埋設管の”真実のデジタルツイン”を追求、水都環境のBIM/CIM活用にAutoCADが不可欠な理由とは(オートデスク)
2021年7月1日

上下水道や電線管などの設計や解析などを手掛ける水都環境(本社:埼玉県東松山市)に欠かせないツールがAutoCADだ。デジタル地図に紙図面やテキストデータ、さらには写真や点群データまで、様々な種類のデータを統合し、地上と地下の構造物を一体化した“真実のデジタルツイン”を追求するために、自由自在にプログラミングが行えるAutoCADの柔軟さが欠かせないためだ。

紙ベースの台帳を写真撮影し、AutoCADに読み込んだところ。数値地図やテキストデータ、点群データなどと統合し、GISベースの台帳を作成する

   様々な情報を集めて“真のデジタルツイン”を追求

建設業界では、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)やCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)の活用が一般的になってきた。水都環境でも、2018年から埋設管の詳細設計すべてにCIMを活用している。その一方で欠かせないツールがAutoCADだ。

「プログラムさえ組めば、だいたいのことは自由自在にできる柔軟性がAutoCADの良さです。BIM/CIMの時代になりましたが、様々な種類の情報を集めて、一つのデータにまとめるのに、AutoCADは欠かせません」と、水都(みなと)環境 代表取締役の長谷川充氏は語る。

水都環境代表取締役の長谷川充氏

例えば、紙ベースで管理されてきた下水道台帳をGIS(地理情報システム)化する業務だ。ベースとなる数値地図は、最新の測量技術で作られているため正確だ。

この上に紙ベースの上下水道や道路の台帳や施工時の図面などを重ねていくと、マンホールの位置がずれたり、管路が道路からはみ出したり、埋設管同士が干渉したりといった不整合が必ずといっていいほど生じる。

「紙で管理されてきた台帳や図面は、地図の境界部がずれていたり、図面の向きが違ったりするほか、紙自体の伸縮による誤差などもあります。また図面とは別に表計算ソフトのデータとして管路の情報が管理されていることもあります。これらの整合性がとれるようにして、一つにまとめる作業は“真のデジタルツイン”の追求と言っても過言ではありません」(長谷川氏)。

数値地図と台帳の合体

   AutoCADのマクロで自由自在なデータ処理

ある自治体から依頼された紙ベースの台帳をGIS化する業務では、数多くの紙図面をスキャンして画像データ化した。これらをAutoCADに読み込み、数値地図に重ねて1枚にするのが最初の難関だ。これに現地で撮影した写真やメモなどを、位置情報に応じて配置する。

一方、表形式のテキストデータとして管理されている管路やマンホールなどの情報も、管径や埋設深さ、材質などが複数のデータに分かれていることがある。これを一つの表にまとめる作業もある。

こうした作業のスペシャリストである水都環境の石川信恵氏は「紙ベースの図面をGISと合体させるときに使っているのが、AutoCADの業種別ツールセットの1 つ、『Raster Design』です。スキャンした図面から汚れを取り除いたり、縦横比を補正したりといった作業や、ラスター画像の図面を線分やポリラインに変換してベクトル化する作業をAutoCAD上で行えるのでとても便利です」と説明する。

オートデスクのAutoCAD including specialized toolsetsをフル活用する水都環境の石川信恵氏

「さらに多くの台帳の図を1枚の地図上で張り合わせたり、テキストデータを属性情報として地図にひも付けたりする作業は、AutoCADのマクロをプログラミングして自動処理を行っています。まるで表計算ソフトのマクロを書く感覚で、2Dや3Dの空間的なデータを自由自在に扱えるAutoCADの柔軟性は、こうした作業に欠かせません」(石川氏)。

通常のBIM/CIMの設計では、もとの資料としてデータ化された台帳が提供される場合も多い。しかし、その前段階で様々な情報を総合し、整合性のとれたデジタルツインにまとめていく作業には、今もAutoCADは欠かせないのだ。

表形式のデータはIDを「キー」にしてマージする

様々な図を、データを手かがりに結合する

苦労の末、出来上がったGISベースの台帳

   管きょの詳細設計はほぼすべてCIM化

2006年に創業した水都設計は、上下水道や電気、通信関連のパイプラインの新設や更新にかかわる業務を幅広く手がける。

創業当初は2次元CADベースの業務スタイルだったが、2012年に試験的にCIMを導入するとその可能性に気付き、2018年からは管きょの詳細設計はほぼCIM化している。15人の社員数に対し、8ライセンスのAECコレクションを導入している。

「AEC コレクションには多くのソフトウェアが含まれていますが、それぞれの特化した部分を使用することで、作業の効率化ができます。メンバーとのコラボレーションもスムーズです。(石川氏)

AECコレクションをフル活用して設計した埋設管のBIM/CIMモデル

いまでは3Dレーザースキャナーによる現状調査にオートデスクの点群処理ソフト「ReCap」、地形の作成に「InfraWorks」や「Civil 3D」、パイプラインの設計に「Plant 3D」や「Revit」、施工計画に「Navisworks」を活用するなど、AECコレクションに含まれるソフトをフルに使いこなすまでになっている。

BIM/CIMを活用した設計ワークフローの改善にも取り組んでおり、今後の業務に向けてどんなツールを使い、どんな属性データを持たせれば業務の生産性が上がるのかを常に検証している。

例えば、埋設管のBIM/CIMモデル化では、地形のサーフェスモデル作成はCivil 3Dで行い、埋設物の位置決めにはAutoCAD、埋設物の深度データはCivil 3Dの計画線機能で与えるといった具合だ。

