管理人のイエイリです。
“日本のBIM元年”と言われた2009年ごろ、BIMの活用レベルをイメージする言葉として「BIM1.0」(建物の3Dモデル化や図面作成への活用)、「BIM2.0」(BIMモデルの解析・シミュレーションなどへの活用)、「BIM3.0」(BIMによる建設業界でのワークフロー構築など)といった表現がよく使われていました。
それから3年目、日本もいよいよ「BIM2.0」の世界へと本格的に突入し始めたことが、10月21日に東京・渋谷で開催されたソフトウェアクレイドル主催の「Software Cradleユーザーカンファレンス2011」で明らかになりました。
10月21日に開催された「Software Cradle ユーザーカンファレンス2011」の会場風景(写真:家入龍太) |
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BIM対応の意匠設計ソフト「Revit Architecture」で作成したBIMモデル(左)を、3次元熱流体解析ソフト「STRAEM」(右)に自動変換する「Revit2STREAM」(資料:ソフトウェアクレイドル) |
ソフトウェアクレイドルは、1984年から「STREAM」という3次元熱流体解析(CFD)ソフトを開発・販売している老舗ソフトベンダーです。同社は、BIM対応の意匠設計ソフト「Revit Architecture」上でSTREAM用のデータを書き出すアドオンソフト「Revit2STREAM」を開発しました。
「Revit2STREAM」をいち早く導入した安井建築設計事務所の道勇直記さんは「BIMと環境シミュレーション連携」というテーマで講演し、CFD解析を行う際のBIMデータ活用率が急激に高まったことを明らかにしました。
ナ、ナ、ナ、ナント、2011年度はCFD解析の
75%でBIMモデルを活用
するまでになったというのです。
講演する安井建築設計事務所の道勇直記さん(写真:家入龍太) |
安井建築設計事務所における熱流体解析の例(資料:安井建築設計事務所) |
BIMデータの活用率が急増した理由は、Revitで作成した建物の3次元形状を自動的に簡略化してCFD用に自動変換されるとともに、部材の材質などの属性情報も同時にSTREAMに渡せるようになったからです。
その1年前の2010年度は、形状だけを「STL形式」で渡していたものの、材質などの情報はSTREAM側で別途、入力していたので手間がかかっていました。そのため、CFD解析を行う際のBIMモデルデータの活用率は22%にとどまっていました。
「建物形状」と「属性情報」が同時に受け渡せるBIMの特徴を生かしたことにより、環境解析の件数も本年度は前年度に比べて2~3倍くらいになりそうとのことです。まさに、「BIM2.0」の効果ではないでしょうか。
CFD解析へのBIMモデル活用率は昨年度22%だったのが、本年度は75%に急増した | 環境解析の実施件数もうなぎのぼり(左右の資料:安井建築設計事務所) |
一方、建設会社でもCFD解析を生かした超省エネ空調システムの開発に取り組んでいます。
「パーソナル空調の開発におけるSCRYU/Tetraの活用事例」と題して講演した竹中工務店の和田一樹さんは空調の設定温度が28℃でも26.5度くらいに感じられる空調システムを開発したことを明らかにしました。
空調機からの冷気を天井裏の空間に給気し、微小な穴を空けた天井板から少しずつ冷気をにじみ出させることにより天井板自体を冷却し、天井板による「放射冷房」を行います。
さらに、執務スペースにはそれぞれ個人用の「パーソナル吹出口」を設けて、自分の好きな気流に調整できるようにしました。各人が自分の好きな気流速度に調整できるようにしたことが、満足度の向上にもつながったそうです。
講演する竹中工務店の和田一樹さん(写真:家入龍太) | 冷却した天井膜とパーソナル吹出口。膜証明部も冷えている(以下の資料:竹中工務店) |
省エネのため、設定温度を高くしたオフィスでは、よく扇風機を使っている風景を見かけます。しかし、扇風機のモーターの発熱によって室温が上がるという逆効果もあるようです。
そこで、
わずか3W程度の消費電力で
で毎時20~30m3の空気を供給できる吹出口を空研工業と共同開発したそうです。
パーソナル吹き出し口の外観。ダウンライト形にしてデザインも考慮した | 発熱する人体や天井板による放射冷房、気温、気流などを考慮したCFD解析 |
CFD解析を使うと、目に見えない建物内の気温や放射熱、そして気流などの状態が一目で分かるようになります。BIMモデルを使うと作業も簡単になり、設計者自身が意匠設計段階でCFD解析を行えるようになってきました。今後、ユニークな省エネビルが続々と実現しそうですね。