Vectorworks 教育シンポジウム 2021 Web版
コロナ禍に負けず、オンラインで今年も開催(エーアンドエー)
2021年9月27日

例年、夏休みに東京で開催してきた「Vectorworks 教育シンポジウム」は、コロナ禍により2021年もリアル会場での開催が見送られた。しかし、Vectorworksを活用して勉学や研究に取り組む学生たちの熱意はこれまでと変わらず、前回の2020年に引き続き、オンラインにより時空を超えて開催された。

Vectorworksを授業で活用するOASIS加盟校で学ぶ学生が、選考を勝ち抜いて「Vectorworks Executive Prize 2021」や「Vectorworksデザインスカラシップ」の各賞を授与された作品や、今年の発表で最後となる「研究・調査支援奨学金制度」の研究成果には、それぞれが暮らす地域の身近な課題を、自分たちのアイデアや行動力で解決したいという学生の意欲が表れていた。エーアンドエーやOASIS事務局も、地道な取り組みを行う学生や指導教員を厚くサポートした。

今年の「Vectorworks 教育シンポジウム 2021 Web版」に集まった数々の作品を紹介しよう。

社長あいさつ
エーアンドエー株式会社代表取締役社長
横田 貴史

エーアンドエー
代表取締役社長
横田貴史

平素はVectorworksのご愛顧を賜り厚くお礼申し上げます。

さて、本年度のVectorworks 教育シンポジウムも、残念ながら新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から開催を見送りとし、昨年同様Web版という形で行うこととしました。学生の研究成果もそちらでご覧いただければと存じます。

また2021年1月よりVectorworksをオンラインで学べるワールドワイド共通のe-learningサイトが開設され、現在日本語のコンテンツも順次拡大されておりますので、ぜひご活用ください。


Vectorworks Executive Prize 2021
【OASIS加盟校 学生作品集 最優秀作品賞】

日本大学 理工学部 海洋建築工学科
安藤 大翔 さん(指導教員:佐藤信治先生)

日本大学 理工学部 海洋建築工学科
安藤 大翔 さん

エーアンドエーではOASIS加盟校でVectorworksによって行われたデザイン教育の成果を紹介する「OASIS加盟校学生作品集」を毎年、制作している。2021年度版には23校の作品が収録された。これらの中から、米Vectorworks社が最優秀作品を選び、表彰する「Vectorworks
Executive Prize 2021」には、日本大学 理工学部 海洋建築工学科の安藤大翔さん作品「時と寄り添う海の駅」が選ばれた。

この作品は、横浜港のみなとみらい地区を舞台に、ヨットやクルーザーが立ち寄る「海の駅」を計画したもの。陸と海の境界部を階段状に掘り下げて、潮汐に合わせて段階的に海水が入り込む構造や、建物全体を包み込む屋上緑化、そして壁材に銅板を用いて経年劣化による変化をデザインに取り入れた。

米Vectorworks社のCEOビプラブ・サーカー(Biplab Sarkar)氏は、「スケールこそ大きくないものの、タイムリーで卓越したプレゼンテーション性を備えた作品だ。あらゆる年代の人々がこの施設を利用している様子が、リアリティーと人間らしさを与えている。都市と地形、海、エコロジー、公共の公園といったコンセプトを合体させた興味深いデザインだ」と受賞理由についてのコメントを寄せた。

受賞した安藤さんは「受賞の知らせが届いた時はとてもうれしかった。特にパースに力を注いだ。まだまだソフトを使いこなせていないが、今回の受賞を励みにさらなる建築の高みを目指していきたい」とコメントを寄せた。

安藤さんには記念の盾とVectorworks Designer 2021製品版が贈呈された。

受賞作品の「時と寄り添う海の駅」

学生作品集の詳細、過去の応募作品はこちらから=>
https://www.aanda.co.jp/OASIS/gallery/index.html


Vectorworksデザインスカラシップ

Vectorworksデザインスカラシップは、米国Vectorworks社が主催している全世界の学生を対象とした奨学金制度だ。2020年度より日本も初めての参加となった。記念すべき第一回に受賞されたみなさんの作品名と受賞コメントを紹介しよう。

