清水建設シンガポール事務所のBIM活用に迫る
大規模複合施設の建設に「フルBIM」を導入(オートデスク)
2014年7月4日

清水建設シンガポール事務所は、オートデスクのBIM(ビルディング・インフォメー
ション・モデリング)ソフトを活用し、4年がかりで活用スキルのレベルアップに取り
組んできた。2014年から大規模複合施設「MBC2」の建設では、ついに意匠、構造、
設備を連動させた「フルBIM」を導入。短工期での施工を目指している。

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清水建設がシンガポールで建設中のMBC2のCGパース(資料:清水建設)

   シンガポールのBIM義務化に対応

シンガポール政府の建築建設局(BCA)は、2012年から2015年にかけて順次、建築確認申請時のBIMモデル提出の義務化を進めている。

2012年はまず官庁プロジェクトを対象に意匠モデルの提出を義務化した。2013年は2万㎡超の建築物に意匠モデル、2014年は2万㎡超の建物に意匠、構造、設備モデル、そして2015年からは5000㎡超の建物に意匠、構造、設備モデルの提出を義務づける。

こうした確認申請のBIM化により、その下流に位置する施工者も、必然的にBIMモデルを扱う能力が求められることになる。そこで清水建設シンガポール事務所では、オートデスクのBIMソフトを導入し、4年前から3段階に分けてBIM導入計画を進めてきた。

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3段階に分けたBIM活用範囲の拡大計画(資料:清水建設)

第1段階は一般的なBIMの機能の活用することから始まった。まずはBIMソフト「Autodesk Revit」の意匠設計機能で、2Dの図面をもとに建物を3Dモデル化することに取り組んだ。さらにBIMモデルビューワー「Autodesk Navisworks」も使い、3Dに時間軸を加え4Dによるモデリング技術の習得も行った。

「商業ビルなどでエスカレーター部分の上下階を、火災時に防煙シャッターで仕切るとき、2D図面だとちょっとしたところですき間があるのを、設計時に見落としてしまうことがある。その点、4DによるBIMモデルで様々な角度から検討すると、こうしたすき間も見逃すことはない」と石橋氏は説明する。

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RevitでBIMモデル化した建物内部(資料:清水建設)
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火災時に可動式の防炎シャッターの動きを4Dで検討したモデル。エレベーター周りで上下階の境界部分がすき間なく遮断できるかを検討した例(資料:清水建設)
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Navisworksを活用した4Dによる施工手順の説明(資料:清水建設)

また、タイル割りを設計するとき、2D図面だと床と壁の目地が別々の図面に描かれていたため、ずれていることに気づきにくい場合もあった。BIMで設計すると、床と壁の目地を連携させることも行いやすくなった。

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トイレのタイル目地の設計例。2次元CADで平面図と立面図を別々に作成すると床と壁の目地がずれていることに気づきにくい場合もある(左)が、Revitだと床と壁の連携が取りやすい(右)(資料:清水建設)

シンガポールではコンドミニアムや病院の建設が盛んだ。コンドミニアムは外観が凝ったデザインのものが好まれ、値上がりする傾向があるという。すでに地元の建設会社も普通のコンドミニアムを施工できる実力を身につけてきたため、日系の建設会社はより複雑なデザインのものを手がける傾向にあるという。

「コンドミニアムや病院は設備を収納するスペースにあまり余裕がない場合が多く、変更も多い。その点、BIMで設計しているとスムーズに対応できる」と石橋氏は言う。

そこで、第1段階ではさらにRevitの構造設計機能「Autodesk Revit Structure」を使い、現場で柱と梁の接続部などの詳細モデリングや、意匠・構造・設備のBIMモデル連携、そしてBIMによる施工図の作成も行った。

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意匠と構造の連携。構造を参照しながら意匠を設計(左)したり、意匠を参照しながら構造を設計(右)したりすることにより取り合いを正確に行う(資料:清水建設)
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Revitで作成した柱と梁の接合部の詳細なBIMモデル(資料:清水建設)
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BIMモデルから各種施工図を作成(資料:清水建設)

   第2段階は干渉チェックや数量計算に挑戦

第2段階ではRevitやNavisworksなどの自動機能の活用に挑戦した。代表的な機能は部材同士の干渉チェックや数量計算だ。

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干渉チェック機能による意匠、構造、設備間の設計調整(資料:清水建設)

