2014年8月22日(金)、東京・大手町サンケイプラザで「第6回Vectorworks教育シンポジウム2014」が開催された。「デジタルの力(ちから)」をテーマとした今回は、放送大学教授(東京工業大学名誉教授)の梅干野晁氏と、マウントフジアーキテクツスタジオを主宰する建築家、原田真宏氏が特別講演を行った。
今年6月30日、エーアンドエーの代表取締役社長に就任した川瀬英一は「おかげさまでOASIS加盟校の数も年々増えてきている。みなさまにはVectorworksを使った授業を行っていただいているが、特にここ数年3次元への取り組みが増えてきていると感じている。今日一日イベントにご参加いただき、ぜひ今後の授業の糧となる情報を得て帰っていただきたい。」と、あいさつした。
OASIS加盟校の教職員による講演は4件中3件が、九州の大学・短大によるもので注目を集めた。4年目となるOASIS奨学金の研究成果発表や、3Dプリンターで作成したオブジェクトや研究成果パネルの展示も行われ、会場はVectorworksを授業や研究に活用する教育関係者や学生などで1日中熱気に満ちていた。
特別講演
Bioclimatic Design(バイオクライマティックデザイン)のすすめ
-環境設計の教育手法と授業カリキュラムの提案-
放送大学 教授、東京工業大学 名誉教授 梅干野 晁 先生 |
設計に興味を持っている環境工学分野の研究者は皆、「バイオクライマティックデザイン」に対して熱い心を持っている。しかし、設計の実務ではこの手法はあまり普及していない。建物だけを作るのではなく、環境を作るという「地球環境建築」の考え方のアプローチに、バイオクライマティックデザインはぴったりだ。
今日の講演では、バイオクライマティックデザインについて3つの側面からお話しする。併せて、教育シンポジウム2014のテーマは「デジタルの力」なので、これを最大限に生かして、3Dでのコミュニケーションや環境のシミュレーションが行えるソフト「サーモレンダー」を教育ツールとして紹介したいと思う。
バイオクライマティックについて1つ目の話をしよう。これは日本語で「生気候」といい、その起源はハンガリーの建築家ビクター・オルゲイが1963年に出版した「Design with Climate-Bioclimatic Approach to Architectural Regionalism-」という本あたりにあるようだ。地域の特性を生かして、人間が快適な環境を作ろうという考え方だ。
例えば、アリ塚はアリ自身が活動することで生ずるエネルギーを生かした空調システムを内部に持っている。一方、チンパンジーがすんでいる高い木の上は、風がそよそよと流れ、葉っぱに隠れられる最も快適な場所だ。
これと似た考え方の建築が「パッシブ建築」や「環境共生建築」だ。建築設計で快適性というと空気の温度ばかりを考えがちだが、湿度や日射、風の影響も大きい。温度が同じでも日射や風の影響で快適範囲が広がったり、狭まったりする。建築設計者は温度や湿度、日射、風などに対する感性は鋭いが、それが数字の問題になると入っていけない人が多い。
しかし、バイオクライマティックは数字で扱う必要はまったくなく、人間の感性で、快適性に影響を与える要素を大事にして設計に取り入れようというのが本質だ。
オルゲイの時代には、日射や影を解析するのに建物や樹木の模型を作って実際に光を当てて検討した。風の流れも建物や街並みの模型を作って風洞実験を行い、風通しに対する樹木や窓の大きさ、位置の影響などを調べた。「人工気象室」といった大がかりな実験装置まで作られていた。このことはもちろん今日でも大切なことだ。
日本の建築分野ではちょうどこの1963年に設計原論から音や光、熱、空気などの物理環境を扱う分野が分かれ、空調設備などと合体して「環境工学」という新しい部門ができた。それ以降の高度経済成長期の影響もあり、建築分野はさらに細分化していった。
その結果、本来は設計原論で考慮すべきはずの環境分野が設計にフィードバックしにくくなってきてしまっている。今、バイオクライマティックデザインを主導しているのは環境工学の人が中心だが、本来は計画・設計の分野の人が中心となって推進し、環境工学の人はそのサポートをするというのが望ましいのではないだろうか。
2つ目の話は、建物を設計したときに環境的にどうなるかを予測評価して、それをわかりやすく掲示することが大切だ。そのために「デジタルの力」を生かすことは有効だろう。私は実測や実験によって得た知見を生かしながら、ここ20年間、シミュレーションソフトの開発を行ってきた。シミュレーション技術と3次元CADはそれぞれ別に独自の進化を遂げてきた。そのため、3次元CADで設計した建物のデータを、直接シミュレーションソフトで解析することはできなかった。新たにシミュレーション用の入力データを作る必要があったのだ。
そこで、CADで設計した建物をそのままシミュレーションソフトで解析し、その解析結果を一般の人にもわかりやすいように可視化したいと考えた。この開発に使う3次元CADソフトはいろいろと検討した結果、エーアンドエーのVectorworksが最も相性が良いと思った。そこで生まれたのが、Vectorworksで設計した建物の熱環境解析を行える「サーモレンダー」というソフトだ。
