準天頂衛星「みちびき」、HoloLens2、BIM/CIMを連携
MRによる造成現場の施工管理に挑戦(インフォマティクス)
2021年3月5日

インフォマティクスは鴻池組と、準天頂衛星「みちびき」の位置補正情報をMR(複合現実)デバイスで活用し、造成現場に合わせて完成形の3Dモデルを実寸大で表示する実証実験に成功した。リアルな現場とバーチャルな3Dモデルの位置合わせを、GNSS(全地球測位システム)衛星からの電波だけで行えるようになり、MRの活用範囲が大規模工事や海洋工事、社会インフラの維持管理などへと大きく広がった。

三重県度会町で施工中の造成現場にMRデバイスによって完成形の3Dモデルを重ねてみたところ(左)。MRデバイスを着けた技術者のヘルメットには、準天頂衛星「みちびき」などからの電波を受信する受信機が取り付けられている(右)

   広大な造成現場と3Dモデルがスムーズに連動

三重県度会町で施工中の造成現場に、MRデバイス「Trimble XR-10」を着けて立ったのは内閣府 宇宙開発戦略推進事務局 準天頂衛星システム戦略室の企画官、飯田洋氏だ。

「盛り土の法肩や小段が、3Dモデルとピッタリ合っていますね。首を左右に振って見回すと、現場に合わせて3Dモデルもスムーズに追従します」と、飯田氏は驚きを隠さなかった。

みちびきと連動したMRデバイスを現場で検証する飯田氏(左)。そのヘルメットには「みちびき」対応のアンテナと受信性能を上げるための丸い金属板が付いていた(右)

MRデバイスを通して見た現場の風景。造成が終わった法面や小段なども3Dモデルとぴったり合って表示された

準天頂衛星「みちびき」を使ってMRデバイスの位置を公共座標系によって高精度に測定し、3Dモデル(BIM/CIMデータ)と位置合わせするイメージ図

今回の現場では、GNSS衛星を使って公共座標によってMRデバイスと3Dモデルを位置合わせしている。その精度を一段と高めているのが、準天頂衛星「みちびき」なのだ。

数あるGNSS衛星の中でも「みちびき」は日本のユーザーにとって特別な存在と言える。それは国土交通省国土地理院が整備する電子基準点で受信した電波から計算した位置補正情報を、みちびきから日本向けに発信する仕組みを備えているからだ。

そのため、補正情報を別途、通信設備を用いて使うことなく、GNSS衛星からの電波だけで10cm単位の高精度で位置計測が行える。

この仕組みは「センチメータ級測位補強サービス(CLAS)」というもので、2018年11月に運用が始まり、2020年11月30日にシステム増強が図られたばかりだ。しかもありがたいことに、無料で使える。

準天頂衛星「みちびき」のイメージ図

センチメータ級測位補強サービス(CLAS)の仕組み。電子基準点の補正情報をみちびきを使って、宇宙から送信する

   みちびきとMRデバイスを連携

今回、現場で行われたのは、みちびきとMR、そしてBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)/CIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)の3Dモデルを連携させる実証実験だ。

内閣府とCLASサービスを提供する準天頂衛星システムサービス株式会社が、2020年5月から7月にかけて公募した「みちびきを利用した実証事業」にインフォマティクスが応募し、採択されたことで実現した。

実験に使用したMRデバイス「Trimble XR-10」は、「Microsoft HoloLens2」をヘルメットと一体化したものだ。

MRデバイスを使って、実物の現場上に構造物などの3Dモデルを重ねて表示するとき、欠かせないのが位置合わせだ。これまでは現場と3Dモデルの双方に原点となるマーカーを置き、これを重ね合わせることで位置合わせを行っていた。

しかし、造成現場のように広大な工事では、規模や地盤の形状が常に変化するため、マーカーやトータルステーションによる位置計測は難しい面がある。

現実空間と3Dモデルの位置合わせに使われるマーカーの例

そこで、ヘルメットの上にみちびきなどGNSS衛星からの電波を受信するアンテナを取り付け、受信機でリアルタイムに公共座標による位置情報を把握。そのデータをWi-Fi経由でMRデバイスに送り、公共座標に合わせた3Dモデルと重ねて表示するという方法をとった。