【建築部門】最優秀賞
作品名「FOREST REVOLUTION」
多摩美術大学 王 家文 さん

多摩美術大学
王 家文 さん

この度、賞をいただき、誠にありがとうございます。自然生態が土地開発などの人間活動によって悪化することを止めようと思い、従来の建設方法を再び検討してデザインを考えました。本提案はリムーバルな単体建築で構成されているオフィス群です。自然の成長状態によって並びを調整し、土地との新しい会話を構築できます。今後もこの受賞を励みに、自然や人、建築との関係性を探りながら、デザインを洗練させていきたいと思います。

【建築部門】優秀賞
作品名「アロマと本 ~限りなく正に近い7角形と7にまつわる話~」
日本工学院専門学校 今泉 伎琳 さん

優秀賞という光栄なる賞をいただき誠にありがとうございます。この提案ではアロマと本を組み合わせて新たな空間を作り、訪れた人が日常の生活を忘れリラックスできる癒やしのある公共施設を計画しました。アロマの香りの系統が7種類あることを生かし、7を基調とした空間を展開してみました。受賞を励みに今後も人々の幸せを考えた社会に貢献できる建築の提案をしていきたいと思います。

【インテリアデザイン部門】最優秀賞
該当者なし

【インテリアデザイン部門】優秀賞
作品名「bakeryshop&café 「360°-JAPAN」」
専門学校九州デザイナー学院 谷口 なつみ さん

専門学校九州デザイナー学院
谷口 なつみ さん

この度は、優秀賞という光栄な賞を頂き、誠にありがとうございます。この作品はカフェが併設されているパン屋をメインにデザインしました。日本人が好む静寂で凛とした美しさをイメージし、落ち着いた心地の良い空間作りを意識しデザインしました。本格的に制作した初めての作品なので、至らない点や不足している部分も多くありますが、この栄誉ある賞に恥じぬよう、これからもたくさんの事を学び成長していきたいと思います。本当にありがとうございました。

Vectorworksデザインスカラシップ総評

エーアンドエー株式会社
マーケティング本部本部長
木村 謙

Vectorworksデザインスカラシップは、初めての日本からの応募となりましたが、動画による作品など意欲的な取り組みもあり、それらを全てオンラインで確認しながら、審査いただきました。あらためまして、作品を応募されたみなさん、審査員のみなさま、参加いただきありがとうございました。

全体的には、小さな施設の提案が多かった印象です。建築部門の最優秀作品は、ランドスケープが、建築やその周りの出来事と関係を持っているような期待を持たせるものでした。優秀作品は、香りというオフラインでしか経験できないテーマで、これから建築を考える上で重要な鍵となるかもしれません。インテリアデザイン部門は残念ながら最優秀賞の該当がありませんでしたが、優秀賞の作品はパースの描き方や表現のレベルは高いと評価されています。本スカラシップは国際的に展開されておりますので、次回は日本からの優秀作品が増えることを期待しております。

受賞作品は以下のサイトでご覧になれます。
国内選考Vectorworksデザインスカラシップ=>
https://www.aanda.co.jp/OASIS/scholarship/index.html

米国掲載サイト(外部サイト)=>
https://www.vectorworks.net/scholarship


滋賀県産材活用 滋賀の升プロジェクト
滋賀県立大学
長澤 慶季 さん 他3名(指導教員:佐々木一泰先生)

滋賀県立大学
長澤 慶季 さん

この研究では、滋賀県産材を活用した酒升を製作し、商品化することで、全国ワーストテンに入る滋賀県の森林活用の課題を解決しようと試みた。酒升を選んだのは、地元に多く存在する酒造企業もPRしたいと考えたからだ。

品質や加工性、コストを検討した結果、県産材を使用し、県内の工場で数値制御(NC)データによる加工をすることにした。先行事例の調査と並行して、県内加工企業のケレスたなかを訪問し、機械で加工できること、できないことを学びながらデザインのアイデアを練った。

県内企業、ケレスたなかの工場を訪問し、NC加工機について学んだ

棚田や琵琶湖などをモチーフとした5種類のデザインについて、学内の日本酒サークルのメンバーに意見も聞いた。

以上を踏まえて、Vectorworksで図面を描き、バルサ材とレーザーカッターで最終試作を行った。Vectorworksは、他のソフトとの連携が良いことと、初心者でも直感的に扱えるインターフェースが利点だ。

工場と加工性やコスト考慮し、3種類の酒升を試験生産した。その結果、間伐材のため刃物が木の節に当たったり、木が割れたりする可能性に気付いた。本生産に向けて修正する計画だ。