このソフトの特徴は、街中のすべての表面温度が予測でき、これを3次元CAD上で可視化できることだ。なぜ表面温度が重要かというと、街づくりの設計要素である材料と空間形態によって決まる熱収支の結果を反映するものだからだ。
「サーモレンダー」によって提案した大気への顕熱負荷を示す「ヒートアイランドポテンシャル」の値が求められる。ヒートアイランド現象を改善していくためには、さまざまな環境対策の効果を解析で比較検討することが不可欠だろう。
例えば街中の樹木が少ない歩道などは、夏は50℃にも達する。焼けた砂浜の上で生活しているようなものだ。その対策としては植樹する方法が有効だが、ケヤキの木を植えると1本50万円くらいする。「サーモレンダー」を使うと、その費用に対して効果がどのくらいあるのかを予算執行者に対してわかりやすく説明することができる。
設計者はVectorworksで設計した建物をそのまま「サーモレンダー」でシミュレーションにかけることができる。つまり設計計画と環境工学がデジタルの力でダイレクトにつながり、バイオクライマティックデザインを実践しやすくなる。
3つ目は、3次元CADと熱収支シミュレーションを使って、環境設計のための設計製図授業を行えないだろうかという話だ。われわれは今、BIM、3次元CAD、熱収支シミュレーション、そして環境の可視化を組み合わせた、設計製図「Bioclimatic Design」のための授業プログラムを開発している。
設計製図の授業で7回ぐらいを想定している。「アウトドアリビングを重視した住宅」や「快適な商業空間」などのテーマを設定して、学生は3次元CADで設計し、シミュレーションの結果出力、改良案の作成という作業を繰り返しながら教員とディスカッションを行う。そして最後の授業で最終案をプレゼンテーションする、というものだ。
ポイントは
- 3DCADで設計したものを学生自身で容易にシミュレーションに入力できること。
- シミュレーション結果を時間・空間ともに自由に3DCAD上に出力できること。
- シミュレーションに使われる設計パラメータについて、学生自身が電子教材で勉強できることだ。
バイオクライマティックデザインのすべてではないが、BIMとシミュレーションを使うことで環境設計が行え、結果が出せるということを、環境工学の授業ではなく、設計製図の授業の中でぜひ学生に経験してもらいたい。これからますます求められる地球環境に配慮した設計を実践するうえで、1つのアプローチになればと考えている。
特別講演
船のような
マウントフジアーキテクツスタジオ 主宰建築家 原田 真宏 氏 |
建築家の役割とは、世の中にある取り合っていなかったり、納まっていなかったりするさまざまなものの複雑な関係を整理して統合や調和を与えてやることではないかと思っている。そのときにデジタルのツール、Vectorworksは非常に役に立っている。
Vectorworksは最初のプレゼンの資料から図面、施主とのやりとりまでの情報を、統合的に1本のソフトの中に収められるところがよい。こうしたオールマイティーな全体性が建築という統合の作業に大切だと思っている。専門に特化したCADは多いが、あまりに専門的な分野に特化したCADだと、こうした使い方はできないだろう。
私は10年前にマウントフジアーキテクツスタジオを立ち上げたが、そのずっと前に建築を志すことになったのは、静岡県焼津市という港町に生まれたことが大きかったと思う。父親は船の設計をしていた。周囲には職人さんや漁師さんたちがいて、みんな海と関わりを持っていた。
よく船の試運転時に乗せてもらい沖に出た。海と船、そして水平線はとてもカッコイイと思ったが、それに比べて私たちが生活している陸上の街並みはとても汚く見えた。同じ人間が作ったものなのに、なぜ船はカッコよくて、街はカッコ悪いのだろうと思ったことが、私を建築に向かわせたのだろう。
美しい世界を作るためには建築家になればいい。そうして父親とは違う建築の道を歩み始めた。
船はなぜ美しいのか。その建造の動機は人やモノを運ぶという社会的、経済的な必要性から始まるのだが、いざできてしまえば嵐や波といった非常に厳しい自然条件の中でいかに合理的であるかが重要になる。船の美とは、自然の論理に対して合理的な姿として立ち現れているからだと思う。さらに付け加えるなら、自然の合理性と社会の合理性の均衡としてその姿が決定されているからだ。
建築も船のように自然と社会の合理性がバランスするように作れば、変わっていくのではないか。建築家となった今、このように考えている。
ローマ時代の建築家、ウィトルーウィウスによる「ウィトルーウィウス建築書」でも、「制作」という自然科学的側面と「理論」という社会学的側面の両方を習得することの重要性が説かれている。その思想は21世紀の今でも生きていると思うのだ。
私が自然と社会の合理性の調和を目指して作ってきた建築をいくつかピックアップしてご紹介したい。まずは150万円で建ててほしいと頼まれた「XXXX HOUSE」という陶芸アトリエ。150万円という価格は、建築の世界だと家具1個の値段という感覚だが、クルマだとフルスペックのトヨタカローラが買える。クルマは空間があり、椅子という家具があり、カーステレオや窓やドアがある。そんな動く個室が手に入る「お金」が、建築の世界では家具ひとつになってしまうのはおかしい。
