道路や堤防などの土工に先だって行う必要があるのが、丁張りや水糸の設置だ。建設システムは、普通のバックホーを使って丁張りなしでのスマート施工を可能にするAndroidアプリ、「快測ナビ Std」(以下、快測ナビ)を発売した。丁張り作業が不要になり、測点間の任意な位置決めもスピーディーかつ高精度で行えるため、現場の生産性は大幅に高まる。
千葉県南部の太平洋に面した防潮堤の工事現場。同県館山市の睦建設は、この日、防潮堤の基礎や堤体の断面に合わせて、地盤を掘削した。
朝、現場に出勤した「テクニカルスタッフ」と呼ばれる作業員が位置決め用の測量機器「杭ナビ」こと「LN-100」を三脚にポンと設置し自動整準されるやいなや、バックホーのエンジンが始動した。
5インチのTOUGHPAD端末と360°プリズム付きのピンポールを手にしたテクニカルスタッフがバックホーの近くに駆け寄り、快測ナビの「どこでもナビ」の画面を見ながらカラースプレーで掘削線を地面にマーキングし「あと20センチ下」とオペレーターに声をかける。
バックホーは指示された通りに地盤を掘り、テクニカルスタッフが法尻にピンポールを当てて高さや位置を確かめる。掘削は図面通りに行われたようだ。そしてバックホーは次の掘削位置まで後進し、同じ作業を繰り返す。ほんの1時間の間に、掘削は30m以上、進んでいた。
現場の一角に置くだけで簡単設置できる測量機器「杭ナビ」(左)と、その計測データから位置出し面までをリアルタイムに計算し結果を表示する「快測ナビ」がインストールされた5インチのTOUGHPAD端末と360°プリズム付きのピンポール(右) |
現場に張り巡らされた“見えない水糸”
土工現場では各測点の計画掘削断面等の形や位置、高さなどを表す「丁張り」と呼ばれる施工ガイドや、その間をつないだ「水糸」が必須とも言える。ところがこの現場では掘削作業に使う丁張りや水糸は見当たらない。
その役割を担っていたのは、建設システムの「快測ナビ」というシステムだ。作業の始めに三脚にポンと簡単設置されたトプコン製の杭打ち専用機「杭ナビ(LN-100)」と連動することで、現場の施工面に対して“見えない水糸”や“見えない丁張り”がどこでも設置されていることになる。
テクニカルスタッフは、TOUGHPAD端末のモニター画面上にリアルタイムに表示される施工横断形状とピンポールの現在位置を見ながら、施工面である見えない水糸や丁張りの位置をスピーディーに探り当てられる。そして、地面にスプレーでマーキングしたり、オペレーターに掘削深さを指示したりしていたのだ。
建築での床工事や土工の基礎工事では、施工面と平行な面を示す回転レーザーという機械があるが、快測ナビはさらに複雑な直線や曲線を3次元的に描くことができるのだ。
睦建設のテクニカルスタッフ、原田裕介氏は「これまでは掘削前に丁張りの設置作業で30分はかかっていましたが、「快測ナビ」と「杭ナビ」の最強コンビで、すぐに掘削作業を始められます。しかも、1人だけで重機に指示を出せるのがメリットです」と語る。
同じくテクニカルスタッフの松本匠氏は「快測ナビを使い始めて3カ月ほどですが、使い方にはすぐに慣れました。つい半年前まではTOUGHPAD端末を持って、現場で作業をすることなど、想像したこともありませんでしたが、今では現場作業がスイスイ進むのでとても楽しいです」と言う。
従来の建機を使って情報化施工を実現
掘削や盛り土の形状を表す“見えない水糸”となっているのは、防潮堤の基礎地盤や栗石、鉄筋コンクリート被覆などの形状や寸法を表した3Dデータだ。
このデータをTOUGHPAD端末にインプットし、LN-100と無線LANでやりとりすることで、現場の仕上げ位置からピンポールがどちらの方向にどれだけ離れているのかをTOUGHPAD端末のモニター画面上に表示しながら、テクニカルスタッフを誘導してくれるのだ。
「3Dマシンコントロールなどを搭載したICT建機こそ使いませんが、情報化施工と同じようなことを普通の重機を使って低価格に行えるのが、快測ナビのいいところです。これまでの作業方法に比べ作業員やオペレーターも、無理なく使えます」と睦建設の現場マネージャー、三平大樹氏は語る。
