梓設計×グラフィソフト
2021年3月2日

日本を代表する組織設計事務所の1つ、梓設計が本格的にBIMを用いた設計実務の取り組みをスタートさせたのは2009年。
そのベースとなったのが、グラフィソフトジャパンの建築CADソフトウェア「Archicad 」だ。このコラボレーションを通じて見えてきたことや、これからのBIM 活用について、両社の責任者、担当者に語り合ってもらった。

株式会社梓設計
代表取締役社長
杉谷 文彦 氏

株式会社梓設計
取締役副社長
安野 芳彦 氏

グラフィソフトジャパン株式会社
代表取締役社長 アジア担当副社長
コバーチ ベンツェ 氏

グラフィソフトジャパン株式会社
マーケティングサクセス ディレクター
トロム ペーテル 氏

グラフィソフトジャパン株式会社
カスタマーサクセス ディレクター
飯田 貴 氏

意匠、構造、設備をまとめる統合型BIMを開発

コバーチ(グラフィソフトジャパン):当社が提案してきたB I M( Building Information Modeling )の概念に早くから興味を持ってくださったのが、梓設計様でしたね。

杉谷(梓設計):当社でBIM の導入検討を開始したのは2006 年のことでした。2009年にはBIM を用いた設計実務の取り組みを進め、2015 年にはデジタル技術の活用と情報蓄積の専属部門「D ワークス」を設立しました。

安野(梓設計):当社では、独自のB I M システム「A Z _ B I M S(AZUSA_BIM マネジメントシステム)」を構築して、実績を積み重ねているところです。社内の設計者が作図・モデリング技法の習得とスキルアップを図れるよう、Dワークスが日常的にサポートしながら、同時にシミュレーションやプログラム開発にも取り組んでいます。
またBIM ソフトのツールとしてのメンテナンスも重要ですから、使用ソフトのテンプレートやライブラリーの更新、バージョンアップ対応の検証等を定期的に行っています。この間、ずっとグラフィソフトさんには「Archicad」の提供だけでなく、細かくケアしていただけて助かりました。

コバーチ:いえいえ。この5 年ほど、ちょうど私たちのほうでもBIMの実践的なワークフローの整理に取り組んでいましたので、梓設計様からのご意見や改良のご提案は非常にありがたく、ソフト開発の参考にさせていただきました。おかげさまで2020 年10月5 日には最新バージョンの「Archicad 24」をリリースすることができました。今回の「Archicad 24」では、統合型BIM のワークフローを意識しています。

安野:統合型BIMというと、意匠、設備、構造を1つのパッケージで管理するシステムですね。

コバーチ:はい。もともと当社の「Archicad」は1987 年の開発当初からその構想がありました。
まだBIMという概念もなく、3次元CADと呼ばれていた頃ですね。しばらくはハードもソフトもスペック不足で苦労しましたが、2000年代頃にようやく開発環境が整ってきて、少しずつ前進してきました。この間、常に気を付けていたのは、ソフトだけで解決しようとしないことでした。

杉谷:どういうことですか?

コバーチ:ソフトの機能だけ充実させても、使い勝手が悪くては利用してもらえない、ということです。ですから、実際に設計業務で「Archicad」を使うときに、どのような流れで社内外のデータをやりとりして、デザインを完成させていくのか、というワークフローを念頭に置いて開発を進めてきたのです。特に梓設計様と本格的にコラボレーションしたこの5年間は、統合型BIMのワークフローが具体的に見えてきた時期でもありました。

杉谷:統合型BIM については、当社でも目指すテーマの1つです。1つのプロジェクトをまとめるうえで、最終的には、それぞれ進めた設計内容を統合するわけですが、そこに至るまでに整合性をとる必要がある。意匠は構造、設備の内容を踏まえて設計したいし、構造、設備にしても意匠設計における寸法や面積が欲しい。
従来は、意匠、設備、構造、それぞれの分野で別々のソフトを使っていたので、お互いに欲しいデータを自分たちで算出していたわけですが、それは作業が重複しているし、無駄ですよね。ですから、現在、当社では「Archicad24」を採用したワークシェアリングを前提として、「ワンプラットフォーム・ワークフロー」の仕組みを取り入れています。



