大阪・淀川堤防沿いに高速道路建設を進める大阪市は、ESRIジャパンの地理情報システム(GIS)であるArcGIS Online(以下、ArcGIS)で建設計画をデジタルツイン化。地図上にBIM/CIMモデルや図面、現場映像などを整理した。現在の進ちょく状況をリアルタイムに把握、共有できるほか、4Dシミュレーションによる工程予測に役立てている。今後は他プロジェクトとの調整、防災対策にも活用を広げることも視野に入れている。
工区の状況をリアルタイムに把握、共有
「ArcGISの地図上に、構造物の3Dモデルや図面とともに、工程やリスク、課題、事業費を表示できるので、事業を管理するうえで必要となる基本的なデータを関係者がすぐに確認できます。また現場のリアルタイム情報を、ライブカメラ映像を通じて常に把握できます」と語るのは、大阪市建設局 淀川左岸線2期建設事務所設計課担当係長の藤田庸介氏だ。
大阪市では淀川の左岸堤防沿いに、高速道路となる「淀川左岸線(2期)工事」を進めている。
隣接する淀川左岸線延伸部(8.7km)ともに、将来は大阪都市再生環状道路の一部となり、大阪ベイエリアと大阪圏の主要高速道路を結ぶ大動脈となることが期待されている。
「全長4.4kmの工区には、阪神高速道路3号線や供用済みの淀川左岸線につながる橋梁区間の海老江ジャンクション、掘割区間、そして堤防下を通るトンネル区間などが含まれています。発注者として工区全体の進ちょく状況をリアルタイムで把握し、事務所職員間や施工業者、建設局の本局と情報共有するための情報プラットフォームとして、ArcGISの導入を決めました」(藤田係長)は言う。
過去から未来までの工程全体を関係者間で共有
ArcGISを使って、この工事の情報共有システムを構築したのは、建設コンサルタントの建設技術研究所(本社:東京都中央区)だ。
「ArcGISの存在を知ったのは、2年前の社内研修会でした。他部署がArcGISにBIM/CIMの3次元データを重ね合わせ、施工ステップを時系列で再現した事例を発表したのです。これを見て、事業監理やコンストラクションマネジメント業務に活用できると確信しました」と建設技術研究所 東京本社CM施工管理センターの田代晃一氏は振り返る。
「その後、ArcGISについて調べたところ、ノーコードでアプリ開発ができるなど、やりたいことが比較的簡単に実現できる可能性があることが分かり、導入することになりました」(田代氏)。
現在、ArcGISでは、地図上に海老江ジャンクションの3Dモデルや掘割区間、トンネル区間を約60個の部分に分けて表示し、それぞれ「事前準備」「支障撤去」「仮設工」「土工」「基礎工」など、進ちょく度によって色分け表示されている。
各部分の色は、工程表とリンクしており、ArcGIS上の「タイムスライダー」を動かすことで、年・月・日に応じて色分けが変わるようになっている。そのため、将来の現場状況を一目瞭然で理解できる。他の工事関係者も、画面上でタイムスライダーを動かして確認できるので、工程全体にわたる情報を簡単かつ確実に共有できるのだ。
また、リスクや課題などの情報も、随時、地図と相互リンクして追加できる。そのため、課題の一覧表から地図に飛んで位置を確認したり、地図上のある部分にどんなリスクや課題があるのかを参照したりすることも簡単だ。
「従来の紙ベースでの情報共有から、クラウドに移行するための教育訓練の手間もほとんどありませんでした。事業についての情報を閲覧するだけなら、画面構成がシンプルなため2~3回使っているうちにわかってきます」(藤田氏)という。
ArcGISには、工区内の約40カ所に設置したライブカメラのリアルタイム映像もリンクされている。そのため、各現場で今、どんな作業が行われているのかを、事務所にいながら把握することができる。
「180日間はクラウドで映像データが残っているので、なにか施工上のトラブルなどがあったときに後から確認でき、トレーサビリティーのツールとしても活用できます。台風や洪水などの時も、事務所にいながら各現場の状況を把握でき、いざ出動という時の判断にも役立ちます」と藤田氏は言う。
大阪市建設局のDX戦略をArcGISが後押し
ArcGISの特徴は、情報を追加したり、情報共有の範囲を広げたりすることが柔軟にできることだ。大阪市建設局では今、建設プロジェクトに関する情報伝達や連絡を省力化するため、積極的にDXに取り組んでいる。
その情報活用のメリットを、市役所の業務だけでなく、市発注の設計や工事の受注者や、一般市民などのステークホルダーにも広げていこうとしている。
その一例は、2025年に開催される大阪・関西万博だ。「淀川左岸線2期工事の完成予定は2032年度ですが、万博開催時にはアクセスルートとしても位置づけられており、建設中区間を暫定的に利用してもらい、来場者の移動などに貢献できるよう、ArcGISを使って工程などの管理を綿密に行いながら工事を推進していきたいと思います」と藤田氏は言う。
ArcGIS上では現在、各工区が2次元で色分け表示されているが、今後は3次元モデル化して、工事の進ちょくをより分かりやすくすることも計画しているという。
実践的で誰もがメリットを享受できる大阪市のArcGIS活用は、他の自治体のDX化にも大いに参考になりそうだ。
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