鹿島がArcGISで全現場に気象・災害情報を配信! 台風や地震、洪水の情報をリアルタイムで(ESRIジャパン)
2022年10月4日

鹿島建設株式会社(以下、鹿島)はESRIジャパンの地理情報システム「ArcGIS」に、最新の気象、災害情報をリアルタイムで連携した「オンラインハザードマップ」を開発し、すべての工事現場や事業所などに情報配信している。気象や地震の震度などの情報は、各現場の条件に合わせてカスタマイズされているため、一般の天気予報や震度よりも予測精度が高い。そのため、コンクリート打設の可否や、地震時の対応もスピーディーかつ適切に行える。同システムを開発した技術者を直撃取材した。

オンラインハザードマップで地震の震度を表示した例。首都圏の工事現場や本支店における震度が一目でわかり、発災後の対応策を検討できる

オンラインハザードマップで地震の震度を表示した例。首都圏の工事現場や本支店における震度が一目でわかり、発災後の対応策を検討できる

 全現場にカスタマイズした気象情報を配信

「鹿島の全現場には72時間先までの雨、風、熱中症の予報や10日先までの台風進路予測など、カスタマイズされた気象情報が配信されています。そのため、個別に気象予報会社と契約する必要はありません」と、鹿島技術研究所 都市防災・風環境グループ BCP・リスクマネジメントチームリーダーの高井剛氏は語る。

鹿島は2019年から、日本国内のすべての現場や本支店、竣工物件をカバーする「オンラインハザードマップ」というシステムを運用している。基盤となっているのは、ESRIジャパンのGIS(地理情報システム)「ArcGIS」のエンタープライズ版だ。これはWebベースのGISであり、特別なアプリがなくてもWebブラウザーでオンラインハザードマップにアクセスできることが特徴だ。

地図上に鹿島の拠点や施設をプロットして、その上に災害時の被害や現場運営に影響を与えるハザード情報を重ね、天候や風など時々刻々と変化する情報はリアルタイムに更新できるようになっている。

また、各拠点のポイントをクリックすると詳細情報も確認できるようになっている。

平常時には熱中症の予防やコンクリート打設の計画など、現場運営に役立つ情報のほか、地震時の液状化想定や津波による浸水深など避難計画の準備に役立つ情報を一目で確認できる。そして、災害が発生した時には地震の震度や構造被害推定、河川の洪水予報も見られるのだ。まさに、各拠点のハザード情報が1つの画面に集約された「ダッシュボード」だ。

ArcGISをベースに開発したオンラインハザードマップの構成イメージ

ArcGISをベースに開発したオンラインハザードマップの構成イメージ

オンラインハザードマップ上で確認できる情報。平時の現場運営や計画に役立つ情報のほか、災害発生時には地震の震度や災害速報、河川の洪水予報など多数のハザード情報が一元管理されている

オンラインハザードマップ上で確認できる情報。平時の現場運営や計画に役立つ情報のほか、災害発生時には地震の震度や災害速報、河川の洪水予報など多数のハザード情報が一元管理されている

 24時間の防災体制と働き方改革を両立

大きな地震が起こったとき、社内の被害状況を把握するため、建設会社などでは本社スタッフが各現場に電話やメール確認することがよく行われてきた。

しかし、オンラインハザードマップでは平時の各拠点のハザード情報はもちろん、各現場の被害状況が地震直後にほぼ正確に把握できるようになっている。

たとえば茨城県つくば市にある国立研究開発法人防災科学技術研究所からの震度情報と、鹿島が独自開発した構造被害推定システムを使うと、「構造被害あり」と推定した場合の的中率は70%にも上るという。

地震直後には各現場の震度や構造被害の有無がわかる。南海トラフ地震を想定したBCP訓練での画面例

地震直後には各現場の震度や構造被害の有無がわかる。南海トラフ地震を想定したBCP訓練での画面例

鹿島では、現場などで震度6弱以上の地震に見舞われたとき、本社や支店のスタッフを含めた災害対策本部を立ち上げることになっている。日本全国に現場があるため、勤務時間外に大きな地震が起こることもよくある。

2019年6月18日の夜8時過ぎ、山形県で地震が起こり、気象庁は「最大震度6強」と発表した。当時、鹿島は山形県内でトンネルや工場など、数件の工事を行っていた。場合によっては、災害対策本部の立ち上げが求められることもある。

地震が起きた際は各現場の震度情報をメールで配信している。当時、メールを確認したところ各現場の震度はどこも5未満ということがわかった。

2019年の地震の際の震度通知メール

2019年の地震の際の震度通知メール

「おかげで、その夜は帰宅した後に本社や支店のスタッフが職場に戻るという“空振り”を防ぐことができました。24時間態勢の防災と働き方改革を両立できるのも、このシステムのメリットですね」と高井氏は振り返る。

