2020年の東京五輪の開催を控え、東京・東品川の海上部では首都高速1号羽田線のリニューアル工事が急ピッチで進んでいる。施工を担当する大林組JVは、発注者による杭の立ち会い検査にMetaMoJiのデジタル野帳「eYACHO」を導入し、検査報告書の作成に活用した結果、現場事務所での作業が激減した。現場最前線の技術者にその効果を直撃インタビューした。
杭の立ち会い検査報告書をeYACHO化
東京・東品川の京浜運河にかかる首都高速道路、高速1号羽田線は今、全長約1.9kmにわたって架け替え工事中だ。まずは海上部に仮設の迂回(うかい)路を建設し、上り線・下り線を順番に解体撤去と新設を約10年がかりで進めていく。仮設の迂回路といっても、スペックは本設構造物並みだ。次回の東京五輪時は、世界中から来日したVIPのクルマも通ることになる。この重要構造物を支えるため、直径1.0~1.2mの鋼管杭を約300本打設した。
打設した杭は発注者による立ち会い検査が行われ、杭1本につき約10ページもある立ち会い検査報告書が作られる。杭の長さや直径、厚さなどをあらかじめ社内検査として計測したデータと、発注者立ち会いの下で再度、計測したデータを書き込み、両者に食い違いがないかを確認・記録するための書類だ。
この杭の立ち会い検査報告書をデジタル野帳「eYACHO」で作成できるようにしたのだ。
紙の検査帳票そのままの簡単操作
「これまで使っていた紙の帳票をeYACHO化するのは簡単にできました。帳票をPDF化してeYACHOに読み込ませ、数値や文字などの記入欄の部分に、テキスト枠やチェックボックスなどを配置するだけです。eYACHO化しても見た目は紙の帳票そのままですので、iPadに慣れていない人でもすぐに使えます」と施工を担当する大林組JVの工事長、横田慎晶さんは言う。
「数字を記入する欄を指でタップすると数字用のテンキーしか出てこないように設定し、杭の番号などはプルダウンメニュー化しました。そのため、入力はスピーディーに行えます」(横田さん)。
立ち会い検査時には、10分程度のすき間時間がときどきある。その時間を利用して帳票にデータを入力していくと、立ち会い検査報告書はリアルタイムに完成していく。
そして、eYACHOは2016年のバージョンアップで登場したVer.2で、クラウドサーバー によるデータ共有が可能になった。現場で入力した検査報告書はすぐにクラウドにアップされる。事務所に帰った後はプリントアウトするだけで済むのだ。
報告書には杭の図面や現場の土質柱状図、杭の打設したときのトルク値グラフなどの図表も含まれるが、これらも立ち会い検査の前に作成した資料をPDF化し、eYACHOの報告書に取り込むだけだ。
施工管理者の時短にも貢献
この現場でeYACHOを導入したのは2016年6月だった。「既にeYACHOを使っていた本社スタッフにデモを見せてもらったとき、『これは使える』と確信しました。というのは300本以上もの杭の打設作業は、同じ手順を繰り返すルーチンワークのため、最初にeYACHOのひな形を作っておけば、後は大幅に作業を効率化できると思ったからです。そこで、時短を目的にeYACHOを導入しました」と横田さんは言う。
「JVでは7人がeYACHOを使っています。紙の帳票を使っていたときは、現場事務所に戻った後で、報告書にまとめるために30分から1時間ほどの作業が必要でした。eYACHOを導入してからは、事務所に戻ってからの作業はプリントアウトだけになったので、確実に時短につながっています」と、同JVの原田彩子さんは続けた。
横田さんはeYACHOの導入をきっかけに、自ら業務のペーパーレス化にも挑戦した。「写真を張り付けたり、メモ書きをしたりと柔軟に入力できるので、紙の野帳をやめてみようとチャレンジしました。すると1カ月くらい経つ とiPad だけで現場の記録が行えるようになりました。今は紙の野帳はバッテリー切れなどの保険として持ち歩いているだけです」と振り返る。
現場の延長は1.9kmにも及ぶが、既設構造物にはさまれているため車両動線が1本しかない上、出入り口が4カ所しかない。毎日おびただしい数の工事車両をさばき、現場を順調に進捗させるためには、現場各所で従事している職員全員が最新の現場情報を共有することがカギとなる。
資材搬入や車両配置の計画もeYACHOで
eYACHOの導入は、現場でのiPad活用をいっそう進める結果となり、思わぬところで発注者の業務効率を高める効果も出ているようだ。
「発注者の方も、私たちがiPadを持っているのをよく知っています。現場にいるときに携帯電話で、「そこの写真を撮って送ってほしい」と頼まれることもあります。そんなとき、数分で写真を発注者に送れるので、喜ばれます」(原田さん)
eYACHOは2017年のバージョンアップで登場したVer.3に「Share(シェア)」という機能が追加され、クラウドによるリアルタイムな情報連携がさらに強化された。これは同じ野帳を同時に複数のメンバーがアクセスし、同時並行で情報を書き込める機能だ。
「この機能を使ってやってみたいことがあります。それは、資材や車両の搬入や配置計画をeYACHO上で行うことです。現場の配置図をeYACHO化して、専門工事会社間で共有し、明日の作業でどのような重機をどこで使うのかを、インターネット経由で描いてもらい、調整するのです」(横田さん)。
全長1.9kmにも及ぶ現場であるが、eYACHO上で重機の配置などを調整できると、会議のために集まる必要がなくなり、現地においても現場1日の流れがタイムリーに把握することができるので、円滑かつ迅速に作業計画が立てられそうだ。
日本の土木工事現場は、国土交通省が2016年度から推進している3Dモデルを使った「i-Construction(※)」政策で、設計や施工、維持管理の方法が大きく変わりつつある。この工事でも車載型の3Dレーザースキャナーで現場周辺を精密に3D計測し、施工計画の立案などに活用している。
eYACHOはiPhoneでも使えるほか、近くWindows10のパソコンで使用できるアプリがリリースされることになっている。すると、現場だけでなく現場事務所などのオフィスとの情報連携もますます強化されることになる。
現場最前線の情報をその場で記録し、クラウド経由で即座に共有・活用できるデジタル野帳「eYACHO」は、i-Construction時代の工事現場をデータ連携によって効率化していくのに活躍しそうだ。
(※)「i-Construction」は、国土交通省国土技術政策総合研究所の登録商標です。
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