「クロソイド曲線の道路区間で、プレキャスト側溝を設置するときなどは、普通の丁張りと水糸だと、丁張りの間は経験や勘でカーブを補完する必要があります。その点、快測ナビなら任意の断面で正確な位置や高さが出せるので、手戻りがなく、安心して作業が進められます」(三平氏)。
CAD図面から手間をかけずに3Dデータを作成
最近、土木分野では現場や構造物の3Dモデルを使って設計や施工を進める「CIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)」や、情報化施工が導入されつつある。しかし、2次元CADに慣れた技術者が、いきなり3次元CADを使って3Dデータを作るのは、とてもハードルが高いのが実情だ。
そこで睦建設では、快測ナビ用の3次元設計データを作るのに、建設システムの「SiTECH 3D」というソフトを使っている。2次元CADで作成した平面図、縦断図、横断図から各部分の寸法や形状などを読み取り、簡単に3Dモデル化してくれる特許取得済みのソフトだ。
睦建設の専務取締役、石井勇人氏は、「3Dモデルの作成は、私が担当しています。自動作成された3Dモデルは、図面の上に重ねて見られるのでチェックも簡単です」と語る。
睦建設と建設システムが二人三脚で開発
快測ナビの開発は、トプコンが「杭ナビ(LN-100)」という杭打ち専用の機器を2014年に発売したことがきっかけだった。
トータルステーションのような機能を持っていながら、望遠鏡が付いていないユニークな形をしたこのマシンの特徴は、プリズム付きのピンポールの位置を毎秒20回も更新して表示できることだった。従来機器の4倍の更新頻度だ。
毎秒20回も位置が更新されると、ピンポールを持ったテクニカルスタッフは、従来のような遅延は全くなく、リアルタイムに自分の位置を知ることができ、ストレスなく、スムーズに指示された位置までたどり着くことができる。
睦建設の専務取締役、石井勇人氏は、杭ナビが持つこの特徴に注目し、現場のテクニカルスタッフ自身が簡単に使える位置決めシステムが作れないかと建設システムのサイトデザイナー土屋義彦氏に相談した。土屋義彦氏も同様のことを考えていた。そこで石井氏をアドバイザーとし、2014年に建設システムが「快測ナビ Std」の開発をスタートした。
それから多数回の現場実証が経て、開発開始から約1年半後の2015年9月、快測ナビは完成し、睦建設の現場に導入された。
3次元CADを使わずに、施工管理に必要な3次元設計データを作り、CIMや情報化施工と同様のメリットを現場で活用するという方法があったとは。日本の現場の実情を知り尽くした建設システムと、現場最前線の効率化に注力する睦建設のタッグによりアイデアが実現したソフトと言えそうだ。
土工の生産性を大幅に改善する
日本の建設業界は、少子高齢化と建設投資の減少により、生産性の向上がこれからますます求められていきそうだ。
国土交通省は3Dデータや情報化施工、プレキャスト化などを活用して、建設業の生産性を高める「i-Construction」戦略を2016年度から実施することを発表した。そのなかでも、生産性向上の大きなターゲットの1つとなっているのが土工分野だ。
快測ナビの活用は、まさに土工の生産性を高めるのにうってつけの方法で、導入に必要な資金も初期費用が140万円程度(杭ナビ含む)、年間利用料(1ライセンス)が4万2000円/税別(快測ナビStd)と、ICT建機などに比べるとぐっとリーズナブルで、地方の建設会社でも導入しやすい。快測ナビで、自社の生産性向上に取り組んでみてはいかがだろうか。
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株式会社建設システム |
〒417-0862 静岡県富士市石坂312-1TEL: 0545-23-2600快測ナビ特設サイト:http://www.kentem.jp/products/ksnavistd/ |