全ベッドに窓を! 意匠設計から3D総合図まで
さいたま日赤病院でのBIM活用(オートデスク)
2014年8月25日

さいたま市の新都心で建設中のさいたま赤十字病院の設計・監理を担当する日建設計では、オートデスクのBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)ソフト「Revit」を外観の検討や意匠設計に活用したほか、施工段階では意匠、構造、設備の各設計を1つのBIMモデルにまとめた「3D総合図」を参照しながら干渉部分の解決などを指示している。

ペデストリアンデッキから見たさいたま赤十字病院(資料:日建設計)

ペデストリアンデッキから見たさいたま赤十字病院(資料:日建設計)

   高度医療の充実を目指した新病院

埼玉県さいたま市中央区で建設中のさいたま赤十字病院は、小児に専門的な高度医療を行う埼玉県立小児医療センターと隣接して整備されている。

両院が開設すると、第三次救急やがん診療など総合的な医療と総合周産期母子医療センター機能なども併せ持つ高度医療の充実が図られ、また、災害時には防災基地機能を持つ、さいたまスーパーアリーナが近接していることにより、防災拠点として迅速な救命救急活動が行われることが期待されている。開院は平成28年内を予定している。

ブロック受付 イメージ(資料:日建設計)

ブロック受付 イメージ(資料:日建設計)

   全ベッドに窓を設けた斬新なデザイン

医療機能だけでなく、利便性の高いペデストリアンデッキや緑化の活用、デザインやバリアフリーも追求し、すべての人に快適で潤いのある環境を提供するさいたま新都心の新しいシンボルになることも期待されている。

設計・監理を担う日建設計は、外観デザインの検討や意匠設計に、オートデスクのBIMソフト「Revit」を活用、設計を具体化していった。

デザイン上で特筆すべきことは、4人部屋の病室を含めて、全ベッドの脇に窓を設けたことだ。その結果、病棟は上から見ると「井」の字形をしており、一般の病棟に比べて窓の数が多いことがわかる。

「この病棟は、単なる医療施設としての機能だけでなく、さいたま新都心の新しいシンボルとして『おもてなし空間』にすることも期待されている。

この理念を具現化する設計作業で建物の外観の検討や、内観のイメージを検討するのにRevitは役だった」と日建設計設計部門副代表の藤記真氏は語る。

4人部屋の例。すべてのベッド脇に窓が設けられている(資料:日建設計)

4人部屋の例。すべてのベッド脇に窓が設けられている(資料:日建設計)

病棟を上から見ると「井」の字形をしている(資料:日建設計)

病棟を上から見ると「井」の字形をしている(資料:日建設計)

その結果、病棟は上から見ると「井」の字形をしており、一般の病棟に比べて窓の数が多いことがわかる。

「この病棟は、単なる医療施設としての機能だけでなく、さいたま新都心の新しいシンボルとして『おもてなし空間』にすることも期待されていた。この理念を具現化する設計作業で建物の外観の検討や、内観のイメージを検討するのにRevitは役立った」と日建設計設計部門副代表の藤記真氏は語る。

   Revitが活躍する日建設計の医療部門

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日建設計設計部門

副代表 藤記 真 氏

藤記氏は1982年に日建設計に入社後、意匠設計を担当してきた。最近は、医療施設の設計が多く、北里大学病院や神戸医療センター、小倉記念病院などの設計を手がけてきた。

「日建設計では、様々なBIMソフトを使っていますが、医療分野では4~5年前からRevitを活用することが多くなっています」と藤記氏は言う。

病院建築では、意匠はもちろん、地域の防災拠点として機能するために構造にも高度な安全性が求められる。そして建物内には医療行為に使う様々な配管や配線、ダクトなどの設備が一般のオフィスビルと比べものにならないほど、ぎっしりと埋め込まれている。

「さいたま赤十字病院の設計・監理で、重視したのは意匠、構造、設備の納まりを施工前に決めておくことでした。従来の2次元図面は設計の趣旨を表現するための情報であり、立面図などでは陰に隠れている部材なども多くあります。建物を造るためには、意匠、構造、設備のすべてを事前にはっきりさせておく必要があると考えました」と藤記氏は言う。

   工事初期段階で設計調整を行うプレコンストラクション・サービス

そこで日建設計は、発注者の日本赤十字社に工事の発注条件として、施工時に「3D総合図の作成」を義務づけることを提案した。日本赤十字社は了承し、工事入札の特記仕様書に盛り込んだ。

総合図とは、施工段階で意匠、構造、設備の設計図を1枚の図面にまとめて、干渉部分がないかなどをチェックし、施工図を作る基礎とする重要な図面だ。

今回の工事では、基礎部分を施工する約5カ月の期間を生かして、3D総合図の作成と設計修正を行った。3D化することにより、複雑に入り組む設備や建物の各部材同士が3次元的に干渉している部分をBIMソフトの干渉チェック機能で発見しやすくなったのだ。