安野:この仕組みをうまく機能させられれば、部門間の重複作業が軽減できて、よりクリエイティブな業務に注力することが可能になります。そのためにも、責任分界点、作業分界点を整理しているところです。

コバーチ:御社がいろいろと新しいことに挑戦されているのは、2019年8月に移転されたこの新社屋「HANEDA SKY CAMPUS」を拝見してもよくわかります。こちらの設計にもBIMを利用されているんですよね。

杉谷:はい。当社は、空港やスポーツ施設、ヘルスケア分野の設計領域を得意とする組織設計事務所として、これまで多くのプロジェクトにB IM を導入してきています。この新社屋では、「成長するオフィス」というコンセプトのもと、BIMはもちろん、AI やIoT などの先進技術を活用したトライアルを行っています。

コバーチ:新しい技術にいち早く着目してチャレンジするという社風があるからこそ、BIMについても着実に推進されているんですね。

情報を1つにまとめて管理。トータルマネジメントの時代に

杉谷:グラフィソフトさんでは、以前から「Open BIM」という提案もなさっていましたよね。統合型BIMとの兼ね合い、関係はどのようにとらえられていますか?

コバーチ:はい、「Open BIM」というのは、BIM の共通データフォーマット「I F C 」( Industry Foundation Classes)を使って他社のBIM ソフトとも連携するという考え方ですね。統合型BIM が統一されたワンパッケージであるのに対し、「Open BIM」は多様なままで交流する、という違いがあります。ただ、この2 つはデータのやりとりをスムーズにするという目的は共通していますし、バランスよく取り込まれていくのではないかと考えています。

杉谷:建築関連の会社がそれぞれ統合型BIMを取り入れて、そののちに「Open BIM」でさらにつながっていく、ということですか?

コバーチ:建築設計は複雑なものですから、統合型BIM だけですべてをまかなうのは難しいかもしれません。むしろ、専門性の高い設計作業については専用のBIM のほうがより質の高いデータがつくれる可能性がありますよね。

トロム(グラフィソフトジャパン):統合型BIMは、設計の初期段階で特に有効です。これからまだプランを練っていく段階では、大きな変更が日々起きるものです。そんな段階であれば、意匠、構造、設備が1つのBIM 環境の中で密に関わり合いながら意見やデータをやりとりしてプロジェクトの質を上げたり、変更に対応していくことができます。

杉谷:そうですね。

トロム:その次に、より詳細な検討を行う段階になってくると、それぞれの専門分野で必要な機能が細分化されていきます。その場合には、それぞれに最適なBIMツールを使っていただくのがいい。ただ、その場合はうまく連携しなければいけないので、その連携用のプラットフォームを私たちが提案、提供いたします。
当社では、「Archicad 24」のリリースと同時に「BIMcloud」を「Open BIM」を前提としたプラットフォームへ進化させました。「Archicad」のファイル形式だけではなくて、どのB I M 関連のツールを使ってもそのプラットフォーム上でコラボレーションができるというものです。

コバーチ:情報をなるべく1つの場所に集めて、すべての分野の情報を一度に見られるようにする。データを操作し、管理する。統合型B I Mでも「Open BIM」でも目的は同じなのです。

安野:なるほど。私は社員によくこう言うんです。「ぼくらは建築をつくっているんだ。意匠だけ、構造、設備だけを考えているわけではない」。建築は、意匠、構造、設備をただ組み合わせているのではなく、すべてを統合してつくりあげるものです。そのためにはそれぞれの情報がちゃんとリンクしていなくてはならない。ですから、BIMの考え方はすんなり飲み込めました。

