ArchiCAD 活用事例: アールテクニック一級建築士事務所
曲面を生かした大胆なデザインをArchiCADで実現
旧軽井沢の風景に溶け込んだコンクリートチューブ(グラフィソフトジャパン)
2011年8月30日

ArchiCAD15のパッケージに全世界共通で採用された「SHELL」という住宅は、楕円形のコンクリートチューブを基軸とした大胆なデザインにもかかわらず、別荘地・旧軽井沢の風景に不思議と溶け込んでいます。設計者のアールテクニック代表取締役、井手孝太郎氏はArchiCADを使用し、自然の中で生き続ける別荘のイメージや機能を基に、設計を具現化していきました。3次元設計によって優れた意匠を追求するとともに、耐久性や施工性、そして住み手が求める機能性を兼ね備えた設計が実現しました。

 

 20110830-image1.jpg アールテクニック一級建築士事務所
代表  井手 孝太郎 氏

   施工性を考えた2次元曲面

軽井沢の自然の中で長い間使用され続け、風景に完全に溶け込む別荘について考え抜いた井手氏には、「もみの木を囲むように落ちていた構造体に住む」というイメージが浮かびました。

井手氏は、施主が求める機能を実現するプロセスから、必然として生まれるデザインを重視しています。別荘と求められる機能として考えたのは、使いやすく、快適で、手間がかからないということでした。

「軽井沢の自然は厳しいです。冬は寒く、夏は湿度も高くなります。そのため、木造の家は手入れや補修を怠ると、すぐに朽ちてしまいます。そこで、コンクリートのシェルを地表に浮かせて置いたイメージにたどり着きました」と井手氏は説明します。

“SHELL”のデザインスタディ
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3次元曲面で構成した当初のデザイン案(左)のイメージを生かし、施工性を考慮して2次元曲面のチューブ形状(右)に変更した

ArchiCADで作成した当初の設計案は、3次元曲面の巨大な貝殻のようなデザインでした。ところが、鉄筋コンクリートで型枠を組み、3次元曲面を造るのは大変な作業になります。

「厳しい自然環境の中で長持ちする建物を造るために、モルタル仕上げを避け、RC現場打ち放しにこだわりました。そこでチューブ状の形に変更し、下部と左右の部分は型枠を組んでコンクリートを打設し、屋根部は下側だけ型枠を組んでその上からコンクリートを流して左官方式で仕上げるという方法を考えました」(井手氏)。

内部に柱はなく、RCのシェル構造としています。これが名前のもう一つの所以です。コンクリート厚は上下部が330mm、左右部が730mmと連続的に変化しています。これも力学的な必然性によるデザインです。

井手氏はArchiCADのモデルから断面形状のゲージを作成し、左官作業の際にも活用しました。コンクリートの内面には断熱材として厚さ60mmの硬質ウレタンを吹きつけ、さらに吸湿性のある仕上げ材を10mm吹き付けました。

  3次元ならではの完成度の高さ

SHELLの内部には地上高1.4mの高さに床板を張り、その上に家具やサッシなどを配置しています。丸い壁だと、スペースに無駄が出やすいと思われがちですが、ソファやキッチンの奥行きとして、有効に使われています。

「丸い壁に接する家具や設備の位置や形状を検討するときも、ArchiCADは大いに役立ちました。2次元の図面だと面の交点座標を求めるのが大変なので、限られた設計時間の中で2~3回しか検討できませんが、ArchiCADは同じ時間で20回くらい繰り返しシミュレーションができます。そのため設計の完成度はとても高くなりました」と井手氏は語ります。

サッシの展開図も、ArchiCADのモデルデータから作成しました。楕円のチューブに沿って、楕円のサッシを取り付ける工事です。コンクリート打設の施工精度は当初、クリープも含め20mmくらいを見込んでいましたが、実際には最大で3mm程度の誤差で収まり、CAD寸法で設計したサッシはスムーズに取り付けられました。

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丸い壁の内側スペースも有効に利用されている もみの木を囲むように配置されたウッドデッキや建物

床下には配管や空調・換気装置を集中的に配置し、冬季の不在時には自動的に空調運転を行うことで、配管の凍結を防ぐことができます。そのため、最小限のエネルギーで水抜きの手間が不要になりました。

ArchiCADで設計したSHELLは、使いやすく、快適で、手間がかからないという狙い通りの別荘とななり、首都圏に住むオーナーがほぼ毎週過ごしています。

  3次元CADでなければ意味がない

井手氏がArchiCADを使い始めたのは、独立してアールテクニックを立ち上げた1994年ごろでした。従来の製図板や消しゴムの機能をパソコンに置き換えただけではCADの意味がないと考え、最初から3次元CADを導入したのです。

以後、井手氏はArchiCADに新機能が追加されるたびに、活用の幅を広げていきました。「ArchiCAD13で追加されたチームワーク機能は、所員との意思疎通にとても役立っています。ArchiCAD15では、リノベーションという機能が追加されると聞いていますが、設計を前に戻すことなく、様々な代替案を検討できるようになるので期待しています」と井手氏は語ります。

「ArchiCADを使うと3次元のムービーの中で建物を設計するような感覚になります。2次元ベースの設計作業に比べてストレスが少なく、スタッフも楽しく仕事ができるようです」(井手氏)。

 20110830-image6.jpg  SHELL
■所在地:長野県北佐久郡軽井沢町 ■地域・地区:第1種低層住居専用地域、浅間山麓景観育成重点地域 ■延べ面積:329.65m2 ■構造・構法:鉄筋コンクリート造、直接基礎 ■階数:地上2階 ■意匠設計・CMr:井手孝太郎/アールテクニック(担当:藤原盛幸・光安るり・本谷卓、協力:藤井兼祐・井手真名美) ■構造設計:北山直身/設計直 ■設備設計:中山浩/TNA設計 ■電気設計:佐藤淳悦/EPS設計 ■施工者:楠健司/技覚 ■施工期間:2006年9月~8年5月
アールテクニック一級建築士事務所
■設立:1994年 ■事業内容:住宅、商業施設、家具等の設計及び施工管理 ■代表者:井手 孝太郎
■所在地:東京都目黒区3-34-1-3号室

 

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