範美氏は「3Dモデルを高精度かつ実寸スケールで現場に投影できるGyroEye Holo TS+は、大きな生産性向上が期待できます。その狙いは、社員の負担を減らし、仕事を楽に楽しくし、働き方を変えることにあります」と、語った。
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