建設DX時代の工程管理シリーズ(2)
データドリブンな工程管理で工期は3割短縮できる(ウェッブアイ)
2022年10月3日

本格的な生産性向上に乗り出した建設会社では、工程管理を“KKD(経験・勘・度胸)から“データドリブン”へと切り替え始めた。従来のガントチャートやネットワーク工程表を、ソフトウエアで管理することで、「手待ちのムダ」「過剰作業のムダ」「工程の余裕時間のムダ」など、見えないムダを排除するだけで、工期を3割短縮できた例もある。

工程管理を“データドリブン”化するソフト「工程’s」の画面。従来のバーチャートで1本とされてきた工程は、実は数多くの作業からなり、さらに「手待ちのムダ」などを削減できる余地があることがわかる

工程管理を“データドリブン”化するソフト「工程’s」の画面。従来のバーチャートで1本とされてきた工程は、実は数多くの作業からなり、さらに「手待ちのムダ」などを削減できる余地があることがわかる

   作業時間の見直しで工期を3割短縮

今後、ますます人手不足の影響が厳しくなる建設業界では、施工管理業務のテレワーク化による“移動のムダ”削減の効果が認識され始めた。そして生産性向上に取り組む建設会社の間ではさらに、プロジェクトの中に潜む“見えない時間のムダ”を削減する取り組みが始まりつつある。

工事現場ではいまだに従来のバーチャートやガントチャートを、表計算ソフトやCADを使って「作図」し、工程管理に使っているところが多い。より精密に工程を管理するためには、工期に重要な影響を及ぼす一連の作業からなる「クリティカルパス」や最短工期を算出できるネットワーク工程表も活用した管理が必要になってくるだろう。

各作業を矢線で表し、作業順序や作業日数、工期に対する余裕などで最短の工期を管理できるネットワーク工程表のイメージ

各作業を矢線で表し、作業順序や作業日数、工期に対する余裕などで最短の工期を管理できるネットワーク工程表のイメージ

「工程’s」などのプロフェッショナルな工程管理システムを長年、開発・販売するウェッブアイ(本社:東京都江東区)の代表取締役社長、森川勇治氏は「確かにネットワーク工程表で管理すると最短の工期を目指すことができますが、さらに3割も工期を短縮する方法があるのです」と語る。

ウェッブアイ代表取締役社長の森川勇治氏

ウェッブアイ代表取締役社長の森川勇治氏

その秘訣(ひけつ)は、各工程の作業時間の設定にある。天候や作業員の技量など、不確定な要素に左右される建設工事は、予定通りの作業時間で終わることは少ない。そのため、各工程には「サバ」と呼ばれる余裕時間を見込んでいる。

少し、チャレンジングな現場だと、「CCPM」(Critical Chain Project Management)という工程管理を行っている。各工程の作業が終わる確率が半々となる時間を「ゴジュウゴジュウ」(50:50の意)で設定し、予定通りに終わらなかった場合は、工事全体の余裕時間である「プロジェクトバッファー」でカバーするという方法だ。

 チャレンジングな現場の工程計画イメージ。上段のように工程ごとに見込んでいた「サバ」を、工事全体の「バッファー」として管理し、トラブルが発生した時は、バッファーでカバーすることにより、工期の遅れを防ぐ

チャレンジングな現場の工程計画イメージ。上段のように工程ごとに見込んでいた「サバ」を、工事全体の「バッファー」として管理し、トラブルが発生した時は、バッファーでカバーすることにより、工期の遅れを防ぐ

工程管理ソフト「工程’s」では、工事全体のバッファーを考慮することができる

工程管理ソフト「工程’s」では、工事全体のバッファーを考慮することができる

「しかし、自分が担当する工程が予想以上に早く終わってしまったとき、その時間を“返還”することはありません。制限時間を目いっぱい使って、必要以上に丁寧に仕上げたりして過剰作業のムダが発生しがちです」と森川氏は言う。

「そこで、各工程の作業時間を常に最短で見積もるのです。もちろん、バッファーは十分に用意しておきます。すると、所定のスペック通りの作業ができれば、過剰作業を行うことなく、すぐに次の作業に移ろうという気持ちになります。私はあるプロジェクトでこの方法を使い、当初予定の納期を3割削減したことがあります」(森川氏)。

