西松建設がダム工事でデジタルツイン施工管理を導入! ICT施工、2D作図、土量計算、遠隔支援を大幅に効率化(コルク)
2025年7月25日

西松建設は、川内沢ダム本体工事(宮城県名取市)にデジタルツイン施工管理を導入し、土木設計部の技術者が遠隔サポートできる体制を構築した。それを可能にしたのが、コルク(本社:東京都豊島区)のBIM/CIMクラウド「KOLC+」だ。ICT施工用データの作成やダム断面の2次元図面作成、土量計算など、デジタルツイン技術をフル活用することで大幅に効率化している。

ドローンで取得した点群データとBIM/CIMモデルを統合したデジタルツイン現場

ドローンで取得した点群データとBIM/CIMモデルを統合したデジタルツイン現場

 KOLC+が可能にした東北・九州間の遠隔施工支援

宮城県名取市内で施工中の川内沢ダムは、堤高36.7m、堤頂長140mの重力式コンクリートダムだ。宮城県が発注者となり、西松・奥田・グリーン企画JVが2022年10月より施工を行っている。

2025年5月末時点の川内沢ダム本体工事の現場状況

2025年5月末時点の川内沢ダム本体工事の現場状況

KOLC+上のデジタルツイン現場。ドローンで取得した点群データを定期的に反映している

KOLC+上のデジタルツイン現場。ドローンで取得した点群データを定期的に反映している

ダムの進ちょく状況は、ドローンで取得した点群データやBIM/CIMモデルを活用して現場の「デジタルツイン」を構築し、クラウド上で各地の工事関係者と共有しながら施工管理を行っている。その中心となるシステムが、コルクのBIM/CIMクラウド「KOLC+(コルクプラス)」だ。

KOLC+を導入した結果、これまでにないような遠隔サポート体制が実現できた。東北地方にあるこの現場のICT施工用データの作成や3Dモデルの作成などの業務を、なんと、九州の福岡から行っているのだ。

福岡市にいるのは、西松建設 土木設計部の幸松圭輔氏だ。「西松建設には、BIM/CIMデータを専門に扱う土木現場支援部門があり、現場をサポートしています。現場から日常的に送られてくるドローンの空撮写真や点群データ、図面などをもとにICT施工用の3Dデータ作成や、デジタルツインの更新を行っています」と幸松氏は語る。

西松建設では川内沢ダムの現場を全国各地から遠隔サポートしている

西松建設では川内沢ダムの現場を全国各地から遠隔サポートしている

年々、人手不足が厳しくなる建設業界では、2024年に時間外労働の上限規制が設けられ、少しでも移動時間を減らすことが望ましい。また、幸松氏のようにBIM/CIMモデル作成が得意な人材は限られており、各現場に常駐させることは難しい。

こうした移動のムダ削減や、数少ない人材の有効活用を図るうえで、KOLC+によるデジタルツイン施工管理は大きな効果を発揮しており、西松建設では欠かせないツールになりつつある。その強みは「モデル統合の手軽さ」、「デジタルツインからの2DCAD出力」、「対応フォーマットの豊富さ」にあるという。

 ICT施工用データのチェック作業を効率化

堤体コンクリートは、岩盤の上に直接打設されるため、強固な岩盤面まで、3Dマシンガイダンス付きのバックホーにて掘削する。この作業に使うマシンガイダンス用のデータを福岡の幸松氏が作っている。

作成したデータはKOLC+のデジタルツイン上で重ね合わせて標高や勾配などを確認した後、現場に共有する。すると現場では、同じデジタルツイン上で問題がないかを再チェックしたのち、Smart Construction(ICT建機)にアップロードして実際の施工を行っている。

マシンガイダンス用データはKOLC+(左)で確認したのち、Smart Construction(右)にアップロードし、施工に活用する

マシンガイダンス用データはKOLC+(左)で確認したのち、Smart Construction(右)にアップロードし、施工に活用する

川内沢ダム本体工事の副所長を務める西松建設の白武知浩氏は「このマシンガイダンスデータのおかげで、丁張りは必要なくなり、毎日連続して岩盤掘削が行えます。もし、マシンガイダンスがないと1週間に1日くらいは丁張りの設置や確認を行うための時間が必要で、工期をどう短縮しようかとストレスがたまるでしょう」と語る。