そこで徹底的に合理的な建築を作ることで、同じ金額でもクルマに負けない価値をもったものが作れるのではないかと思い、積極的に取り組んだ。当然、この値段では工務店には頼めないし、クレーンなどの重機も使えない。複雑な仕口や継ぎ手も使えない。
このような厳しい条件をクリアしようと思うと、慣習的な建築の様式を超えて考えざるを得なくなる。その条件に適合した、新しい形式を探さなければならないのだ。
そこで考えたのがベニア合板で作った平行四辺形の枠を、互い違いに傾けてつないだ構造だ。接続部の断面にできる三角形がトラス構造となる。27㎡はほしいという施主の希望と厳しい価格、そして意匠と構造のデザインを調和させて解決するために、こうしたデザインが生まれた。この建物は建築家の登竜門であるSDレビュー誌で1等賞を取ることができて建築家としてデビューできた。
次に手がけたのが「M3・KG」という映画プロデューサーの自宅兼スタジオだった。この建物では多くの人が集まれるロの字形の大空間と、オーナーや資産であるフィルムをしっかりと守る小さなL字形の小空間で構成されている。
そもそも建築は空間の広さ「m3」を、材料の量「kg」で割った値が大きくなるように進化してきた。できるだけ少ない材料で大きな空間を実現することがよしとされてきたのだ。しかし、ロマネスク様式の教会は材料に比べて空間はとても狭く、m3/kg比はとても小さいが中に入ってみると安心感があって好ましい。これは「kg」の力によるものだ。
そこで、この住宅では、「m3」を大きくした空間と、kgを大きくした空間を組み合わせることで、開放的な広い空間と、安心できる守られた空間の両立を図ったのだ。
広島県尾道市の海を見下ろす斜面に建つ「Seto」は、常石造船の社宅だ。尾道は斜面がそのまま海に没しているような地形で、ほとんど平らな土地がない。
そこで私たちが考えたのは、崖上に12mほどオーバーハングするような水平の建物を作り、その上を広場のようなパブリックスペースにする案だった。町に開かれた場所にする広場には崖の裏から直接アクセスできるようにした。建物の山側はタワー棟にして、これを重りとすることでヤジロベエのようにバランスを取る安定した構造を実現した。
オーバーハングしている部分は3階建てで高さ9mほどある。これだけの梁成(はりせい)があれば、12mのキャンチレバーも可能になる。構造的な解決の手法を設計の初期段階から考えておくと、自分が描いたビジョンと完成形がそろってくる。
屋上広場は明るく、とても気持ちのよいスペースだが、人間には隠れた場所や暗がりのような場所も必要だ。そこでキャンチレバーの下の空間はあえて薄暗い場所になるように考えた。有形無形のさまざまな要求条件群に解決と調和を与えるようと見いだした建築形式だが、結果的には、造船の町のシンボルになったようだ。この建物は現在国内、海外で2つずつの賞に残り、その内いくつかは決勝を待っている。
このほか、旗竿形の敷地に建つ「Tree House」は周辺の建物との調和、熱海の別荘地に建つ「PLUS」は自然地形との調和、真鶴半島に建つ「Shore House」は人工/天然、外来/地場といった素材等との調和をそれぞれ考えて作った。「mother’s house」や「LogH」は構造部材の調和、コンペに提出した「Mount Fuji World Heritage Center」は富士山の稜線形状と吊り屋根の景観的な調和を図った。
建築を、自分の外部にある解くべき対象として見るのではなく、自分の一部が含まれる環世界的存在ととらえていきたいと考えている。
OASIS研究・調査支援奨学金制度成果発表
2013年度のOASIS奨学金のテーマは、「3.11以降を見据える『ゆとりの目』」だった。奨学金を授与された3人の学生が、この1年間の研究成果を発表した。
来館者のゆとりある生活の質向上にむけた未来の公共図書館のありかた
~館内のくつろぎ行為からみた新たなゾーニング方法に関する研究~
豊橋技術科学大学 建築・都市システム学専攻 土嶋 雄介 氏 |
私の実家は福井県の敦賀原子力発電所から18kmのところにある。もし、実家で東日本大震災と同じような災害が起こったら、地域に残る選択をするだろうか。そこで浮かんできたのが、豊かな生活とは何かということだ。その実現には(1)地域への愛着、(2)人と人とのつながり、(3)ゆとりある自分の生活は欠かせない。この3つに深くかかわるのが「公共図書館」なのだ。
しかし最近は電子書籍やインターネットの発達により、本を読むだけなら図書館に行く必要性はなくなりつつある。これからの図書館には、デジタルな世界にはない学びの場、交流の場、まちの居場所といったリアルな「場所」としての機能が求められる。
そこで、「もっと自由な未来図書館を作るために必要な要件」を探るため、世界一の年間貸出冊数を誇る図書館大国であるフィンランドと、日本からそれぞれ2つの図書館を選び、実地調査を行った。図書空間を建築面、運営面、利用実態の3側面から考察するため、音環境、利用者の行為、館内ルール、平面構成の調査・分析を行った。
図書館と言えば普通、静粛が求められるが、階層分けや緩衝領域の形成による音のゾーニングと館内ルールの設定で、人と人との交流に欠かせない「おしゃべり」が可能な図書館を作ることは可能だという結論に達した。
