工事現場でタブレット端末「iPad」を積極的に活用する大林組は、MetaMojiと共同開発したiPad対応のデジタル野帳「eYACHO(イー・ヤチョウ)」を全店で導入を始めた。デジタルカメラやセンサー、通信など多機能を備えたiPadを野帳として活用した結果、大幅な生産性向上を実現。導入した現場職員は「もう、紙の野帳には戻れない」と感想を語った。
iPadの導入後、現場で持ち歩く機材が激減
大林組は2012年8月から国内外の現場で働く施工管理技術者にタブレット端末の「iPad」の導入を進め、その台数は既に6,000台を超えた。
一方、工事現場などで起こる様々な課題や事実を、文章や表、図などで柔軟に記録できる紙の野帳は、従来から現場で仕事をする技術者にとって欠かせないツールだった。
建設会社の工事現場や内勤部門で発生する様々な情報を記録するのに使われてきた紙の野帳やノートを、多機能のタブレット端末「iPad」にしたら仕事はどう変わるのだろうか。
こんな疑問に対し、iPad上で稼働するMetaMoJiのデジタル野帳「eYACHO」を実際に工事現場や本社の実務で活用し、答えを出したのが大林組だ。まず、iPad化による見える効果として現れたのが、現場で持ち運ぶ機材の量が大幅に減ることが分かった。
東京都内のあるビル建設現場で工事主任を務める川﨑亮太さんは、2015年8月、東京本社からの薦めでeYACHOを使い始めた。
「iPad導入前は野帳のほかデジタルカメラや工事写真の説明用黒板、製本した図面と、現場で持ち歩く機材やものがとても多く、大変でした。それが導入後は、iPadを1台持つだけでよくなったのです」と語る。
Before | After |
iPad導入前は、デジカメや黒板、図面など多くの機材を持ち歩いていた(左)が、導入後はiPad1台を持つだけ(右)済むようになった |
その理由は、iPadがメモや表、写真、図面などからなる現場の様々な情報を作成・集約するプラットフォームになったからだ。
eYACHOは作業員の出勤状況を記録する出面表(でづらひょう)現場巡視記録などの定型書式を入れて記入できるほか、手書きのメモやイラストなども紙の野帳と同じように書き込める。
さらにiPadに搭載したデジタルカメラで撮影した工事写真を取り込んだり、CADソフトで作成した大量の図面を持ち運び、その上に修正事項などを手書きしたりすることもできるのだ。
「工事写真の説明用黒板は、当社が独自に開発したiPad用のカメラアプリで代用できるようになりました」と川﨑さんは説明する。
現場情報の記録で中心的な役割を果たしていた野帳がeYACHOに変わったことにより、帳票や作業指示などをiPadでこなせるようになったことが、デスクワークを大きく減らすきっかけとなったのだ。
現場で発生する様々な情報を柔軟に記録
eYACHOはメモや略図、表などを柔軟に記入できる紙の野帳を、電子化したものだ。開発はMetaMoJiと大林組が共同で行った。
野帳を電子化する上でこだわったのは、出面管理の表や数量表などの「定型的な情報」と、メモ書きやイラストなどの「自由な情報」を両立して記録できるようにすることだった。
手書きによる自由な使いやすさと、表計算や写真などによる記録機能など、高度な機能を持つMetaMoJiのデジタルノート「MetaMoJi Note」の技術をベースに、大林組の現場で使われている現場巡視記録など実用的な施工管理用テンプレートや出面表、黒板、看板などのコンテンツを統合して「eYACHO」が生まれたのだ。
iPad用の電子野帳「eYACHO」の画面イメージ。定型的な表や自由な図をさっと入力したり、iPadで撮影した写真を挿入したりすることができる |
手書き文字をテキスト変換する機能にもこだわった。そこで、MetaMoJiが開発した日本語手書き変換ツール「mazec」の技術を使い、現場用語を簡単に入力できるようにしている。
例えば、「かん」と2文字を入力しただけで、「換気口」や「完成工事費」、「貫通割れ」などの用語が上位に表示され、これらを選んでいくだけでスピーディーな入力が行えるのだ。
また、手書きでは面倒くさい漢字を含む用語の場合は、漢字とひらがなを混ぜて、かなりのなぐり書きを行っても、ちゃんとした漢字変換してくれる。
かなりのなぐり書きでもちゃんと漢字変換してくれる |
「現場の職長さんへの作業指示も、eYACHO上で写真や図面上にメモを書いて説明しながら、その場でプリンター出力し、手渡すことができます。忙しい工事関係者を待たせることないのも、生産性向上につながっています」と川﨑さんは語る。
本社PDセンターの内勤業務でも威力を発揮
大林組は建物の3Dモデルを使って設計や施工、維持管理を行うBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の活用でも、業界をリードしている。国内外の工事現場やプロジェクトに対し、BIMの活用支援を行うのが東京本社のPDセンターだ。
PDセンターにもeYACHOを活用する社員がいる。紙のノートにはない便利な機能として、内勤業務の生産性向上に役立っているのは、日付や時刻の自動記録機能や、「検索できる付せん」として使えるタグ機能だ。
eYACHOには、メモや写真などを記録したとき、その日付や時刻を自動的に入力する機能が付いている。そして打ち合わせメモや写真などにはタグを付けて他の場所からリンクを張ったり、その日ごとに行う作業をまとめたTODOリストに変換したりすることもできるのだ。
日付というのは、建設業にとって手がかりとなる重要情報だ。情報をページ管理するだけでなく、日付で管理しておくと、後から探しやすい。これは紙のノートにはない機能だ。
PDセンターBIM推進第二課の渡辺理央さんは「いろいろなBIMソフトのテストを行うとき、使ってみて分かったことをメモ書きしたり、現場訪問をしたときの状況などを記録したりするとき、タグにソフト名や現場名を記入しておき、後で検索できるようにしています」と説明する。
「iPadに手書きしたメモを、後でテキスト変換して清書できるのも紙のノートにはない機能です。おかげで上司への報告書作成なども効率的に行えます」(渡辺さん)。
また、PDセンター企画管理課の大杉達也さんは「プロジェクターで資料を映写しながら行う会議などでは、文字で記録しきれない部分はスクリーンごと写真に撮り、その上から重要事項をメモ書きするという方法で記録を効率化しています」と話す。
大人数が参加するなど会議でメモを取りきれないときには、録音のクリップをeYACHOに張り付けておき、簡単な説明書きを加えることで、後から聞き返して確認することもできる。
「もう、紙の野帳には戻れません」
今回の取材後、2016年4月にeYACHOはバージョンアップし、クラウドサーバーとの連携が可能になったほか、iPhone版も登場した。iPhone6 Plusはサイズも紙の野帳とほぼ同じサイズで、狭い場所に手を突っ込んで写真を撮る作業も行いやすいだろう。
これにより、現場最前線でiPadやiPhoneで記録した情報をクラウドサーバーで共有し、さらにパソコンと連携させてデータを活用できるようになった。
最後にeYACHOを紙の野帳代わりに使えるように習熟するコツについて、川﨑さんに聞いてみた。
その答えは「私の場合は、思い切って紙の野帳を使わず、eYACHOだけで1カ月間、頑張ってみました。今では、紙の野帳は全く使っていません。もう、紙の野帳には戻れないです」と川﨑さんは感想を語った。
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