試験生産した3種類の酒升。左からTsuyu、米升(こめます)、ビワマス

今後の展開としては、助成金の活用や、本生産に向けてブラッシュアップ、滋賀県のアンテナショップなどの意見をいただき、パッケージを含めた販売戦略を考え、年内の商品化を目指したい。こうした製品開発ができたのも奨学金とおかげと感謝している。


ポストデジタル建築時代における装飾:日本の型紙パターンの研究を通じた新近代言説の再考
東京芸術大学 Ghali Bouayad さん(指導教員:金田充弘先生)

東京芸術大学
Ghali Bouayad さん

私はモロッコ生まれの建築家である。東京芸術大学の金田充弘教授の博士課程に在籍していた2020年末、OASISの奨学金を得て、卒業制作展の開催を一部支援していただいた。「ポストデジタル時代における装飾の意味を探る」というテーマの博士研究の成果を、1分の1スケールの木造パビリオンとして、東京芸大美術館で展示することができ、大変うれしく思っている。

東京芸術大学美術館に展示された1分の1スケールの木造パビリオン

これまでの調査で「ポストデジタル時代の装飾、建築は装飾にあらず」という自分の主張を明確にすることができた。この議論では、ポストデジタルが装飾とオブジェクト、構造と建築を和解させ、再び結びつける役割を果たすことができるという理論を説明している。

この主張を具現化するため、木造建築のパビリオンを、ノコギリを使って手作業で製作した。ソフトから出力された複雑なポリライン形状をもとに美しさや構成を保ったまま単純化した。材料には長野県から45ミリ四方の断面を持つカラマツ材を約550キロ購入し、約35度と90度の角度に単純化した長さ500ミリから3500ミリの317本の部材を自分で製作した。

ソフトが出力した複雑なポリライン(上)を美しさや構造を保ったまま単純化した(下)

最後に日本のプロのダンサーで新進気鋭の振り付け家である大宮ダイスケ氏を招待し、パビリオンの下で演じるパフォーマンスを考えてもらった。装飾されていない建築がどう使われるかについて、美術館の観客の想像力をかきたてるものだ。彼は12月15日に美術館内で行われた審査員を前にパフォーマンスを行ってくれた。


宮城県石巻市中心市街地における空き地活用に関する研究
東北学院大学大学院
高城 那菜 さん(指導教員:櫻井一弥先生)

東北学院大学大学院
高城 那菜 さん

この研究では、震災復興が進む宮城県石巻市の中心市街地に、多く残る空き地を有効利用し、コミュニティの形成を図ることを目的とした。

初めに14の事例を調査対象とし、敷地面積や最寄り駅からの距離、敷地形状と、用途をグラフで分析した。その結果、イベントは駅から遠く、狭い敷地でよく行われていること、飲食は比較的広い敷地で多いこと、自然は駅からの距離が近い敷地に多いことなどがわかった。

敷地形状による分析では、3面を建物に囲まれた「つぼ地」は公園や緑地、「角地」や公園などに面した「開けた敷地」はイベント、そして「通り抜けられる敷地」は屋台街などとして使われていた。

3面を建物に囲まれた「つぼ地」の活用事例

これらの分析結果は、石巻の中心市街地の空き地を活用する際も、面積や駅からの距離、敷地の形などで用途を考えるのに役立つ。特に多い狭いつぼ地は、ガーデンなどの自然型イベントでの利用が適していると考えられる。

当初は空き地に家具を設置し、市民を集めイベントを企画する予定だったが、コロナ禍の影響で難しかった。そこで旧北上川の河川堤防に、堤防の傾斜に合わせた斜面家具としてトレーとテーブルを製作・設置し、利用状況を観察したところ、子ども連れに人気で、想定より多くの人が利用していた。

旧北上川の河川堤防に設置した斜面家具

斜面家具の利用状況から、継続的にこうした企画を計画・実行することで、空き地や河川堤防を有効活用したコミュニティの形成が期待できそうだ。


西日本近世城郭における活用に向けた整備実態に関する研究
米子工業高等専門学校
新田 彩乃 さん 他1名(指導教員:小椋弘佳先生)

米子工業高等専門学校
新田 彩乃 さん

城郭の跡地がまちづくりの中心として機能している例が多くみられる。この研究は、整備方法や活用実態を調査し、地元の米子城周辺の整備方法に関する基礎的資料とすることを目的とした。

