国土強靱化~ナショナルレジリエンス最前線~
京大・藤井聡教授がデザインフェスティバルで講演(フォーラムエイト)
2015年1月11日

2014年11月21日、京都大学大学院 工学研究科 都市社会工学専攻の藤井聡教授は、東京・品川で開催されたフォーラムエイトデザインフェスティバル2014で「国土強靱化~ナショナルレジリエンス最前線~」と題する特別講演を行った。国土強靱化は財政対策と密接な連携のもとで取り組むべきであり、東京一極集中の緩和こそ最重要課題であると藤井教授は語った。

特別講演を行う藤井聡京都大学教授

特別講演を行う藤井聡京都大学教授

   基本法の制定で国土強靱化計画の基盤が強固に

第2次安倍内閣の下で始まった国土強靱化計画は、2011年の東日本大震災がきっかけだった。今後、発生することが予想される巨大地震への対策を中心に、大洪水や土砂災害、さらに社会インフラの老朽化に備える必要があると、自由民主党が野党時代から計画が進められてきた。

2012年12月、自民党は国土強靱化を選挙公約に掲げて戦い、勝利を収めて与党になった後、国土強靱化担当大臣を設置した。初代は古屋圭司氏だ。一方、内閣官房には国土強靱化推進室ができた。当初、常勤職員は3人だけの小さな部署だった。

そのとき、防災・減災ニューディール政策担当の内閣官房参与に任命された。国土強靱化推進室は現在、常勤が20人、非常勤を合わせて40~50人の規模になっている。

この2年間に何をやってきたかというと、まずは国土強靱化基本法を作ることだ。基本法作りでは、与党の方との議論が非常に重要だった。自民党が野党時代から作っていた国土強靱化総合調査会という組織があり、二階俊博会長の元で議論を行った。私はその第1回の会合で、講演をさせてもらった。

調査会の発足から2年たった2013年12月に国土強靱化基本法が成立した。この法律の成立は、国土強靱化政策の実行に重要な意味を持っている。それは、政権が変わっても、国土強靭化は引き続き行われることだ。

日本の最高意思決定機関である国会で決まった基本法に国土強靱化をやることが定められていれば、内閣が替わっても法律が書き換えられるまでは国土強靱化に取り組む義務が生じる。2013年は1年間かけて、国を挙げて国土強靱化に取り組む態勢作りを行った。

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   国土強靱化基本法で定められているもの

基本法の下で、国土強靱化基本計画を作ることが2014年6月に閣議決定された。その内容はインターネットで「国土強靱化基本計画」というキーワードで検索すると、すぐに見つかる。その内容はこれから5年間の間、政府は次のことに取り組むことが書かれている。

(1) 人命の保護が最大限図られること

(2)国家及び社会の重要な機能が致命的な障害を受けず維持されること

(3)国民の財産及び公共施設に係る被害の最小化

(4)迅速な復旧復興

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閣議決定とは、日本の決めごとの中でも行政権の力を使った最も重い決定の1つだ。政府はここに書かれていることを1文たりとも無視してはならない。

2014年の4月~6月で日本の国内総生産、国内総生産(GDP)は年率7.3%と大幅に下落した。日本経済はものすごいスピードで悪化している。通常、経済は一時的に悪化しても戻るものだが7月~9月ではさらに悪化している。これは国土強靱化とも浅からぬ問題がある。

最近、「実質GDPは5百数兆円ある」という説も出ているが、名目GPDは470兆円だ。モノの値段が安くなっているからというのが大きく違う理由だ。実質GDPが15兆円、名目GDPが10兆円下がるということは、国民1人当たり11万円から12万円、収入が減るということなのだ。

ちゃんと経済が運営できていれば、国民一人ひとりがもらえるはずだった11万円から12万円が奪われたということだ。GDPが減ると言うことは、国民が気づかないうちに損害を受けていることなのである。失われた20年と言われている間に、国民1人当たり年間100万円くらいが奪われた計算だ。

私は以前から消費税の増税に反対していた。その点、今回、消費税が8%から10%に増税される時期が1年半伸びたということは、ささやかな幸運と言えるだろう。国土強靱化基本計画の(3)の「国民の財産及び公共施設に係る被害の最小化」を実現する意味でも次回の消費税増税までにはデフレ経済から脱却しておくことが必要なのだ。

   防災・減災とニューディール政策の密接な関係

なぜ、国土強靱化にデフレが関係あるのかを説明しておこう。2008年のリーマンショックで外需が冷え込んだことにより、日本のGDPは25兆円も減った。デフレの下では民需は増えず、企業は設備投資を行うより内部留保しようとする。その結果、銀行にはお金が余ることになる。

このお金を国債によって吸い上げて、国土強靱化など日本に必要なところに投資する、これが「ニューディール政策」なのだ。私の肩書が「防災・減災ニューディール政策担当」となっているのも、国土強靱化がニューディール政策と密接に関係しているからなのだ。リーマンショックの後遺症から立ち直ることは、国土強靱化基本計画の(4)「迅速な復旧復興」を実践することだ。

