第一建設工業(本社:新潟市中央区)は、河川内での橋脚補強工事に欠かせない作業空間を確保する新しい仮設工法「D-flip工法」を開発した。同社はこの工法の施工手順などをオートデスクのCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)ソフトで3Dモデル化し、作業員への説明やウェブサイトでのPRに活用した。さらにVR(バーチャルリアリティー)化して、よりリアルなプレゼンテーションにも挑戦している。
「VRだと作業空間の広さが実感できる」
鉄道工事を得意とする第一建設工業は、2016年3月末現在で従業員数893人、売上高484億円を持つ有力ゼネコンだ。2017年4月のある日、同社の会議室では、幹部や社員がVRゴーグルを着けて「D-flip工法」と呼ばれる新しい仮設工法の検討を行っていた。
「VRゴーグルを着けて、仮設の中をウオークスルーすると、内部の作業空間の広さが実感できますね」と、第一建設工業 取締役 常務執行役員 土木本部長の佐藤勇樹氏は語る。
D-flip工法とは、河川内に立つ橋脚を補強する際、周囲にドライな作業空間を設けるための「仮締め切り」と呼ばれる仮設工法だ。
これまでは橋脚をぐるりと囲むように河床に矢板を打ち込み、作業空間を作る方法が一般的だった。しかし、この方法だと仮設の設置だけで3~4カ月もかかってしまう。河川内で行う工事は、10月~3月の渇水期に完了する必要があるが、これだと間に合わない。
そこで第一建設工業は、コンクリート橋脚の周囲で円筒形の鋼製ライナープレートを組み立て、水中に吊り下ろして底部と橋脚をつないで止水する方法をとることにより、わずか1カ月で作業空間を作れるようにした。このD-flip工法によって、橋脚の補強工事はぐんと行いやすくなった。
●D-flip工法の施工手順
CIMモデル | 実際の現場 |
もちろん、水面下での作業空間となるため、安全性には最大限の注意を払う必要がある。同社ではこの工法の開発に3年をかけた。実物大の部材を使った実証実験も行って、仮締め切り設備を水中へ吊り下ろす方法や施工性、止水性を確認した。
その結果、2016年10月から17年3月に、JR奥羽本線の米代川橋梁で行われた橋梁の耐震補強工事で初めて、D-flip工法を現場適用し、無事に施工を完了することができた。
わかりにくい構造を3Dモデルで可視化
最大で水深8mまで対応できるD-flip工法は、橋脚の水中部分に底版を設置して固定し、周囲を円筒状のライナープレートで覆うことで、橋脚の周囲に作業用の空間を設けることができる。
ただ、従来の平面図や断面図、側面図といった2次元の図面だと部材同士の位置関係や作業空間、各部材の設置手順などがわかりにくい。
そこでオートデスクのCIM関連ソフトを集めたパッケージである「Autodesk Infrastructure Design Suite」(現在はAECコレクションに統合)を導入し、その中に含まれているAutoCADでD-flip工法全体の3Dモデルを作成した。
「あらかじめ作られた仮設部材の3DパーツをAutoCADで積み木のように組み立てるようにすると、意外と簡単にモデリングできました」と土木本部土木技術部課長の高橋範明氏は言う。
AutoCADで作成した3Dモデルは、DWG形式で保存した後、パッケージに含まれるNavisworksに読み込んで施工手順のアニメーションなどを作った。
「このアニメーション動画は、パソコンやiPadに入れて作業員や潜水士に部材の取り付け手順などを説明するときに使いました。図面による説明と違ってわかりやすいと好評でした」と土木本部土木技術部課長代理の丸山哲郎氏は語る。
冒頭のVRコンテンツは、AutoCADの3Dモデルをパッケージに含まれるBIMソフト、Revitに読み込み、「AUTODESK LIVE」というオートデスクのクラウドサービスを利用して作成したものだ。
「D-flip工法の開発に関連して、6件の特許を申請中です。新工法のニーズは、隠れたところに転がっているので、従来の“プッシュ型営業”だけでなく、インターネットを使った“プル型プロモーション”も必要だと考えています。これらの動画やVRコンテンツは近い将来、自社のウェブサイトなどにも掲載し、PRに活用したいと考えています」と佐藤本部長は語る。
住民説明や鉄筋干渉もCIMで
第一建設工業では5~6年前から、社員有志が無償の3Dモデリングソフトを使って、鉄筋や河床ブロックのモデリング練習などを行ったことはあったが、実務でCIMソフトを活用するのは今回が初めてだ。
「当社が行っている鉄道工事には、住宅地の真ん中で大きな重機を使う工事や踏切周辺の工事などもあるので、今後は周辺住民への説明にもCIMを積極的に活用していきたい。また、プレゼンテーションだけではなく、鉄筋量の多いボックスカルバート部材などの鉄筋の干渉チェックなど、設計業務にもCIM活用を広げたい」と高橋課長は語った。
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