岩盤掘削用のマシンガイダンスデータにチェック用の標高や勾配を入力した様子

岩盤掘削用のマシンガイダンスデータにチェック用の標高や勾配を入力した様子

マシンガイダンスデータに堤体を重ねた様子

マシンガイダンスデータに堤体を重ねた様子

このマシンガイダンスデータのチェック作業にKOLC+が効果を発揮しているという。

「KOLC+を使えば、モデル面を1点クリックするだけで法線の傾きから勾配を簡単に確認できます。幸松さんが重要なチェックポイントをKOLC+の計測ツールで事前にマークアップし、ビューを保存してくれているおかげで、現場では細かい操作をせずに3Dビューアでチェックできて非常に助かっています。」(白武氏)。

「協力会社にデータを作成してもらった場合は、受領したデータが正しいかどうかをKOLC+のデジタルツイン上で重ね合わせて、断面を切って寸法チェックなどを実施しています。3D形状の正しさには気をつけていて、2D図面を統合したり、標高を表記したりして現場と齟齬がないように工夫しています」と幸松氏は言う。

マシンガイダンス用データ(右)は施工前にKOLC+のデジタルツイン(左)と統合し、現場と整合性が取れていることを確認する

マシンガイダンス用データ(右)は施工前にKOLC+のデジタルツイン(左)と統合し、現場と整合性が取れていることを確認する

3Dデータから作成した数量算出用の横断図を重ね合わせた例

3Dデータから作成した数量算出用の横断図を重ね合わせた例

岩盤掘削形状と転流工の干渉を3Dで検討した例

岩盤掘削形状と転流工の干渉を3Dで検討した例

 デジタルツインから2DCADを切り出して作図を効率化

近年、国土交通省のBIM/CIM推進の方向性として「3次元モデルと2次元図面の連動」が重要なテーマとなってきている。BIM/CIM推進委員会の資料では、LEVEL-2を「3~5年で一般化」とされているが、西松建設のこの現場では既に「LEVEL-2」相当の内容を実運用しており、2次元図面作成の作業効率を圧倒的に高めているという。それを支えているのがKOLC+の「断面DXFツール」だ。

出典:第13回BIM/CIM推進委員会(令和7年2月25日)の資料(https://www.mlit.go.jp/tec/content/001867343.pdf)

出典:第13回BIM/CIM推進委員会(令和7年2月25日)の資料(
https://www.mlit.go.jp/tec/content/001867343.pdf)

その特長は、BIM/CIMやLandXMLを任意の断面で2DCAD(DXF形式)を出力できる点だ。切り出す面は、水平・垂直断面のほかモデル面や直交面など自由自在に指定できる。点群データの自動図化にも対応している。

「ダムのスライス図を作成する時にKOLC+から2DCADを切り出して作図しています。KOLC+を使う理由は、とにかく切り出しが高速で簡単な点です。他のソフトでも切り出せますが、結構手間がかかって時間を要したり、断面数が多いとソフトが固まったりします。KOLC+はスナップ機能が強化されて『切りたいところで切る』という当たり前のことを直感的にできるようになりました。半分CADソフト代わりに使っています」(幸松氏)。

(1)スライス図を作成する標高に水平断面を追加(KOLC+)

(1)スライス図を作成する標高に水平断面を追加(KOLC+)

(2)断面を2DCAD(DXF)で出力してAutoCADに読み込み

(2)断面を2DCAD(DXF)で出力してAutoCADに読み込み

(3)2DCADに面積などを追記して作図した例(AutoCAD)

(3)2DCADに面積などを追記して作図した例(AutoCAD)

さらに、分業もしやすくなっているという。

「操作が簡単なことで、分業もしやすくなりました。通常、断面の切り出しは大変な作業なので、最初から2次元図面だけでいいという論点になりやすいですが、KOLC+を使えば3D設計の良さが発揮されると思います」と幸松氏は言う。

