「ARCHICAD BIMコンペ」は、鹿島のBIM業務が急増したことが開催のきっかけだった。そこでベトナムでARCHICAD人材の育成や普及を目指し、グラフィソフトジャパンが鹿島と地元大学の協力を得て、2014年に第1回のBIMコンペ開催にこぎ着けた。コンペ開催にかかわった鹿島やスポンサー企業、日本で活躍中のコンペ参加者などの関係者に直撃取材した。
「建築学生300人が参加、人口密集地域のデザインを競う、伝統の蛇かご壁もBIMモデル化」ベトナム「ARCHICAD BIMコンペ2016」レポート第1部より
鹿島の協力を得てグラフィソフトジャパンがコンペ開催
「ARCHICAD BIMコンペ」コンペは2014年に第1回が開催され、以後、毎年行われている。そのきっかけは、ARCHICADを活用する鹿島のBIM業務が急増したことだ。
鹿島は既にフィリピンとインドにBIMモデルの入力拠点を設けていたが、さらにベトナムにも拠点を設けたかった。しかしベトナムではARCHICADはあまり普及していなかった。BIMの活用はプレゼンテーションにとどまり、本来の設計業務へのBIM活用はほとんど行われていなかった。
そこでベトナムでの普及を図ろうと、鹿島とグラフィソフトジャパンが協力して大学生向けにARCHICADを使うイベントができないかと検討したのが、コンペ開催のきっかけだった。
鹿島 建築管理本部次長兼BIM推進室長の矢島和美氏は「グラフィソフトジャパン代表取締役社長のコバーチ・ベンツェ氏とホーチミン市内の大学を回ってコンペ開催への協力を説いて回りました。大学の先生方も、学生の就職にBIMが武器になることを知っていたので、全面的な協力を得ることができました」と語る。
その結果、2014年にホーチミン市建築大学の学生を対象とした第1回のBIMコンペを開催したのだ。
BIMコンペの開催を担当するグラフィソフトジャパンのBIMコンサルタント、川井達朗氏は「初めは何人参加してくれるのかわからなかった。学期中は勉強で忙しいので、期末試験の後に開催することにした」と振り返る。
300人の学生が参加した予選会
第3回を迎えた今年、BIMコンペは当時の心配を吹き飛ばすほどの盛況ぶりだ。参加対象はホーチミン市建築大学だけでなく、ハノイ建築大学の学生も加わった。参加したのはホーチミン市建築大学が約200人、ハノイ建築大学が約100人、合計300人以上が参加した。参加ルールは1チーム3人以内であることだ。
まず、4~5月にかけて参加チームを募集し、一次審査の作品提出を学生たちに呼びかけた。課題は両大学の教職員が出し、各チームは手描き図面やパースなどを配置したA1サイズのパネルと模型を提出。そして教職員による一次選考が行われた。
一次選考に通過した20チームに対し両大学で2週間ずつのワークショップが行われた。最初の2日間で「ARCHICAD」基礎トレーニングを行い、続く3日間でARCHICADを使いながら二次審査に提出する作品制作を行うという実践的な内容だ。その次の1週間は、チームメンバーだけで作品を完成させていった。
「学生たちは、2次元CADや無料の3Dデザインソフトには慣れ親しんでいる。そのため、3Dモデリングの基本的なスキルがあるので、わずか2日間のARCHICAD教育を受けただけでも、その後は自力で使いこなしていった」と、基礎トレーニングの講習を担当した川井氏は語る。
この間、コンペ関連のイベントとして現地で活躍する建築家であるVo Trong Nghia氏、西澤俊理氏、YKK AP FACADEのChief Design ManagerのLee Kim Seng氏による「BIM Workshop」特別講演を行った。
コンペ参加学生は日本企業のBIM戦力に
このイベントの開催で欠かせないのはスポンサーの存在だ。今回はプラチナムスポンサーとして鹿島グループ(鹿島建設、沖縄デジタルビジョン、鹿島クレス)、ゴールドスポンサーとしてDoallTech、日建リース工業、YKK APファサード、アクトエンジニアリング 、そして技術スポンサーとしてスタジオ ナオ、Atlas Industriesが協賛した。
最終発表会の前日には協賛企業の企業説明会も開いた。就職を控えた学生は、BIMを活用する各社の説明に、熱心に聞き入っていた。
2015年の第2回コンペからスポンサーとなり、今回のコンペで審査員を務めた沖縄デジタルビジョン最高顧問の吉田敬一郎氏は「年々、作品のレベルが上がっているのを感じる。審査ではBIM活用の技術よりも、課題のテーマにきちんと向かい合っているかどうかを重視して採点した。学生らしい突拍子のない斬新なアイデアの作品も目立った」とコンペを振り返る。
同じくスポンサーで今回の審査員を務めた鹿島建設 建築管理本部 BIM推進室グループ長の安井好広氏は「デザインよりも実務的なBIMの使い方やコンセプトを中心に採点した。ARCHICAD上で構造、意匠、インテリアのレイヤーを分け、Solibri Model Checkerで干渉チェックを行うなど、短期間でBIMソフトの特性を理解し実務に近い運用を意識しているのには驚かされた」と語る。
過去の参加学生の中には、コンペがきっかけとなって日系企業に就職し、BIMを活用する設計者になった人もいる。
2014年の第1回コンペの参加者であるホァン・ソン(Hoang Son)さんと、ヌー・ウィン(Nhu Quynh)さんは、沖縄デジタルビジョンに就職し東京で働いている。
ヌーさんは「コンペに参加したことがきっかけでBIMやARCHICADとのつながりができ、現在の仕事に就くチャンスがもらえた」と振り返る。
また、ホァンさんは「コンペの賞品として7日間、日本を旅して人々や景色、文化、建築物に接することができたのは、とても素晴らしい贈り物だった。コンペに挑戦したことで大きな世界とビジョンが開けた」と語る。
上司である吉田氏は「単なるBIMオペレーターではなく、BIMプロジェクトの中でコラボレーションできる人材に育てたいと思っている。彼らにとって日本語は難しいが、BIMのスキルを磨きながら、当社の業務で戦力になりつつある」と言う。
このほか、BIMコンペの参加者には、鹿島のシンガポール法人であるカジマ・オーバーシーズ・アジアに5人、大阪市のクレスに1人就職を果たした学生もおり、それぞれBIMの第一線で活躍している。
「ベトナムの大学にARCHICADを根付かせたい」
既に、2017年のBIMコンペ開催に向けての準備が始まっている。鹿島建設の矢島氏は「ホーチミンには有力な工科大学が集中している。9月にベトナム政府と協議して、参加大学を増やす方向で計画を進めている」と語る。
「ベトナムでのBIM業務は増える一方だ。BIMのスキルを持った新卒者を発掘し、日本企業への採用につなげていきたい。ベトナムのBIM人材の採用に興味のある企業は、ぜひスポンサーとして参加してほしい」と矢島氏は呼びかけている。
また、コンペ主催者のグラフィソフトジャパン代表取締役社長のコバーチ・ベンツェ氏は「ベトナムの学生はBIMの知識を得ること、そして日本での就職、もしくは現地の日系企業での就職に大変熱心だ。大学からは、カリキュラムをより充実したものにするために、教員のBIMとARCHICADの知識の向上をサポートする講師を派遣するよう要請も受けている。私はこれからも、コンペティションのさらなる規模の拡大も含め、現地の大学にしっかりとしたARCHICADのユーザーベースをつくっていけるようサポートを続けたい」と抱負を語った。
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