「数量計算機能は、現場の運営にも役立っている。例えば今日は何?分の生コンを打設する、何㎡分のタイルを現場に配る、といったことにも使っている」(石橋氏)。

BIMモデルと他のソフトとの連携にも挑戦した。例えばRevitで作った構造のBIMモデルを構造解析用ソフトに読み込んで解析することにより、構造設計と構造解析の双方向連携を可能にした。

また、BIMモデルを工程管理に行うことにもチャレンジした。BIMモデルの各部分をプロジェクトマネジメントソフト「Microsoft Project」と連携させ、工程表上の進行状況とBIMモデルが連動するようにしたのだ。

これによって工程の進行状況をいつの時点でもBIMモデルによって視覚的に確かめられるようにした。

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「Microsoft Project」の工程表(左)とBIMモデル(右)を連動させた例。進行状況がBIMモデルによってわかりやすく表現される(資料:清水建設)

前述のようにシンガポールでは建物に高いデザイン性が求められることが多い一方、工事現場で働く作業員のスキルは日本よりも低い。こうしたギャップを乗り越えるためにも、BIMを活用している。それは部材のプレハブ化だ。

まず、BIMモデルでデザインを確認した後、図面を作り、最後に部分的なモックアップを作成して設計を確定する。プレキャスト部材は現場での修正が聞きにくいため、デザイン的にも施工面でもしっかりとした設計を確定させておくことが重要なのだ。

例えばシンガポール郊外で施工中の「スカイ・ハビタット・コンドミニアム」の現場では、複雑な構造部分の施工シミュレーションや設備の干渉チェックをBIMで行い、手戻りのない施工を行っている。

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シンガポール郊外で建設中のコンドミニアムのBIMモデル(左)と現場(右)(左資料:清水建設)
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2つの棟を結ぶ3本の橋があり、一番上の橋にはプールが設けられる(資料:清水建設)
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橋の架設シミュレーション(左)。現場事務所ではBIMモデルを見ながら会議を行っている(左資料:清水建設)
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建物が下方に向かって開く「スプレー部」のBIMモデル(左)と現場写真(右)(左資料:清水建設)

   4年間の集大成として「フルBIM」を実践

シンガポールで建設中の複合施設「メープルツリー・ビジネスシティー2」(以下、MBC2)は、敷地面積約4万3000m2、のべ床面積約24万5000m2の大規模プロジェクトだ。この施設の施工を担当する清水建設は、意匠、構造、設備の設計をすべてBIMで行う「フルBIM」を導入し、わずか26カ月という短工期での完成を目指している。

約900人が所属する清水建設シンガポール事務所では、4年前からBIM活用の取り組みを行ってきた。その途中には病院やコンドミニアムなどの建設プロジェクトでCGによるデザイン検討や干渉チェック、数量計算など、少しずつBIMを導入してきた。MBC2はその集大成とも言えるものだ。

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MBC2のBIMモデル(資料:清水建設)

複雑な建物を短工期で完成させるためには、手戻りは極力防ぐ必要がある。そこで意匠・構造・設備を連携させたBIMモデルで干渉部分がないかを事前に確認し、地下に埋設されている電線をBIMモデル化して、付近で側溝の施工が行われるときには電線に障害などを与えないように注意するようにした。

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意匠、構造、設備を連携させたBIMモデル(左)。地下に内接されている電線類もBIMモデル上に書き込み、近接作業での注意すべき点をわかりやすくした(右)(資料:清水建設)

現場事務所には「BIMルーム」を設け、意匠、構造、設備のBIMモデルや図面をプロジェクターで映しながら技術的な課題を解決する会議を行っている。例えばBIMモデルを見ながら施工上の問題点を洗い出したり、部材同士の干渉部分を見つけて解決したり、設計チームと施工チームの調整を図ったりといった会議だ。

こうしてBIMモデルの段階で問題が解決してから、最終的に図面が作られて施工に使われる。

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フルBIMが導入された大規模複合施設「MBC2」の現場事務所。BIMモデルを見ながら打ち合わせを行う(写真:清水建設)
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技術的な検討で使われた資料の例(資料:清水建設)
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意匠、構造、設備のBIMモデルから施工図を作成する(資料:清水建設)

MBC2の現場所長を務める石橋章夫氏は「シンガポールの工事現場で働く作業員は、外国人がほとんどで日本の職人のように図面から3次元的な空間をイメージすることが難しい。その点、BIMはわかりやすいので現場のスタッフや作業員への説明にとても重宝している」と語る。

もはやシンガポールでは、BIMを活用できないと仕事にならないと言っても過言ではない状況になりつつあるようだ。

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清水建設シンガポール事務所でBIMソフトを活用する設計スタッフ
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