2次元図面だけで施工する点について、白武氏は「ダムの図面は細部をイメージにしにくい部分が多く、経験を積めば把握できますが、若手職員が理解するのは難しいと思います。この現場の若手は設計形状を確認するために、スマートフォン(iPhone)でKOLC+の3Dモデルを表示することがあります」と3次元設計の必要性を語った。

 土量計算の正しさを3Dで共有可能に

今年1月にKOLC+に「土量計算ツール」が実装されたが、本現場では既に「土捨て場許容土量」や「コンクリート量」の算出および共有に活用しているという。

「これまでは、点群ソフトウェアで土量計算した結果をスクリーンショットで共有していましたが、これでは画像に映っていない部分が正しく計算できているかを現場が確認できません。計算結果の正しさを共有するには切盛土量の3Dモデルをそのまま渡す必要がありますが、専用ビューアのインストールや大容量ファイルの転送が必要になります。今回、KOLC+で土量計算ができるようになったことで、計算結果を3Dのまま簡単に共有できるようになったのが良いと思いました」(幸松氏)。

KOLC+で土捨て場許容土量を計測した様子。設計モデル面と現況点群の差分土量を算出している

KOLC+で土捨て場許容土量を計測した様子。設計モデル面と現況点群の差分土量を算出している

計算結果は3次元で共有できる。国土地理院の地形を統合すれば周辺状況も確認可能だ

計算結果は3次元で共有できる。国土地理院の地形を統合すれば周辺状況も確認可能だ

岩盤面に打設するコンクリート量も「土量計算ツール」を使って点群データから算出している

岩盤面に打設するコンクリート量も「土量計算ツール」を使って点群データから算出している

 「Grasshopper」でモルタル数量などを自動算出

幸松氏は、BIM/CIMモデルの属性情報の有効活用にも取り組んでいる。3Dモデリングソフト「Rhinoceros」で動作するビジュアルプログラミング環境「Grasshopper」を使って、堤体のモルタル量などを集計してExcel帳票を出力するところまで自動化している。

「将来的には、KOLC+の『BIM属性集計ツール』を使用して、任意の範囲,箇所,部位の数量を簡易に取り出すワークフローを検討する予定です」(幸松氏)。

特定のブロックとリフト(左。点線内)から属性情報を確認したところ(右。赤枠内)

特定のブロックとリフト(左。点線内)から属性情報を確認したところ(右。赤枠内)

プログラミングツール「Grasshopper」によりモルタル数量を自動計算する流れ

プログラミングツール「Grasshopper」によりモルタル数量を自動計算する流れ

各ブロック、リフトのモルタル数量一覧表

各ブロック、リフトのモルタル数量一覧表

 KOLC+導入の決め手はコスパと操作性

この現場では、2022年の着工時にKOLC+の導入を決めたという。その理由について幸松氏は「この現場では日常的にドローン(UAV)による点群データ取得を行う予定だったため、点群と3D設計モデルを『手軽に』重ね合わせて共有できるサービスとしてKOLC+を選択しました。コストパフォーマンスと操作性を評価していて、社内でも使いやすいという人は多いです」と言う。

また白武氏も「2D図面や3DCADを共有しながら協議すると、分かりづらい部分も視覚的にやり取りできるので非常に助かっています」と話す。

その使いやすさから、現場に約20人いる職員のうち約8割がKOLC+を日々の施工管理業務などに使っており、発注者や協力会社もKOLC+にログインしてデータ共有を行っているという。

「全員で1つの統合モデルを見ながら会話ができる環境は、お互いに齟齬なく仕事を進めていく上で非常に重要だと思います。3次元設計に詳しい人材が豊富にいる環境ではないので、離れた場所にいても誰かしら現場を支援できる環境は作っていきたいと考えており、この現場がとても良いパイロットケースになっていると感じています」(幸松氏)。

人手不足の中、生産性向上と働き方改革、そして省人化を実現するデジタルツイン施工管理ツールとして、KOLC+は西松建設では欠かせない存在になっているようだ。

 【問い合わせ】

株式会社コルク

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-11-1 メトロポリタンプラザビル14階
ウェブサイト https://kolcx.com/
問い合わせ https://kolcx.com/support/contact/

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