「造成現場では延々と土砂の面が続くため、MRデバイスのカメラ映像によってマーカーからの位置の追跡も行いにくい、位置を見失ってしまう『ロスト』という現象も起きやすくなります。そこでGNSSによる位置合わせができれば、こうした問題は一気に解決できます」と、HoloLens2用のMRシステム「GyroEye Holo」を開発するインフォマティクス事業開発部マネージャーの金野幸治氏は説明する。

実験で使用した3Dモデルは、造成現場の完成形状をCIMソフト「Autodesk Civil 3D」でモデル化したものをFBX形式に書き出し、インフォマティクスの「GyroEye Holo」でMR用に変換した。

3Dモデルは現場でICT建機にインプットして造成作業に使えるほど高精細なデータだったが、数メガバイトのサイズに収まった。

また、マシンコントロールでも利用される緯度経度情報2点だけを、あらかじめCIMデータに持たせておき、広大な現場内は勿論、現場外のどこでも素早くキャリブレーションを行って位置合わせができるように実装した。

加えて、近隣の樹木等や、ヘルメット上部につける受信機の向きによっては、みちびきの情報が取得しづらい場合があるが、その場合でも、みちびきの精度を担保するために「空間アンカー(Microsoft Azure Spatial Anchors)」を用いて常時みちびきの情報にアクセスできるようにした。

   50m近い盛り土や切り土を実寸で体感

この現場では、出力72MWの大規模ソーラー発電所、「宮リバー度会ソーラーパーク」を建設するための造成工事を行っている。97.7haの現場は約2kmにわたり、600万m2もの盛り土・切り土が行われ、それぞれの高低差は50m近くにもなる。

現場には8カ所の調整池が設けられ、最大級の110トン級ICTブルドーザー2台などを活用して、ICT土工が大々的に行われている。

97.7haの規模で行われている「宮リバー度会ソーラーパーク」の造成工事現場

造成工事の3Dモデル。ICT建機による施工にも使われた

元請け会社である九電工の下で造成工事を担当する鴻池組 度会ソーラーパーク工事事務所の牛嶋浩一朗所長は「造成現場の高さや勾配などのスケール感は、長年の経験がないと2次元の図面だけではなかなかわかりません。その点、着工前の現場調査のときなどにMRで未来の現場を見られると、熟練者でなくても仮設道路などを適切に計画できます」と、屋外の現場でMRを活用できるメリットを語る。

現在の地盤面と完成面との高低差も、MRデバイスを使って計測できるので、3Dモデルによる現場把握だけでなく、定量的な土量計算などにも活用できる。

造成現場でMRデバイスの使用感を試す鴻池組の牛嶋所長ら

盛り土や切り土の高さはそれぞれ50m近くにも達するため、MRによって今後、地形がどう変化するのかを実寸大で確認できるメリットは大きい

現在の地盤面と完成後の地盤面の高低差をMRデバイスを使って計測することも可能だ

「盛り土や切り土の作業では、粗仕上げ段階までなら50cm程度の精度があれば十分なので、みちびきの位置情報を使ってスピーディーに作業を行い、最後の仕上げ段階だけ基準局のデータを使ってセンチメートル単位の精度が出せるRTK-GNSSを使うようにすれば、生産性が上がりそうです」と牛嶋所長は言う。

このほか、雪道の除雪作業や目印のない海洋土木工事など、みちびきとMR、3Dモデルの連携で生産性向上を実現できる現場はいろいろとありそうだ。

実証実験に参加した技術者たち

【問い合わせ】
株式会社インフォマティクス 事業開発部
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〒212-0014 川崎市幸区大宮町1310 ミューザ川崎セントラルタワー27F
TEL:044-520-0847
ホームページ www.informatix.co.jp/gyroeye
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メール gyroeye@informatix.co.jp

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