旅のきっかけをつくる鞄の研究・作製
八戸工業大学 感性デザイン学部卒 天坂 幸紀 氏 |
東日本大震災で打撃を受けた東北地方が復興していくためには、観光の力をもっと活用するべきだと考え、鞄の研究と作製を行った。
まず、特定被災区域となっている岩手、宮城、福島の3県の中から6割強に当たる81市町村にアンケート調査を行った。その結果、7割の観光地で震災の被害が発生し、震災から3年後の2014年現在では9割が復旧しているにもかかわらず、6割の地域で観光客が震災後、減少していることがわかった。震災直後と違い、今は被災地に関する報道もめっきり減った。そこで求められるのは「情報発信力」だ。
特に20代から30代の女性が、東北地方に旅に出掛けたいと思ってくれることが重要だと思った私は、ひとり旅でいろいろな場所に行ってみた。その体験から、山に行くときはルーペがあれば、宮澤賢治のふるさとを巡る旅では彼の本があればもっと旅が楽しくなるだろうと思った。そこで旅行の目的地ごとに旅が楽しくなるアイテムの入った「旅行パック」を開発して、それを簡単に入れ替えられる鞄を作ることを思いついた。実際、卒業制作で「旅行パック」と鞄を試作してみた。
旅行の目的地の選び方は、観光客にゆだねられている。書店で思いがけない本を見つけて購入するのと同じように、「旅行パック」と専用鞄によって観光地の情報発信力が高まると、新しい目的地への関心を高められ、観光の振興に役立つだろう。
学生を中心に住民や専門家をまじえた集団による空き家改修とその活用の可能性
米子工業高等専門学校 建築学専攻 遠藤 貴子 氏 |
全国的に空き家の増加が問題となっているが、鳥取県米子市では空き家数が1万2000戸あり、空き家率は全国平均を上回る17.4%になっている。この研究は、学生と地元のNPO法人などが協力して空き家を実際に改修し、活用するまでをモデルケースとして実施したもので、改修工事をワークショップ形式で行い、建築を学ぶ学生の実践的な学習機会として可能性を探ることと、改修後は学生の住まいとして活用しながらにイベントなどを通して居住する学生と参加者、地域住民との交流を図ることを目的としている。
改修対象としたのは歴史的な街並みが残る米子市の中心市街地にある築90年、延べ床面積142㎡の木造2階建て民家だ。建物の1階は入り口付近の和室を撤去してイベントスペースを設け、外壁もトタン板から木製サッシに替えた。台所付近は収納室を撤去して、広いダイニングスペースを作った。改修工事は8月と9月に計13日をかけ、地元の建設会社に指導を仰いだ。改修工事やテーブルや家具などの製作には、チラシなどで呼びかけて集まった20人の学生が参加した。
このプロジェクトを進めるため、地元のNPO法人や建築設計事務所、そして米子高専が運営会議を組織した。改装工事の終了後は講演会や展示会などのイベントも行った。学生にとって改修工事やイベント運営に参加することは、建築の業務やコミュニケーションの実際を学ぶ貴重な機会となった。
総評
エーアンドエー株式会社 非常勤顧問、OASIS奨学金審査委員長 大河内 勝司 |
奨学金の授与者を選んだ立場の者として、ドキドキしながら発表を聞いていた。まずは最後に発表した米子高専の遠藤さん。古い空き家の改修についての話だ。OASIS奨学金の金額に比べて、とてもスケールが大きいプロジェクトだったので心配したが、OASIS奨学金が役に立ったと聞いて安心した。
八戸工大卒の天坂さんが発表した鞄の研究は、鞄のハードというよりも観光振興のソフトに近かったと思う。たぶん最初はハードの方向を目指していたと思うが途中でソフトに変わったのだろう。研究というものは、途中でそのように変わっていくことが普通だ。発表のときも、その紆余(うよ)曲折を入れてもらうとより印象に残る。この計画を実現するため、出版社などに営業してもいいだろう。
フィンランドの図書館について研究した豊橋技科大の土嶋さんは、日本の図書館もフィンランドの方向を目指すべきだと思ったのか。日本の図書館との対比が少しわかりづらかった。未来の公共図書館のありかたというのがテーマなので、分析にとどまらず、結果を踏まえて地元の図書館などの改善提案を一つでもしてくれるとよかったと思う。発表してくれた皆さんにはお礼を申し上げたい。
今年のOASIS奨学金の募集テーマは「思い切って新常識人になろう」。最初の案では「思い切って非常識人になろう」だったが、やはり非常識ではまずいということで、このようにした。「常識」とは効率よく仕事をするためのテンプレートのようなものだ。しかし、自己規制や周囲に波風立てないように仕事を進めるルールなので面白いものができるわけがないと個人的には思っている。
創造的な人間にとっては、常識は制約条件になるのだ。例えば都市計画を行うとき、法律の枠内で計画するのではなく、理想の都市計画を考えて法律に触れる場合は法律を変える努力をする、という方法もある。このように、変えていくことを新しい常識にしたいという思いを込めた。
今年の授与者に選ばれた慶應義塾大学大学院の山田崇史さん、北海道職業能力開発大学校の秋山愛斗さん、東北学院大学の佐々木沙和さんにはそれぞれ奨学金を贈呈する。来年も面白い発表を聞かせてもらえることを楽しみにしている。
分科会1
設計教育を通じてグローバル社会に活躍できる人材育成を目指して