杉谷:昔気質の設計者は、設計だけが自分の領域だと思っている。つくったらおしまい。設計図を引いたら、あとは知らない。それではいけない。設計に責任を持つ。建築には社会的な役割がありますから、竣工後のことも目配りしなくてはいけない。

コバーチ:これからは建築にまつわるあらゆる情報を3 次元モデルを通してプランを整理する、プロジェクトを設計・施工からメンテナンスまでトータルにマネジメントする、そういう方向に進むのではないでしょうか。

杉谷:設計者の意識を切り替えていかなくてはいけませんね。

コバーチ:教育が重要ですよね。当社では、ソフトだけ提供してそれで終わりというビジネスは考えていません。BIM を習得するためのトレーニングプログラムも提供するようになりました。

飯田(グラフィソフトジャパン):受講者のレベルに合わせて15 種類ほどのカリキュラムを用意しています。よく身についていない単元については何度でも同じ講習を受けることも可能です。

コバーチ:意外とソフトの機能を使いこなしていない人は多い。きちんと把握して使えば効率は大幅に向上します。BIM 導入も早く進むと思います。

「BUILDING TOGETHER」ともに築く未来

安野:あとはBIM のインターフェースがもっと平易なものになって、設計者だけでなく、発注者のほうでも操作できるようになると、データを共有するメリットがさらに高まりそうですね。

コバーチ:発注者向けには、BIMビューアアプリケーションである「BIMx」の活用をお勧めしています。ラップトップパソコンやスマートフォンでもBIMプロジェクトの3Dモデル、各種図面、そして属性情報に、いつでも、どこからでも容易にアクセスすることができるソフトです。
社内でのデザイン検討、クライアントへのプレゼンテーションのほか、遠隔でのプロジェクトへのフィードバック、施工現場での情報確認などにもBIM のデータを簡単に利用できるようになります。

飯田:「Archicad 」でBIM データを作成し、「BIMx」で閲覧、プレゼン。データは「BIMcloud」に集約する。そんな統合型BIMのシステムに、「Open BIM 」の考え方でグラフィソフト以外の他社データも集まってきて、大きな共有のデータベースになっていく、というイメージですね。

杉谷:私たち、組織設計事務所としては、B I M を促進することで生産性を高めることも重要ですけれども、効率が上がった分、クリエイティブな部分に注力して建築の質を高めていくことを目指したいですね。

コバーチ:質の高い設計データをつくって、BIMで施工会社と共有すれば、ミスが減り、工程もよりスムーズになるはずです。設計と施工、それぞれがもっとコミュニケーションをとり、お互いにとって使いやすいデータにまとめられたらいいですよね。

安野:実はいまそのあたりのことを建設会社や協力会社のみなさんと話し合っているところです。

コバーチ:当社では「Archicad24」について「BUILDING TOGETHER」というスローガンを掲げています。建築業界全体で「ともに築く」を目指します。

杉谷:同感です。BIMのもたらす影響について、当社では「BIMの木」というイメージ図にまとめています。BIMの木は、テクノロジーを栄養にしてさまざまな果実(メリット)を実らせ、枝を広げていきます。
初期のBIM は、設計図を書くためのツールとして、設計者だけが利用していましたが、その後、発注者から施工者にまでメリットをもたらすものとなり、さらに最近では、IoT やAI などのテクノロジーを取り込むことで、より広い範囲に広がっていく、ということを表現しています。

コバーチ:BIM の進化は、従来の建築概念を大きく変えていく可能性がありますね。今日、いろいろとお話しできて、改めて実感しました。ありがとうございました。

写真左から:グラフィソフトジャパン株式会社:トロム ペーテル 氏/飯田 貴 氏/コバーチ ベンツェ 氏、株式会社 梓設計:杉谷 文彦 氏/安野 芳彦 氏

詳しくは、グラフィソフトジャパンのウェブサイトで。

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