調査対象は、西日本にある近世の城郭で、「日本100名城」「続100名城」に含まれる56城とした。城郭は立地する地形によって山城、平山城、平城、海城に分類される。中でも平山城が対象の54%を占め、米子城もこの分類に含まれる。

縄張形態による調査対象の分類

城郭は奥の本丸を守るように、二の丸、三の丸と呼ばれる場所が設けられている。それぞれの場所の用途や利用形態、行っているイベントや活動、整備事業、用途地域などをアンケート調査で調べた。

その結果、一般利用者への開放率は本丸が最も高く、二の丸、三の丸の順で低くなった。理由は民有地の率が本丸に比べて高いことだ。

イベントについては、本丸でのライトアップや地域の歴史に関するものが目立つのに対し、二の丸、三の丸では多様なイベントに対応していた。行政が管理する平山城15城の中でも、米子城はスポーツや飲食、音楽などの幅広いイベントが、本丸で行われているのが特徴的だった。

本丸、二の丸、三の丸の配置形式には様々なタイプがある

城跡には文化財や観光拠点のほか、都市公園や集客施設など、様々な目的を持った施設が集まる場である。これらの魅力を生かした整備が城郭のにぎわいにつながり、ストック効果を考えることが、城郭を整備していく上で重要になっていくと考えられる。


地方都市ショッピングセンターの研究
米子工業高等専門学校
和田 奈津子 さん(指導教員:小椋弘佳先生)

米子工業高等専門学校
和田 奈津子 さん

この研究では、ショッピングセンターの地域開放の動向を明らかにし、発展拠点作りに関する基礎的な資料を作成した。

初めに、全国のショッピングセンター1823件のうち、地方都市を選定し、一般的な規模である5000から3万平米の地域開放場所を有するショッピングセンター115件を調査対象とした。地域開放場所を4種類に分類すると、イベントスペース、レンタルスペースが多い結果となり、室内のほか屋外や屋上屋外にも存在することがわかった。

詳しい調査を行った4カ所のショッピングセンター

その中から地元のホープタウンに加え、先行事例として鹿児島市のマルヤガーデンズ、長崎県佐世保市のさせぼ五番街、香川県高松市の瓦町FLAGを選定し、休憩所やレンタルスペース、屋外庭園などの空間構成の設(しつら)えや、利用者層、運営について実地調査やアンケート調査を行った。

調査の結果、地域開放場所の設置は、利用者属性を多様化させることがわかった。カウンターや机の設置は学生の勉強利用を誘引し、ベンチやソファの設置は、高齢者の休憩利用を誘引していた。またレンタルスペースで各種イベントを開催することで、幅広い層の利用者を誘引することがわかった。

地域開放場所の空間構成や設えの違いで様々な利用者を誘引する

使用されない地域開放場所も存在するが、利用者を考慮した空間の配置、設えとすることで、利用者の新たな居場所となり、活気のある持続的なショッピングセンターができることを、調査結果は物語っている。

OASIS事務局からのご案内

エーアンドエー
OASIS事務局
福原 弘之

今年のOASISからのご案内です。昨年のWeb版開催から早くも1年がたちました。今年こそは東京でのリアル開催ができると望んでいましたが、残念ながら新型コロナウイルスの影響は今現在もつづきWebでの開催となりました。一日も早い新型コロナの終息と、みなさんのご健康を心からお祈り申し上げます。

これまでエーアンドエーが主催してきました研究・調査支援奨学金制度は本年の成果発表を最後になりました。今年からはグローバルなステージに移り変わり、Vectorworksデザインスカラシップがスタートしました。学生のみなさん個人で複数作品の応募が可能ですので、ぜひご参加ください。

もう一つのトピックは、Vectorworks Universityが今年、スタートしたことです。スタートから既に9カ月ほどが経過しましたが、5000件を超える大変多くのみなさんにご利用をいただいております。2021年後半にもさらにコンテンツを増強する予定でございますので、ぜひVectorworksのスキルアップにお役立ていただけると幸いです。


●Vectorworks教育シンポジウムに関するお問い合わせ

Vectorworks教育シンポジウムに関するお問い合わせは、以下からお問い合わせください。
OASIS(オアシス)事務局
(土・日・祝日除く)
e-mail : oasis@aanda.co.jp

(Visited 1 times, 1 visits today)

関連記事
Translate »