北九州市立大学 国際環境工学部 建築デザイン学科 教授 デワンカー・バート・ジュリエン 先生 |
ベルギーで手描きの製図教育を受けて卒業後、21年前にベルギーから早稲田大学の留学生として来日し、そこで初めてVectorworksの前身であるMiniCadを使い始めた。北九州市立大学には2001年の国際環境工学部設立時から着任している。
大学では手描きも重要だが、できるだけ早くパソコンを使えた方が良いと考え、製図は最初からパソコンを使っている。CAD室は朝8から夜12時まで学生に開放して、課題提出前は教員に申請すれば24時間使えるようになっている。
現在、製図の授業にはVectorworks Fundamentals 2012だけを使っている。パソコンにはこのほかRenderworks 2012や、Vectorworksと連動する日影シミュレーションソフトのSHADOWやVOLUME、天空定規、SketchUp Pro 8やJw_cadもインストールされている。学生が自由に学び、自由に使うという方式だ。大学院になるとGISなどのソフトも使う。
今年、最初の製図授業で私が「Vectorworksを立ち上げてください」と言ったら、何らかのソフトウエアを使ったことがある学生はVectorworksを探し始める。そのうち、何人かの学生がソフトを起動させると、他の学生にも教えて、学生同士が教え合ってどんどん使い方を覚えていくといった具合だ。
設計製図関連の授業は1年次で製図基礎(演習)と環境造形演習、2年次で設計製図IとII、3年次で設計製図IIIとIVがあり、4年次では卒業設計を行う。設計製図IVを除いては必修で、すべて演習を含んだカリキュラムになっている。
1年次の前期に行う製図基礎(演習)からVectorworksを使い、住宅の図面を描かせている。最初は基準線や寸法線が入っていない場合もあるが、少しずつ図面に必要な要素を覚えていく。もちろん、進度は学生によって差がある。最後は4階建て住宅の平面図と断面図、矩計図をCADで模写してもらい、その図面の説明をして、立面図と内観、外観パースは模写した図面から予測させて描かせている。1年次後期の環境造形演習では、造形の要素が入ってくる。
1つの授業で2~3の課題をやりながら、Vectorworksで作図する方法を覚えていくのだ。1、2年生のうちにしっかりCADを身につけておかないと3、4年生で大変なことになるとハッパをかけながら教えている。
2年次の設計製図では戸建て住宅の3Dモデルを作ったり、集合住宅の図面を描いたり、さらには中学校を丸ごと3Dで設計したりと、課題の建物がだんだんと大規模化していく。このころになると、興味がある学生は、どんどん自分自身でVectorworksの機能を勉強し、使いこなすようになってくる。
3年次は曲面や曲線からなる美術館やホテルを3Dで設計し、Power Pointにまとめてひとりずつ、プレゼンテーションも行う。
最近は、100分の1の縮尺で模型を作ることも行っている。小さな模型ではわからないことも、大きな縮尺だとよく見えてくるからだ。
後期の選択授業では3つか4つのコンペを選んで、挑戦している。作品を提出するまでには、すべてを完成させなければならない。ここではRenderworksも活用している。
そして4年次の卒業設計、そして大学院へとVectorworksの活用は続いていく。
北九州市立大学では国際交流にも力を入れ、中国やタイ、インドネシアなどの東南アジア諸国連合(ASEAN)の大学と相互間で2週間、2カ月、6カ月といった短期海外留学を行っている。海外に派遣した学生は2011年に30人、2012年に50人、2013年に40人となっている。一方、海外から受け入れた学生は2011年と2012年は各60人、2013年は80人と派遣生を大幅に上回っている。
2011年からは毎年、北九州市内のエリアを指定して国際コンペを行っている。毎年30前後のチームが参加する。その翌年には2週間の国際ワークショップを開催し、その後もFacebookなどで交流が続く。
海外の学生はハングリー精神が旺盛で積極的だ。一方、日本の学生はおとなしい。海外に出かけていろいろな経験や苦労をし、日本に帰って活躍できるようになってくれればと願っている。
分科会1
VectorScriptを用いたプログラミング教育
佐賀大学 工学系研究科 都市工学専攻 准教授 中大窪 千晶 先生 |
今年から、佐賀大学工学部 都市工学科の建築・都市デザインコースの学部2年後期の学生約30人を対象に「情報基礎演習」という科目でVectorworksのVectorScriptを使った授業を行う予定だ。
これまでは学部1年の情報演習でExcelのVisual Basicを使って行っていたもので、必修の授業だ。そのため、建築・都市デザインコースのための、一般教養の情報演習(プログラミング)の授業という位置づけである。
これまでのプログラミングの授業は、プログラムを書いて、計算結果を数字で出すだけというのが基本的なスタイルだった。しかし、刺激が少なく、あまり面白い内容ではない。