さらに、電話・電気ケーブルのモデル化はAutoCADのスイープ機能、下水道のモデル化はCivil 3Dのパイプネットワーク機能、そして水道、ガスの配管はPlant 3Dと、最適なソフトや付属する機能を使い分けている。

構造物の種類に応じて、最適なソフトや機能を使い分けて作成したプラントのBIM/CIMモデル

詳細設計業務の流れと使用ソフト・データの例

現状調査・・・ReCap(点群)、写真、台帳収集
地形作成・・・InfraWorks、Civil 3D
現況復元・・・QGIS、Plant 3D、Civil 3D、Revit、Navisworks
設計計画・・・InfraWorks、Storm and Sanitary Analysis、各種専門ツール
構造設計・・・Revit、各種専門ツール
施工計画・・・Navisworks、Excel
図面作成・・・AutoCAD
数量算出・・・XML、CSV、Excel
工費算出・・・Gaia

いまだに紙ベースの台帳が使われている自治体は多い。その一方では、デジタル化された台帳をネット上で公開し始めた自治体もある。台帳のデジタル化を機に埋設管などのライフライン分野はBIM/CIM活用がようやく動き始めた。

長谷川氏は「公開された台帳などのデータがあると、道路工事や配管工事などの関係者は大いに助かります。ただ、ライフライン分野のBIM/CIM活用は建築や土木に比べて始まったばかりなので、情報収集が大変です」と語る。

そこで長谷川氏は2021年5月20日、Facebook上に「BIM for Pipeline JPN」という公開グループを開設し、パイプラインの計画から設計、施工、維持管理までの情報交換が行えるようにした。グループ内では早速、下水道や上水道関係の図表を公開している自治体についての情報交換などが始まった。

Facebook上に長谷川氏が開設した公開グループ「BIM for Pipeline JPN」

「弊社は上下水道をメインに設計を行っています。発注元の自治体への成果物は2 次元図面で、提出成果物として 3D モデルは要求されていませんが、自社として建設生産システム全体の効率化するため、『身近な・軽いBIM/CIM』を目指しています」と長谷川氏は語る。

「変更・修正があっても手間がかからないし、途中から誰が使っても一定のクオリティーが保てます。そして次のフェーズである工事担当者が、1 から作成しなくて良い図面を作れます。BIM/CIMは 3D と思っている人が多いですが、3D モデルを作ることが目的ではなく、2D の世界でも BIM/CIMはあります。2D の成果を作るプロセスで3D で検証したモデルから 2D にフィードバックできることは、大きなメリットでしょう」(長谷川氏)

   BIM/CIM時代にAutoCADを選ぶ理由

最近はAutoCADのネーティブデータ形式として知られる「DWG形式」に対応した低価格のDWG互換CADも、サードパーティーから幅広く開発・販売されるようになった。

「それでも当社がAutoCADを使い続けるのは、大きな図面や3Dモデル、点群データなどを開いたときの安定性がしっかりしていることにあります。またこれまで開発したAutoCAD用のプログラム資産をそのまま使える利便性も大きいですね。」と長谷川氏は説明する。

「AutoCAD の業種別ツールセットの価値も大きいです。例えば Plant 3D では、3D 配管を効率良くできます。以前は直角に落ちる図が描けませんでしたが、簡単に描けるようになりましたし、属性を付与することもできます」と石川氏が続けた。

「Raster Design では、ラスター画像の補正機能を使って、紙台帳のスキャン時に発生する伸縮や歪みを補正できます。Map 3D ではSHP ファイルの読み込みなどが役立っています。AutoCADやAutoCAD LT はとにかくユーザーが多いので、設計・建築プロセスでの社内外でのコラボレーション、データ連携がスムーズです」(石川氏)

台帳のGIS化には点群データを使うこともある

紙ベースからデジタルベースへと変わりつつあるライフラインの世界では、冒頭に紹介したように各種データを読み込み、自由自在に加工できるAutoCADならではの柔軟性も欠かせない。

AutoCAD自体もBIM/CIM時代のユーザーニーズを取り入れ、2021年 5 月に製品ラインアップをリニューアルした。これまでは2次元CAD専用として「AutoCAD LT」があったが、3D モデリングやビジュアライゼーション機能も持つ「AutoCAD」に一本化した。

この新しい AutoCAD はもちろん、水都環境が実践しているようにカスタマイズやプログラミングによる自由自在なデータ処理も行える機能を備えている。AutoCADに加えて Plant 3D や Raster Design など 7 つの業種別ツールセットが使える「AutoCAD including specialized toolsets」は変わらず「AutoCAD Plus」という通称で販売している。

新しい AutoCADは従来のAutoCAD LTと同じ価格に据え置いた。2次元CADとして図面作成を行うだけでなく、BIM/CIMと連携した3次元CADツールとして幅広く活用できる道が広がったのだ。

「AutoCADは汎用性がとても高く、思うことが実現できるプラットフォームです。現在の仕事をラクに楽しくやろうとするときに、すぐ使える環境を提供してくれます。新しいニーズや効率化も積極的に取り入れたい。AutoCADモバイルアプリ、Web アプリを活用して、リモートワークや外出先での図面確認も試験的に行い、検討しています」と、長谷川氏は語った。

【参考】
BIM-Design
http://bim-design.com/infra/
Autodesk CIM Facebookページ
https://www.facebook.com/Autodesk.CIM
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