BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を駆使し、バーのリノベーションから大規模介護施設、さらには海外の大型幼稚園まで手がける横松建築設計事務所。その現地調査や工事現場の監理業務には、リコーの360度カメラ「RICOH THETA(リコーシータ)」が欠かせない存在になっている。代表取締役社長の横松邦明氏に、THETAによる現場の情報共有からBIM業務での活用、さらには顧客サービスまで、その活用のコツを聞いた。
シャッター1回で現場を丸ごと写真撮影
「3年前から、現地調査には必ず360度カメラ『THETA』を持って行くようにしています。特にリフォーム工事の調査には欠かせませんね」と言うのは、東京・足立区と栃木・宇都宮市にオフィスを構える横松建築設計事務所の代表取締役社長、横松邦明氏だ。
RICOH THETA(以下、THETA)とは、左右上下の360°の風景を1枚の写真で記録した360°パノラマ写真を撮れるカメラだ。本体の表裏に付いた2枚の魚眼レンズで撮影した写真を、カメラの中で1枚のパノラマ写真にする機能を備えている。
同種のカメラは他にも市販されているが、THETAはその代表格として、建設関係者にも多くのユーザーがいる。
THETAで撮った建築現場の例。1回シャッターを切るだけで床から天井までを1枚の写真で記録できる
「シャッターを1回切るだけで、室内の壁、床、天井を丸ごと撮影できるので、撮り忘れがありません。特にトイレや玄関など、狭い空間は普通のカメラやスマートフォンだと、壁全体を撮影することさえ難しいですが、THETAだと簡単です」と横松氏は説明する。
現場状況を伝える力
THETAで撮影した写真は、パソコンやタブレットなどのビューワーソフトで、くるくると見たい方向に向けて見ることができる。まるで、自分が現場に立って周囲を見回しているような感覚だ。拡大や縮小も行える。
「敷地内と道路に向かい合う隣地の関係、流し台と向かい合う棚や壁の関係など、普通のカメラだと撮影時を思い出しながら、多数の静止画を脳内でつなぎ合わせて理解する必要があります。そのため、他のスタッフが撮影してきた写真を見ても、それをもとに設計するのは至難の業です」と横松氏は言う。
「その点、THETAだと1枚の写真で様々なものの位置関係がよく分かります。そのため、現場に行ったことがない人でも、現地調査の写真を見ながら設計できます。現場状況を伝える力のすごさを感じますね」(横松氏)。
その言葉通り、横松氏は現地調査から事務所に戻ると、写真の入ったTHETAをそのまま設計スタッフに渡している。スタッフも現地調査に参加したのと同じ感覚で、仕事を進められるという。
THETAで撮影した写真をパソコンのビューワーソフトでくるくる回して見ると、様々なものの位置関係がわかり、現場に行ったかのように状況が理解できる
BIMとの親和性も高い
横松建築設計事務所の強みは、3次元で建物を設計するBIMの活用力だ。日本のBIM元年と言われる2009年に先立つ2008年ごろから横松氏が中心となってBIM活用を本格化し、住宅や医療・介護施設、学校まで様々な物件をBIMで設計している。
横松氏は今、日本でも先進的なBIMのエキスパートとして、BIM関係のセミナーや講習会で講師を務めている。
「ホームページにもBIMモデルの作例を載せていたところ、それを見た中国の人から大規模な幼稚園の設計依頼がありました。結局、BIMが決め手となって設計を受注できました」と横松氏は言う。
THETAの360度写真は、BIMによる設計業務とも、親和性が高いという。
「例えば、内装のリフォームをBIMで設計するとき、照明のスイッチの場所や高さなどもBIMモデルに描き込んでおく必要があります。THETAの写真だとぐるぐる回しながら、細かい部分を漏らさずにBIMモデル化できます」(横松氏)。
BIMモデルからも、上下・左右をぐるりと見回せる360度画像を作れる。THETAの写真と並べて、設計と現場を比較することも可能だ。
「現場が設計通りにできているかを確認する監理業務も、BIMモデルとTHETAの写真があれば楽になりそうですね」と横松氏は語る。
RICOH360 Projectsで施主とのコミュニケーションを
横松建築設計事務所では、360度写真の「伝える力」を社内業務だけでなく、施主や施工会社とのコミュニケーションでも活用し始めている。その武器となるのが、「RICOH 360 Projects」(以下、360 Projects)だ。
360 Projectsとは、THETAで撮影した360°写真をクラウドサーバー上で共有し、ウェブブラウザーでどこからでも見られるようにしたシステム。同社は2021年秋に着工し、2022年4月に完成予定の茨城県内の大規模障害者施設の監理業務に360 Projectsを導入した。
「360 Projectsを使えば、お施主さんや施工会社などの工事関係者全員で、360度写真を共有しやすくなると思いました。そのため、施工会社の入札でも『360 Projectsの活用』を特記仕様書に入れました」(横松氏)。
「特に施主に対して360度写真での現場情報を提供するサービスは、有効だと思います。遠くの場所に家を建てたいけど、現場をなかなか見に行けない人もある。そんなときに、360 Projectsでいつでもわが家の建設現場を見られれば、『手厚いサービス』と感動してもらえるのではないでしょうか」(横松氏)。
施工時に撮影した360度写真は、竣工後、施主へのプレゼントとしても喜ばれそうだ。
建設DXへの第一歩としてTHETAを
「THETAを導入したそもそものきっかけは、360度写真を自社のホームページで公開して、見てもらおうと思ったからでした」と横松氏は振り返る。
建設業界では今、少子高齢化に伴う人手不足などに対応するため、建設DX(デジタル・トランスフォーメーション)や働き方改革の必要性が叫ばれている。
THETAは施工中の現場をシャッター1回で丸ごと「デジタルツイン(デジタルの双子)」化でき、さらに360 Projectsと組み合わせることでどこからでも現場状況を確認できるシステムを簡単に構築できる。
現場への「移動のムダ」を減らし、その分を実業務に充てるという即効性のある生産性向上や働き方改革を実現できるのだ。建設DXへの第一歩として、THETAや360 Projectsを活用してみてはいかがだろうか。
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