一方、建築の場合はプログラムを活用する場面が少ない。CADやBIMという言葉はよく聞くが、設計をサポートする道具としてコンピュータを活用する機会も少ない。せいぜい、既にでき上がったプログラムを使うくらいだろう。これは自分の思想で書いたプログラムを動かすのとは違う。そこでプログラムを書きながら、設計のアイデアに繋がるような演習ができたら面白いのではと思い、VectorScriptを使った授業を考えたのだ。
では、どんな内容が必要なのだろうか。まずはデザインや設計にかかわるような演習だ。図形の作成などを人間が手作業でやると大変だが、プログラムでやると一瞬で終わるようなことを学生が体験できるようにする。またはプログラムを使って形を作ってみると、思ってみなかった面白い形や表現ができる。こうした体験があると、自分が大量に物事を処理しなければならなくなったときに、それが生きてくるだろう。
次にプログラムの構造やアルゴリズムについての理解だ。パソコンでウェブブラウザを使ったり絵を描いたりすると、パソコンの中身がブラックボックスに思えてしまうが、実は単なる計算機であり、計算の結果をグラフィカルに表示しているだけであることを学生が理解できるようにすることが大切だ。
その次が情報の可視化だ。例えば、「サーモレンダー」の場合は、表面温度が色分けして表示される。数字だけでなく、木陰や保水性舗装の部分が周囲に比べて涼しいということが可視化されると設計にも生かしやすい。
こうした条件を満たすものとして、VectorScriptを選んだ。その理由は、1番目に用意された関数を使うだけで簡単に2次元、3次元の図形を描けるため、情報の可視化が容易にできること。2番目にCADソフトであるVectorworksと連動するインタプリタなのでVectorworks上で実行し、すぐに結果が反映されること。こんな道具があることを知っていると、将来、設計製図などで必要になったときでも利用できるからだ。3番目にVectorScriptはPascalという言語を使っているからだ。古い言語ではあるが、初めてプログラムを書くうえでは、構造がシンプルである意味わかりやすい。
それではVectorScriptの例をお見せしよう。まずは柱状体の自動作成スクリプトだ。ボタンを押すだけで3Dの柱状体が256個、瞬時に作成できる。柱状体の縦横の長さや高さ、色などを全部乱数で入れているので、一見、街並みのような3Dモデルができる。これでも人間ではできないデザインと言えるだろう。
乱数の代わりにルールに基づいて作成した数値を入れると、アルゴリズミックデザインになる。このプログラムは、わずか20行のスクリプトで書かれたものだ。
この授業を今年から始めるに当たって、2012年度と2013年度の3月、修士課程の学生に対して「パイロット授業」を5日間、15回の集中講義として行った。授業の流れは第1回はガイダンスとVectorScriptの使い方、2~4回は変数やif文などのプログラムの基本、5~8回はBIMモデリング、9~12回はファイルの読み書きやレコード、ワークシートなどのプログラムの基本を学ぶ。そして13~15回にプログラムの応用を演習する、というカリキュラムだ。
2度のパイロット授業の後、学生にアンケートをとったところ、これまでのプログラミング授業に比べると興味をもって取り組んでいた印象があった。今後は学部2年生を対象にするためよりわかりやすい内容にする工夫をしていきたい。
分科会2
デザイン教育における3Dプリンターの活用
大分県立芸術文化短期大学 美術科 デザイン専攻 専任講師 松本 康史 先生 |
大分県立芸術文化短期大学は1961年に開学し、今年で53年を迎える。日本で唯一、芸術系の学科を持つ短大だ。短大では2年間の教育が終わると短期大学士という学位を取って卒業するが、その後、2年間の認定専攻科が設けられており、希望者は教養や専門を伸ばして学士として卒業できる。今回は、5年前に新設されたプロダクトデザインコースでの3Dプリンターを使った教育について紹介したい。
短大では基本的な図法を理解して、プロダクトデザインの内容を2次元の図面でできるようにすることが目標だ。さらに専攻科では、3次元CADをマスターして、イメージを具現化することを目標としている。これらのCADとしてVectorworksを使っている。
1年生前期での「プロダクトデザイン基礎」は導入編として手描きによる簡単な図面から始まる。「にぎる」というテーマを与えて粘土で形を検討し、それをスケッチや図面に落とし込んでいくといった内容だ。あまり図面は精巧なものは求めず、スタイロフォームなどで実際に形にしていく。後期はRhinocerosによるモデリングという選択授業もある。3Dによるモデリングやレンダリングから、3Dプリンターによる造形までを行う。
2年生の前期ではVectorworksを使って2次元図面を描く授業がある。ここでは「すわるかたち」という課題を出し、座るための家具を自由にVectorworksで設計している。Vectorworksの基本を踏まえた上で各投影図の表し方や配置の仕方、さらには線の太さや寸法線の描き方など、2次元の図面としての完成度を上げていく。
その後、900×900mmの合板から実寸のモックアップを作る。図面を描くことの重要性を理解してもらうのが狙いだ。座面と背もたれが90度になった体育座り専用のイスなど、ユニークなデザインが生まれている。