「3D総合図の作成は、仕様書で基準階のほか手術室の天井裏や免震階など意匠、構造、設備の各部材が交錯する部分を対象にしました。つまり、建物のクリティカルな部分を中心にフルBIMを行ったわけです」と藤記氏は語る。

「BIM活用の目的は、建物の納まりを見極めることと思っています。設計図書は設計趣旨を表現するという側面が強く、図面だとすべての断面を切って確認することはできません。そこで梁とダクトの干渉部分や、窓とガラリのおかしな位置関係など、納まっていない部分を納めるのです。BIMをプレコンストラクション・サービスのツールとして使いました」(藤記氏)。

施工段階では3D総合図を作成することが特記仕様書に盛り込まれた(資料:日建設計)

施工段階では3D総合図を作成することが特記仕様書に盛り込まれた(資料:日建設計)

   BIMマネージャーは“現場所長”

意匠から構造、設備までのBIMモデルを統合し、干渉チェックや設計調整などのマネジメントを行うのがBIMマネージャーという専門家だ。今回のプロジェクトではRTKK株式会社の久米氏に協力を仰ぎ、BIMマネージャーとしての職能を託した。

BIMマネージャーはBIMモデルを作成するのが仕事ではない。設計者やゼネコン、サブコンなどが作成したBIMモデルを取りまとめて、問題点を発見し、調整を行う役割を担う。

「工事現場の現場所長が施工計画や工程管理などを行うのと同じように、BIMマネージャーはBIMを使ってコンピューターの中に仮想の建物を建設できるようにマネジメントを行います。そのためには、オブジェクトの属性情報の種類や設定の仕方などを設定する必要がありますが専門的な知識や経験が必要です。BIMマネージャーとは、いわばコンピューターの中の現場所長なのです」(藤記氏)。

フロア全体を俯瞰で見渡せるのもBIMの大きな利点(資料:日建設計)

フロア全体を俯瞰で見渡せるのもBIMの大きな利点(資料:日建設計)

精密に作成された3D総合図。部材同士の干渉部分などを事前に発見し、修正することで施工段階での作業の手戻りを防いだ(資料:日建設計)

精密に作成された3D総合図。部材同士の干渉部分などを事前に発見し、修正することで施工段階での作業の手戻りを防いだ(資料:日建設計)

日建設計は、3D総合図の作成によって見つかった干渉部分の解決方法などを指示し、着工前に設計を修正する役割を担った。この設計修正の情報は、施工図にも反映され、現場での作業の手戻りを未然に防いだ。

「梁とダクトが干渉したときは天井を下げて解決するといったことから、カーペットの色決めや、壁の仕上げをクロスにするかペイント仕上げにするかなど、いずれ決めなければいけないことも3D総合図の段階で決めていきました」(藤記氏)いわば、設計者自身がリーダーシップを発揮して、施工時のフロントローディング(業務の前倒し)を行ったものと言えるだろう。

病棟1床室イメージ(資料:日建設計)

病棟1床室イメージ(資料:日建設計)

ホールの完成イメージ。さいたま新都心のおもてなし空間としての機能も期待されている(資料:日建設計)

ホールの完成イメージ。さいたま新都心のおもてなし空間としての機能も期待されている(資料:日建設計)

   LODで350目指し、属性情報も統一を

BIMを建築プロジェクトに活用し、有効に活用するうえでは、BIMモデルに込めた設計の詳細度(LOD:Level of Development)を明らかにし、属性情報を設計から施工、維持管理へと各社が引き継いで活用していく体制作りが欠かせない。

「今回、作成した3D総合図は、LOD350相当でBIM化すると各社合意の上、BIM作業を進めた」と藤記氏は説明する。

「BIMモデルにインプットされた属性情報は、建物の仕様を表すものだ。属性情報として入力する用語や記号も、今後、建築業界、国、そして海外で共通化していくべきではないだろうか」(藤記氏)。

最後に藤記氏はBIMによる生産性向上についてこう語った。「BIMでフロントローディングをしっかり行うと、施工時の作業の手戻りや材料のムダなどがなくなるので、生産性が上がります。BIM活用に必要な費用と、節約できた費用の『投資採算性』、つまりROIは十倍~数十倍になるでしょう」。

さいたま赤十字病院プロジェクトでのBIM活用は、建築設計事務所が施工段階での生産性向上を実現できることを実証したという点で、設計者と施工者のBIMによるコラボレーションに新しい道を開いた。

BIM統合モデルを構築し、設計に活用するフロー(資料:RTKK株式会社)

BIM統合モデルを構築し、設計に活用するフロー(資料:RTKK株式会社)

LOD(Level of Development)活用ステージ(資料:RTKK株式会社)

LOD(Level of Development)活用ステージ(資料:RTKK株式会社)

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