つまり各工程の作業時間を「ゴジュウゴジュウ」でではなく、プロゴルファーレベルの「パー」で見積もろうというのだ。適正な品質の作業を適正な時間で完了するようになれば、過剰品質をなくす効果もある。工期が3割も削減できるというのも、納得できる話だ。

   コンカレント型の工程で“手待ちのムダ”を削減

これまでの工程管理は、紙や表計算ソフトで扱えるレベルの粒度の粗いものだった。そのため一度に同時に管理できるのは、10個程度の工程にとどまっていたのではないだろうか。

そこで工程管理は、ある業者の作業が終わってから次の業者が入るという「ウオーターフォール型」にならざるを得なかった。工程計画が立てやすいという理由もある。

例えば、電気工事が終わってから設備工事を行うといった工程管理だ。電気工事の途中には電気の供給を始める「通電」というタイミングがある。これまでは工程管理の粗さのため、通電などの細かい工程が、現場内で共有されることが少なかった。

その結果、「現場にはもう電気が通っているのに、工程計画に忠実に従うと設備工事が始められない」「通電のタイミングがわかっていれば、それから逆算して早めに設備を取り付けられたのに」というように、工程管理の“粗さ”のために現場では数々の目に見えない「手待ちのムダ」が発生してきたのだ。

しかし、クラウド連携できる工程管理システムを使うと、工程を細かくブレークダウンし、現場内で共有できるようになる。前工程が完全に終わる前に、次工程を並行して着手する「コンカレント型」の施工管理が可能になり、手待ちのムダをなくして工期短縮に繋げることができる。

従来の工程管理手法だと「ウオーターフォール型」(上段)のようになりがちだったが、工程を細かく管理すると前工程の途中で後工程に着手する「コンカレント型」(下段)のような工程管理が可能になり、工期を短縮できる

従来の工程管理手法だと「ウオーターフォール型」(上段)のようになりがちだったが、工程を細かく管理すると前工程の途中で後工程に着手する「コンカレント型」(下段)のような工程管理が可能になり、工期を短縮できる

例えば、ある火力発電所の定検(年次シャットダウンメンテナンス)は、従来300工程で管理されていた。表計算ソフトを使って人間が管理できるのは、それが限界だったのだ。

しかし、ウェッブアイの工程管理ソフト「工程’s」を導入した翌年には、工程が1万2000工程に細かく分割して管理されていた。実に、以前の40倍の工程数に細密化されている。

「工程が細かく分割されたことにより、工程の将来予測が正確化したので、リスクも減りました。さらに工程をクラウドで共有できる『Planow』を使ってプロジェクト関係者間で最新の工程を共有できるようにしたことで、前工程の途中で後工程を始めるコンカレント型の作業が増え、2割の工期短縮につながりました」と森川氏は言う。

「工程’s」によって工程を細かく分割して管理し、現場内で情報共有すると、前工程の途中で後工程を始める「コンカレント型」施工管理が行いやすくなる

「工程’s」によって工程を細かく分割して管理し、現場内で情報共有すると、前工程の途中で後工程を始める「コンカレント型」施工管理が行いやすくなる

「Planow」による工程計画の共有イメージ。各業者は自分たちの作業をいつから始められるのかがリアルタイムにわかる

「Planow」による工程計画の共有イメージ。各業者は自分たちの作業をいつから始められるのかがリアルタイムにわかる

もちろん、点検作業中に思わぬトラブルや遅れも発生する。その時は、1万2000にも及ぶ工程を見直さなければならない。手作業だと頭を抱えてしまう作業だ。

「工程’sなら、ワンクリックで以後の工程をリスケすることができます。1万2000工程といえども、工種別、業者別など様々な視点で、自分が必要とするところだけを取り出して見られるので、問題はありません」(森川氏)。

工程計画情報がデジタルデータ化されているからこそできる、緻密な工程管理と言えるだろう。

   超複雑化する工程の最適解に迫る

工程管理は各工程の順序や作業時間、人員の配置などが絡む非常に複雑な問題だ。その正解は、コストなのか、工期なのか、それとも安全か、または実行性か、KPI(重要業績評価指標)として何を重視するかによっても変わってくるのだ。