本学の専攻科は、コンピュータでものづくりを行う「デジタルファブリケーション」を実践しているのが特徴だ。専攻科1年の前期では造形研究Iという授業で、本格的に3DCADや3Dプリンターの活用が入ってくる。
「成形合板によるプロダクト」というテーマで、実際にプロダクトを提案してもらい、そのモックアップを作る内容だ。前半はデジタルによる設計作業、後半は手を動かす製作作業からなる。専攻科はこの授業しかないため、週4日間、毎日2コマの授業が7週間続くというハードなものだ。
Vectorworksを使って3週間でモデリングを行った後、3Dプリンターで2分の1から5分の1のスケールモデルを出力する。模型という実物があることで、3Dモデルよりもデザインを実感できる。さらにVectorworksでモックアップ作成のための設計を行う。これも3Dで設計することで、木を曲げるための成形型の複雑な構造を理解しやすくなるというメリットがあった。
その後成形型のパーツを作成するため、糸ノコ盤やジグソーで原寸図の断面に沿って合板を切断し、木工手工具で仕上げて、重ねていくというアナログの作業になる。今は設備の関係で手作業だが、Vectorworksの2D、3Dデータを使うことで将来はレーザーカッターやCNCルーターを使って加工することもできそうだ。
成形型が完成すると合板を挟み、プレスをかけてモックアップの部材を製作する。そして部材を切断・組み立てして完成だ。
このほか、「計る」をテーマにして3Dプリンターで持ちやすく、計りやすい米の計量カップを試作し、使いやすさを比較検討して結果をプレゼンテーションする授業も行った。さらに外部講師を招いて3DCAD、3Dプリンター、レーザーカッターなどデジタルファブリケーション技術によってプロダクトを作成して実際にネットショップに出展し、コンシューマーの反応を見る設計、製造、販売までのプロセスを演習形式で体得する授業も行っている。
最近、3Dプリンターなどのデジタル加工機が急速に進化しているが、操作するのは人間だ。これらのデジタル加工機を正しい考え方のもとで効果的に活用する方法を学生に学んでほしいと思っている。
分科会2
進化し続けるCAD ! 3D設計〜BIMをどの様に活用するのか?
これからのCAD教育の現場で必要なこととは・・・
日本工学院八王子専門学校 テクノロジーカレッジ 建築設計科 非常勤講師 福田 一志 先生 |
私は自らの設計事務所で設計業務を行う傍ら、十数年前から日本工学院八王子専門学校で非常勤講師として建築のCAD教育に携わっている。最近になってCADは急速に進化を遂げ、新しい情報やテクノロジーが次々と話題にのぼっているが、そのような状況の中でCAD教育をどの様に行っていったら良いのかと不安に思っている教育者の方々も少なからず見受けられるような気がする。
今日は私が教育の現場で実践したCAD(Computer Aided Design)授業の事例についての一部をご紹介したいと思う。
今年の2月に私が執筆した「Vectorworks Architect 住宅設計のためのBIM入門」(秀和システム)という本が出版された。単にソフトの操作方法の解説に終始するのではなく、BIMを活用する上で何が重要なのか、これからどこに向かうのかといった、BIMの普遍的な内容が盛り込まれているので、より詳しくBIM(Building Information Modelling)について知りたい方は、よければ参考にしていただきたい。
現在建築物を作る際、図面を描くのは当たり前の事前作業と思われているのだが、歴史を遡って見ると、手先の器用な親方が模型を作り、それを元に何倍かにスケールアップして現場で施工していた時期があった。その後、経済的で同じ情報を共有するための媒体として図面が誕生し、製図学という学問の発達と共に世界中で共有可能な姿になったのである。
1980年代半ばに一般の生活にもコンピュータが普及し始め、CADも社会に浸透してくる。その後すぐにインターネットが発達し、ネットで図面を送り、(2D)プリンターで出力するという仕事のスタイルが生まれてきたのである。
そして現在、BIMやアルゴリズミックデザイン、コンピュテーションなどが登場し、そこで作成されたデータを3Dプリンターや、CNCルーターで模型や実物の部材、さらには建物全体を作るというところまで発展している。
このような時代に『CAD教育の現場で何を教えるべきなのか?・・・』。
十数年前、私が教壇に初めて立った時、『CADの意味は?・・』、CADとは『Computer Assisted Drawing からComputer Aided Designに意味が変わりつつある』と説明したことを覚えている。しかしながら教育の場のほとんどで、未だにComputer Assisted Drawingの作図機能の教育の域から出ていないところが多いのではないだろうか。
かつて、線を描くのは図面作成の重要な技能だったはずだが、今ではマウスをクリックする作業に変わってきている。もし、CADが効率のよい図面作成の方法を教える事を目的にするのなら、現在では、クリックの連続で線を引いていく必要も無くなりつつあり、建物の3Dモデルを作成し(BIMの作成)、さまざまな検討を行った後に必要な2D図面を取り出す方がより効率的ではないかと思う。
