落橋事故を防げ!毎日通る路線バスで中小橋梁を安価に診断
2012年4月10日

管理人のイエイリです。

日本の社会インフラはこれから本格的な“メンテナンス時代”を迎えます。高度成長期に建設された橋、ダム、港湾などが50年を経過し、急速に劣化しているからです。

エコビジネス ネットワーク」によると、2010年度の国と地方を合わせた公共事業費は8.3兆円のうち、更新費(0.9兆円)と維持管理費(3.3兆円)で、既に50%を占める状態になっているそうです。

特に橋梁については、これまで安全性の診断方法が確立されていなかったため、安全チェックの見落としも少なくなく、大事故につながった例が国内や海外で報告されています。

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1990年、岐阜県の町道下田瀬1号にかかる島田橋はPC鋼線の腐食によって落橋した(写真:構造計画研究所)

こうした問題を解決するため、構造計画研究所山口大学は共同で中小橋梁の簡易健康診断方法を開発。その成果を発表しました。

その診断に使う装置は、

ナ、ナ、ナ、ナント、

 

毎日通る路線バス

 

なのです。

路線バスの車軸に加速度センサーを取り付けて、橋梁を通過するときの振動データをモニタリングします。そのデータから独自に開発した「たわみ特性値」を抽出・分析し、橋梁の健康状態を判断する仕組みです。

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路線バスを使った橋梁モニタリングシステムの概要(資料:構造計画研究所。以下同じ)

路線バスを使うことのメリットは、バス1台で主要路線上の複数の橋梁をチェックできること、橋梁側に特殊な通信装置や電源を設ける必要がないこと、センサーの交換が簡単なことなどがあります。

構造計画研究所と山口大学は、2010年12月から2011年12月まで合計37回にわたって山口県宇部市内の新権代橋(1径間 23.6m 、幅員 11.7m、単純梁構造の斜橋、1998年架設)など3つの橋梁を計測し、この診断方法の実用性を検証しました。

その結果、新権代橋の場合、PC供試体のプレストレス力が50%、90%に低下した場合、たわみ特性値はそれぞれ1.93倍、2.87倍になることが分かりました。

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新権代橋におけるたわみ特性値の変化(上)と計測地点(下)

つまり、路線バスで毎日、測定しているたわみ特性値が大きくなってきたら、

 

PCケーブル破断の疑い

 

がある、というわけですね。

もっとも、たわみ特性値には天候や対向車の有無のほか、運行速度やバスに乗っている乗客数などが影響を与えます。これらの誤差は、15回程度の移動平均を取ることによって排除できるとのことです。

1回ごとの計測は誤差を含んでいたとしても、統計的手法によって処理すれば信頼できるデータとして活用できそうですね。

また、橋梁とバスのバネ下の振動加速度を比べた結果、一定の類似性があることも確認できたそうです。

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橋梁(黒線)とバスのバネ下(赤線)の振動加速度波形を比較したもの

橋梁など社会インフラのチェックというと、構造物側で測定することを考えてしまいがちですが、その上を通るものを使って計測するという方法は大幅にコストダウンを図れそうですね。

新幹線では線路の健康状態をチェックする「ドクターイエロー」という検査車両が有名ですが、舗装や盛土、上下水道、河川、港湾など、毎日通過する車両や船舶などを使ったチェック方法が考えられれば、大メンテナンス時代のコスト削減に大いに役立ちそうです。

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