これはリーマンショック後、中川昭一氏と麻生太郎氏が「リーマンショックの後遺症は全治3年」とし、15兆円の補正予算を組んだことと同じ考えである。もし、3年間、15兆円の補正予算を続けていたら、デフレから脱却できたはずなのだが。

しかしその後の民主党政権は、公共事業費を20%も削った。その後の第2次安倍政権ではわずか2%しか回復していない。建設業にとっては大打撃だ。かつてのように、公共投資をきちんとやって、国民を守るようなことはもはやできないのかもしれない。

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   アベノミクスの効果とは

アベノミクスには第1の矢「大胆な金融政策」、第2の矢「機動的な財政政策」、第3の矢「民間投資を喚起する成長戦略」と、3本の矢がある。2013年に景気がよかったのは、どの矢のおかげだろうか。名目GDPは0.9%、約1兆円伸びた。それは第2の矢の財政出動があったからだ。

では、第1の矢は有効だったのか。その効果により消費も伸びたが円安というデメリットもあった。輸入が少なければ大した問題もないが、原発が止まっていたため、海外から多くの油を買った。この状況下で円安になり、金融政策をやれば、とてつもない輸入超過になる。そして貿易赤字国に転落したのだ。第1の矢は効果が相殺されたと言えるだろう。

第3の矢はどうか。これはGDPの伸びには関係ない。なぜなら、第3の矢は2030年を目標にした戦略で、今、議論しているところだからだ。

つまり、アベノミクスの効果は、2013年の10兆円の補正予算によるものにほかならない。

2014年に景気が悪くなったのは、補正予算が5兆円と半減され、消費税が8%に上がったからだ。ただでさえ、10兆円の補正予算でGDPが現状維持していた状況なのに、今年は補正予算が5兆円と半減した。前年度に比べて消費税増税による8兆円、補正予算減が5兆円で13兆円のマイナス効果だ。その足し算、引き算の結果にほぼ等しく、日本のGDPは約12兆円減っている。

逆にデフレが終わってGDPが増えるとどうなるか。税収が増えるのだ。今の税収は40数兆円だが、4年前はたった36兆円だった。最高のときは60兆円もあったのだ。しかも消費税率は低いのに。景気さえよかったら、税収は増えるのだ。

60兆円の税収が今、あったなら、多くの部分が社会保障に使われたとしても、国土強靱化にも使われるのは明白だ。だから、デフレを脱却することが、国土強靱化を進めていくうえで、最も大切なことだ。そのためにも、次回の消費税増税までの2年半に、絶対にデフレを終わらせなければならないと認識している。

   お金がないとできない国土強靱化がある

財政問題の壁を乗り越えなければ、日本の国土強靱化の歩幅は著しく小さくなる。確かにお金がなくてもできる国土強靱化はある。例えば防災教育、事業継続計画のBCP、啓発活動、いろいろな議論、津波タワーなどは可能だ。

しかし、お金がなければできない国土強靱化もある。高い津波が来たとき、逃げれば命は助かるが、津波が引いた後、町が流されていたら人々はどこで生活するのか。和歌山には34mの高さの津波が来ると予測されている。高知や静岡も同様に30~40mの津波が来る可能性がある。

国土強靱化基本計画の(1)の生命は守れるが、(2)の国民の財産は守れない。例えば堤防や高台移転のように、政府が投資をしなければ守れないものもあるのだ。市役所が流されたら、復旧の拠点を失うことになる。致命傷を負わないようにすることを国家としてやるべきことが、国土強靱化基本計画に書かれている。

国土強靱化は美辞麗句だけでは進まない。圧倒的な政治力と、圧倒的な資金力、そして政治家の国民を守るという強い情念があってこそ、できるのだ。

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   国土強靭化で避けて通れない課題とは

今日は国土強靱化だけでなく、防災・減災ニューディールの考え方を含めてお話しした。国土強靱化を行うために国債を発行してデフレから脱却し、その後は税収で定常的に国土強靱化を進める。この考えは、私が東日本大震災後に10日間考え、2011年3月22日に国会で発表した「列島強靱化」だ。その一部が、国土強靱化に盛り込まれている。

最後に、国土強靱化を行ううえで避けては通れない課題がある。それは、東京一極集中からの脱却を図り、自立・分散・強調型の国土をつくることだ。東京一極集中のまま津波を待つのは非常に危険なのだ。

古代人は津波の教訓を伝えるため、「これより下に家を建てるな」と書き残した。高台移転が最も安全だ。首都直下型地震に対する高台移転とは、東京一極集中の緩和にほかならない。2割でも一極集中を緩和できれば、津波の被害も2割減るのだ。

それは死者の数が2割減り、復旧の費用が2割減り、さらに助ける人間は2割増えることを意味する。

このように一極集中の緩和は、何倍もの効果となって表れるのだ。限りある財源は、ここに使うことが最も効果があると断言してもいい。例えば新幹線は田舎に造られていない。特に日本海側や四国、九州の東側には新幹線は1本もない。東京一極集中を緩和する方法として、例えば新幹線の整備に毎年5000億円ずつ、20年間続けるといったビジョンを持ち、実行するくらいのことは必要ではないか。

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