学生諸君も、3D(BIMの作成)を作りながら建物を設計する授業の方が2Dの図面を描いていく授業より興味を持ち熱心で、何よりも空間を意識するようになっている。BIMからは面積表や仕上げ表なども自動集計できるので、作図機能としてCADをとらえた場合には、図面は『描く』から『BIMから取り出す』へと変化しているのである。
さてここからが重要なCADのもう1つの視点となるが、デザインツールとしてCAD(Computer Aided Design)をとらえた場合、例えばアルゴリズムを作成してボタンを押すだけで、複雑な2D/3Dのデザインができてしまう(コンピュータがアルゴリズムに従ってデザインを行う)。
美しい形(美しい形とは?)が出てくるまで、何度もボタンを押して待つ、ということもできる。偶然性による面白さも出てきて、今までに見たこともないような複雑で作成可能な造形物をコンピュータは我々に与えてくれるのである。
アルゴリズムを使って複雑なデザインをいくつも作成することは賛同すべき行為なのだが、肝心な事は、生成された形態の正当性をどう評価するのかということ。建築とは何を満たさなければならないのかをCADの授業の中で説明しなければ、今まで見たこともないような複雑な造形物をコンピュータに作成してもらうだけで終わってしまう。
日本工学院八王子専門学校では1学年あたり前期・後期で各45時間ずつ、年間90時間のCAD授業を行っており、2学年を合計すると年間180時間となる。2年次は卒業制作としてCADの授業があるが、これまでの経験では、CADの経験が全くない学生がVectorworksの最低限の作図技術習得(2D /3D )にかかる授業時間は50~60時間必要なことがわかってきている。
数年前に2年間のCAD教育が終了した後の研究科コースに進んだ学生を対象に、CADでの基礎造形の実験的授業を行なった。これまで学んできたCADの作図機能(とりわけ3D
機能)を使用して、京都・竜安寺の石庭の解説をした後、同じサイズでVectorworksで自由に庭をデザイン(デジタルスケッチ)させたところ、学生諸君は非常に魅力的な空間や庭を作ってくれた。
その他にもCAD(Computer Aided Design)として基礎造形や空間構成、オーガニックデザインなどの課題を通じて、CADではスケール感を養うことが難しいと言われているが、スケール感として人間の尺度を与えて空間のデザインを繰り返すことで、CADを使って表現したい造形の感覚的なことと人間の尺度を仮想空間の中で養うこともできることが実証できた。
コンピュータは非常に魅力的なツールだが、道具(コンピュータ・ソフト)の進化に対して、人間がそれを使う目的や生み出されたものに対する価値観・評価が希薄になっているように思える。
理論物理学者アインシュタインは『知性は方法や道具に対しては鋭い鑑識眼を持つが、目的や価値については盲目である』という言葉を既に残している。CAD教育はすでに重要な過渡期に入っているのだと思う。道具に振り回されるのではなく、道具を使いこなして結果を出す、そのような人間の資質の教育がCAD教育に必要になってくるのではないだろうか。
CAD教育には単なる作図機能を教える知識だけではなく、多方面にわたる知識や経験が必要とされる時代に入ってきたように思う。残念ながらCAD教育の現場では、『CADとはComputer
Assisted Drawing からComputer Aided Designに意味が変わりつつある』が、十分理解されている場がまだまだ少ないように思える。
展示会場報告
展示コーナーでは、大分県立芸術文化短期大学の授業で3Dプリンターによって造形されたモックアップや米の計量カップの試作品、そして北九州市立大学が開催した国際ワークショップの作品など、Vectorworksを活用する教育現場から生まれた数多くの作品が展示された。
特別講演や分科会のセミナーの休憩時間には、教職員や学生らが一つ一つの作品に足を止めながら、今回のテーマである「デジタルの力」による表現力をかみしめていた。
また展示会場の一角には、OASIS各校における教育成果のユーザ事例も展示され、授業の参考にしようと教職員らが見入っていた。3Dを活用した建築教育を実践する学校は増加傾向にあり、各OASIS加盟校での実例は参考になる。
講演の休憩時間に展示パネルに足を止める参加者(左)。大分県立芸術文化短期大学の授業で3Dプリンターによって作られたモックアップや試作品(右) | ||
北九州市立大学が開催した国際ワークショップの作品(左)。OASIS加盟校のユーザ事例を展示するコーナー。授業の参考にしようと多くの教職員が見入っていた(右) |
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エーアンドエーが推進するVectorworks教育支援プログラム「OASIS-オアシス-」は、Vectorworksによる3DやBIMでのデザイン現場の支援や、学校間の情報交流、さらに学生の自由な研究を支援する奨学金制度など、さまざまな活動を支援している。全国各地をつなぐ教育現場の交流が行えるのも、OASISの魅力と言えそうだ。
【問い合わせ】 A&A.Vectorworks教育支援プログラム OASIS(オアシス)についてのお問い合せは、こちらをご確認ください。 |