しかし、非常に複雑な問題だけに、工程管理(スケジューリング)は数学界で50年以上にもわたって、高度な論争が続いている「P対NP問題」の具体例として取り上げられているほどだ。

「正解を見つけることはできませんが、正解に迫ることは可能です。山崩し(リソースの平準化)を行う優先順位をランダムに変更しながら、コンピューターによって数千回、数万回も繰り返すことで、工程を縮めることは十分に可能です」と森川氏は言う。

繰り返し検討に使われるのは、乱数を使って工程を変化させる「モンテカルロ法」や、生物の進化を模倣してよりよい結果を導き出す「遺伝的アルゴリズム法」などだ。施工管理の実務にはほとんど出てこないこれらの理論まで採用した同社設計のスケジューリングエンジンが、究極の工期短縮を実現するのである。

ウェッブアイの自動スケジューラー「オシカオラーリオ」は、「工程’s」や各種工程管理システムと連携し、こうしたシミュレーションを数万個の作業に対して1分単位で行うことができる。

オシカオラーリオで、人員による制約を考慮して、最適解に迫る工程計画を作った例。上のグラフでは各人員に過負荷を示す赤い部分があるが、下のグラフでは過負荷が解消している

オシカオラーリオで、人員による制約を考慮して、最適解に迫る工程計画を作った例。上のグラフでは各人員に過負荷を示す赤い部分があるが、下のグラフでは過負荷が解消している

「人員や時間の制約を考慮したり、決められた工期からの逆算で工程を計画したりと、多彩なスケジューリング機能を搭載しています。これまではソフトウエア開発や機器の受注生産などのスケジューリングで使われてきました。これからは建設業でも使えるでしょう」と森川氏は説明する。

   超複雑な工程管理をBIM/CIMで可視化

本格的な工程管理ソフトを使って、工程を細かく分割管理することで、工期短縮に大きな効果をもたらすことができることはわかった。

しかし、工程の数が人間の頭では管理しきれないほど増えるのも事実だ。それを人間がしっかりと理解し、把握するためにウェッブアイが開発しているのが「工程’s」とBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)やCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)との連携機能だ。

「膨大な数の工程も、BIM/CIMでアニメーション動画のように見ることで、作成した工程の実行可能性を即座にチェックすることができます」と森川氏は言う。

複雑で膨大な工程も、時系列に沿った施工動画で確認すれば、実行可能性などを即座に把握できる

複雑で膨大な工程も、時系列に沿った施工動画で確認すれば、実行可能性などを即座に把握できる

ウェッブアイでは、2003年に「工程’s」を発売して以来、工程管理をスマート化するソリューションを開発し続けてきた。

従来の工程管理は、1つのプロジェクトを最適に管理し、工期短縮するための話だった。一方、同社では「PREGARE」を利用して、建設会社全体で複数のプロジェクトを同時並行的に管理したり、「Promio Orario」を利用して、そのデータを各現場からリアルタイムに吸い上げて、経営判断に生かしたりする「全社プロジェクト統合サービス」まで、すでにラインアップを用意している。

「これからは社内での企画・営業から受注、設計、施工、そしてアフターサービスまですべての業務をデジタルツイン化し、企業経営の最適化を図っていく時代になります。そして2021年末発表の新サービス、オラーリオクラウドプラットフォームは建設業界全体で工程情報の共有を可能とするでしょう」と、森川氏の頭の中には既に10年後、20年後を見据えた建設業の姿がある。

建設業の生産性向上は、「移動のムダ削減」という目に見える対策から、「工程のムダ削減」という見えにくい部分へと進み始めている。

建設業の「タイム・イズ・マネー」は他業種に比べて桁違いに大きい価値を持つ。生産性向上に取り組む企業は、「工程’s」をはじめとしたデータドリブンの工程管理に取り組んでみてはいかがだろうか。これまでにない成果が、きっと得られるに違いない。

【問い合わせ】 株式会社ウェッブアイ
<本 社>
〒135-8071 東京都江東区有明 3-6-11 TFTビル東館 9F
TEL:03-3570-2391(代表)、FAX:03-3570-2393
ウェブサイト https://www.webi.co.jp/
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