ARCHICAD BIM事例レポート 特別インタビュー 鹿島建設株式会社
全現場へ着工前に BIM モデルを提供開始! ARCHICAD を核とする Global BIM の新展開
本格的な活用段階を迎えた日本の BIM も、ここへきて徐々に各社の展開や普及状況に違いが見え始めてきた。その中でより実務に沿った施工現場での BIM 活用により、着実な成果を上げつつあるのが鹿島建設である。ARCHICAD をメインツールとする独自の BIM 環境「Global BIM」を開発・整備した同社は 、これを核に施工現場主体の BIM 普及を急ピッチで推進。2014年度までに総計340現場への BIM 導入を実現するに至っている。いまや日本のBIMを牽引する存在となったその取組みについて、建築管理本部の矢島氏、安井氏にお話を伺った。
最大の生産拠点「施工現場」の効率化を
鹿島建設株式会社 建築管理本部 建築技術部 担当部長 (生産性向上・BIM責任者) 矢島 和美 氏
鹿島建設株式会社 建築管理本部 建築技術部 BIM推進グループ グループ長(次長) BIM統括マネージャー 安井 好広 氏
「ゼネコンの BIM 導入はしばしば設計部門が中心となって進められます。しかし当社は施工現場での活用主体に進めてきました。ここが他社と異なる当社の BIM 戦略の特徴です」。そう語るのは鹿島建設の BIM 普及を主導する、建築管理本部建築技術部の担当部長 矢島和美氏だ。ゼネコンにとって施工現場は最大の生産拠点であり、だからこそこの現場に隣接した実務への BIM 導入が重要だった、と矢島氏は語る。BIM によりこの最大の生産拠点を効率化し、具体的な導入効果の創出を目指したのである。そもそもオブジェクトを配置していく BIM 設計の手法は施工現場における建設作業に近く、現場で活用できる機能も豊富に備えている。しかも施工部門が推進する BIMであれば、他社設計についても対応可能だ。結果、BIM 導入実績は着実に拡大していったのである。
昨期までの BIM 導入現場は約340箇所に達しています。もちろん活用内容は現場ごとに異なりますが、導入効果も既にはっきり現われていますよ。設計から製作開始までの期間は大きく短縮され、施工図作成も BIMツールの活用で省力化できています」。
各種大型案件を中心に、同社ではその初期段階に BIM データを作成。これを構造検討や数量把握から施工図化など幅広く活用することで、各種検討作業を前倒しすることに成功したのである。たとえば計画段階の構造検討も概略図等の概要情報から多彩なパターンで構造架構モデルを作り、鉄骨数量等を比較検討。仮設計画や鉄骨建方計画、ステップ図作成にもこのデータを使い同時並行で進めて、全作業を1日で終えることもある。
「最近では特殊な形状の建物でも、BIMツール を活用して容易に対応できるようになりました」と語るのは、BIM統括マネージャーの安井好広氏だ。
「最近の例としては、うねった局面屋根を持つスポーツ施設が挙げられます。接合部材は同じ形状のものがほとんどなく、微細なディテールの検証を必要としました。メインの構造体は、ARCHICADを使って総合検討モデル作成、そのうち主要部材の基準座標データを鉄骨ファブリケーターへ渡し、鉄骨製作モデルへと連携させたり、2次部材や仕上げ材は、各種解析 ソフトへデータ連携させ、曲率の可視化や特殊部材の加工検討など行いました。
しかし、BIMツールの活用は特殊な建物にだけ効果を発揮するものではありません。当社では、すべての現場において、BIMツールを活用して生産性の向上を目的としています。」(安井氏)。
こうした成果を受け、同社では2015年度より BIM 活用を全現場へ拡大する計画だ。まずは年間300超に及ぶ同社の現場全てに着工時か契約時までに BIM モデルを提供していく。そして、圧倒的スケールで進むこの計画を可能としたのが、独自の BIM プラットフォーム「Global BIM」の存在だ。
国境を越えて社内外を結ぶGlobal BIM
「当社では、これまでグラフィソフト社のARCHICAD とBIM Serverを BIM プラットフォームとして、建物の可視化や合意形成のためのシミュレーション、取合い確認、施工図、施工計画等に使って一定の成果を上げてきました。しかし他方では課題もありました」(矢島氏)。
それはまさにそのプラットフォームに関わる問題だった。多方面での活用を前提に制作された BIM データはしばしば巨大化して扱いづらくなり、しかもその機密性の高さからデータ共有も社内に限られてしまう。結果として、国内外の協力業者など、社外のプロジェクト関係者とのコラボレーションが困難だったのである。いうまでもなく建築プロジェクトは、発注者から設計、施工、そしてさまざまな専門工事業者まで、多数の企業による協業が大前提。当然、BIM データも、ゼネコンだけでなくプロジェクト関係者に広く共有され、幅広く活用されるような環境でなければ、その真価を発揮できないのである。そこで鹿島が構想したのがNTTコミュニケーションズ株式会社の企業向けクラウドサービスを利用した Global BIM だった。
「Global BIM は、高度なセキュリティを備えたクラウドサーバーを基盤とする全く新しい BIM プラットフォームです。従来のクラウドシステムは小さな社内ネットワーク内でしか動かせませんでしたが、Global BIM は Web 経由でクラウドサーバー内のプロジェクトデータもコントロール可能です。つまり、セキュリティを確保しながら、資格を持つ誰もが社外からアクセスして作業できるのです」(安井氏)。
この Global BIM がプロジェクト関係者全員の共通 BIM プラットフォームとなることにより、ARCHICAD で作った 3D モデルなどの BIM データを社内/外の壁を越えて安全に共有し、各社が並行してデータの作成・変更を行なえるようになったのである。もちろん互いの進捗状況も確認可能であるため、問題が発生すれば即座にこれを把握して対応できる。
さらに注目すべきは Global BIM の登場により、国境を超えて海外を含む複数の企業を容易にネットワークできるようになった点だ。もともと鹿島建設は、国内外に広く ARCHICAD ユーザの協力会社ネットワークを整備してきた。国内では施工図作成を中心に行なっている鹿島クレス(株)や鹿島沖縄BIMセンターがあり、海外ではフィリピン、インド、韓国等にBIM モデルのモデリング会社や鉄骨ファブリケーター等の協力企業を開拓している。Global BIM は、こうした国内外の協力会社が、鹿島建設社内で作業している時と同レベルの緊密さで作業を可能としたのである。これにより、コストを抑えながら質の高い BIM モデルをスピーディに作成し、いち早く施工現場に提供する、という取組みが容易に行なえるようになったのだ。