 「降水なし」予報の的中率は97%に

オンラインハザードマップの情報は、各現場の位置や地形を考慮してカスタマイズされているので、気象予報などの精度が高いのが特長だ。

「たとえば、コンクリート打設工事に重要な『降水なし』の予報の的中率は、一般の天気予報が80%台なのに対し、オンラインハザードマップは97%にも上ります」と高井氏は胸を張る。これだけ精度が高いと、コンクリート打設のスケジュール計画も安心し、雨が降ってきたために仕切り直しという手戻りもかなり減りそうだ。

また、台風の進路予測には、信頼性の高いヨーロッパ中期予報センターの気圧配置情報をもとに計算したものを用いている。

「たとえば2020年の台風14号は、本州にかなり接近後、まるでUターンするように南下するという、変わった進路をたどりました。テレビの天気予報では、なかなか進路予測が当たりませんでしたが、ヨーロッパモデルはちゃんとその動きを予測できていました」(高井氏)。

台風の進路予測には気象庁の情報のほか、ヨーロッパモデルに基づく進路も採用し、精度の向上を図っている

台風の進路予測には気象庁の情報のほか、ヨーロッパモデルに基づく進路も採用し、精度の向上を図っている

「天気や自然災害などの情報は、職場だけでなく、自宅や出先からでもパソコンやスマートフォンで見られるようになっています。1日の生活を考えると、職場以外の場所にいる時間の方がずっと長いですからね」(高井氏)。

 ArcGIS Enterpriseを選択!

鹿島では、以前から研究用のGISツールとしてデスクトップ版のArcGISを導入していた。そして2017年にオンプレミスサーバーを通じて全社で使えるエンタープライズ版のArcGISを導入し、オンラインハザードマップを開発した。リアルタイムのハザード情報を取り扱うためにはエンタープライズ版の利用が不可欠であった。

「ArcGISを選んだ理由は、外部の気象・災害情報などをリアルタイムで取り込める機能にありました。APIなどで他システムと連携するケースも多くありましたが、ESRIジャパンの技術者は、ArcGISを熟知しているのでできること、できないことが即座に分かり、スピーディーな開発につながりました」と、高井氏は語る。

オンラインハザードマップは、鹿島が地震などの災害発生を想定して行っているBCP(事業継続計画)訓練などで、約2年間テストを行った結果、その実用性が認められた。そして2019年にクラウドサーバーを用いて正式運用が始まったのだ。

BCP訓練で使われたハザードマップの機能。首都圏の道路が地震によって通行不能になったとき、埼玉県さいたま市にある支店から神奈川県横浜市にある支店に支援物資を送るルート(黄色の線)を自動検索した例

BCP訓練で使われたハザードマップの機能。首都圏の道路が地震によって通行不能になったとき、埼玉県さいたま市にある支店から神奈川県横浜市にある支店に支援物資を送るルート(黄色の線)を自動検索した例

 SNSの情報も有効活用へ

2021年7月3日に静岡県熱海市で発生した土石流災害をはじめ、最近の自然災害ではSNSにアップされた被災地の写真や動画が、被害状況の把握に大いに役立つこともある。

鹿島ではSNSの防災情報も活用して更にBCPを強化している。

Spectee社の防災SNSデータ「Spectee on GIS」はSNSに投稿された写真の位置をAIで割り出し、フェイク情報を排除して、ビジネス向けに活用できるようにして提供している。

鹿島技術研究所 都市防災・風環境グループ BCP・リスクマネジメントチーム研究員の古川大志氏は「Spectee社のSNS防災情報をオンラインハザードマップ上に表示できるようにして頂きました。今回、物資輸送ルートを検索する際にもSNSに投稿された通行止めの情報を活用しています。」と語る。

SNSに投稿された被災状況の写真をオンラインハザードマップ上にプロットしたイメージ

SNSに投稿された被災状況の写真をオンラインハザードマップ上にプロットしたイメージ

地球レベルの気象情報や災害情報を、各現場で活用できるようにカスタマイズし、さらにはSNSの外部情報も取り込んで、一つのシステムで見られる鹿島のオンラインハザードマップは、災害大国である日本の建設現場に大きな安心感を与えてくれそうだ。

鹿島技術研究所本館前にて。古川大志氏(左)と高井剛氏(右)

鹿島技術研究所本館前にて。古川大志氏(左)と高井剛氏(右)

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ESRIジャパン

(本社)
〒102-0093
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