「Revit公式ガイド」に込めた10年間のノウハウ
筆者の伊藤久晴氏がBIM活用のコツを語る(オートデスク)
2015年4月7日

代表的なBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)ソフト、Autodesk Revitの基本から実務的なテクニックまでを解説した「Revit公式トレーニングガイド」が2014年12月に日経BP社から刊行された。筆者である大和ハウス工業の伊藤久晴氏は、自分自身の約10年間にわたるRevit活用ノウハウや社内外での指導経験を本書に盛り込んだ。本書執筆の狙いとRevitを実務で活用するコツについて独占インタビューを行った。

「Revit公式トレーニングガイド」執筆の動機を語る大和ハウス工業企画開発部企画デザイングループ次長の伊藤久晴氏

「Revit公式トレーニングガイド」執筆の動機を語る大和ハウス工業企画開発部企画デザイングループ次長の伊藤久晴氏

   2DからBIMへのスロープとなる本を目指す

「日本ではBIMが注目され、重要だと言われながら、設計者の多くは従来の2Dベースで設計を行っています。そこで2DかBIMかという二者択一ではなく、2DからBIMへ段階的に変わってゆけるような指南書を目指しました」と、大和ハウス工業企画開発部企画デザイングループ次長の伊藤久晴氏は『Revit公式トレーニング』執筆の動機を語る。

「BIMが普及したとはいえ、日本の建設業界ではまだまだ2Dの図面や設計図書が必要です。AutoCADやJw_cadの本はたくさん出版されていますが、実務に使える図面をBIMモデルによって描くための参考書はあまり見当たりませんでした。そこで、RevitがBIMモデルと2D機能の組み合わせでどんな図面も書けることを知っていただき、思い通りの設計ができる基礎を学んでゆける本を書こうと思ったのです。」(伊藤氏)。

2DからBIMまでを“スロープ”でつなぐことを意識した構成

2DからBIMまでを“スロープ”でつなぐことを意識した構成

伊藤氏がRevitと出会ったのは、“日本のBIM元年”と言われる2009年より前の2004年ごろだった。以来、自らRevitの活用を始めるとともに、2007年にはRevitユーザー会の初代会長に就任し、2008年には日経BP社が企画した「BIMブートキャンプ」の指導者、そして大和ハウス工業の社内ではBIMの教材の作成やBIMの指導、部門間連携による業務の効率化の仕組み作り、施工での活用の検証などに取り組んできた。

本書は、約10年にわたる伊藤氏のBIM活用や指導のノウハウの集大成とも言えるものだ。

   2D作図の解説から始まるBIM本

「BIMと言えば、建物のすべてを3Dモデル化しなければいけないと思っている人が多い用ですが、作業の効率を考えると内部の階段や基礎、サッシの詳細図などは2D機能を使って作図した方がよい場合があります。AutoCADなどの2DCADユーザーがRevitに取り組みやすいように、本書ではあえて最初に2D作図の解説を持ってきました」と伊藤氏は説明する。

BIMの参考書は、まず3Dモデルの作成方法から入り、図面の描き方は最後に解説されるというものが多い。ところが「Revit公式トレーニングガイド」では、2D作図の解説から始まる。この本は次の4つのパートに分かれている。(1)2Dドローイング、(2)3Dモデリング、(3)BIMワーキング、そして(4)マテリアルとレンダリングだ。

「Revitの良いところは、3Dモデルから切り出した図と、2D図面がきれいに融合するところです。2DのCADデータで構成された便器のファミリ(部品)もパースなどを作る必要がなければ、あえて3Dの形状は必要ありません。また、構造のモデルを作らず基礎の断面を2Dのハッチングで作図しても、どこがモデルなのか2Dなのか区別できないほど融合しています。このように状況に応じて2D図面をうまくBIMモデルの中で活用すると、設計効率はグンと上がります」と伊藤氏は力説する。

2Dのハッチングを生かした基礎の断面図。3Dモデルに自然に溶け込んでいる

2Dのハッチングを生かした基礎の断面図。3Dモデルに自然に溶け込んでいる

Revitで建物のBIMモデルを作っても、作図作業ではRevitから書き出した図面データをAutoCADに取り込んで仕上げる人も多い。

そのとき、Revitの『線種』とAutoCADの『レイヤ』を連動させるというノウハウを知っていれば、作図効率は上がります。初期設定のままのRevitではできず、カスタマイズが必要。本書にはこれらの設定の仕方を解説していますので、RevitとAutoCADの連携が楽になる。

(2)の3Dモデリングでも、詳細な部分図を作成するときは無理に3Dモデルを作らず、2D図面を活用するというノウハウを紹介している。例えば便器は、メーカーから提供されている平面図、立面図、正面図のCADデータを3方向に向けて張り合わせた簡易型のBIMモデルを使って表現する。

2Dの三面図から作った便器の簡易BIMモデル(左)とBIMモデル内に配置したところ(右)。図面を効率的に描くためにはこうした工夫も重要だ

2Dの三面図から作った便器の簡易BIMモデル(左)とBIMモデル内に配置したところ(右)。図面を効率的に描くためにはこうした工夫も重要だ

こうした実務的なノウハウこそ、伊藤氏が10年間にわたり実務でRevitを活用してきた成果なのだ。矩計(かなばかり)図や平面詳細図、展開図などをBIMモデルから効率的に作成する方法を解説した本は珍しい。

   属性情報を生かした自動集計やレンダリングも解説

(3)の「BIMワーキング」では、BIMによる業務効率改善や生産性向上に欠かせない属性情報の活用方法を基本から解説した。中でも属性情報の活用を左右する4つのパラメータと3つのツールを「4P3T」という切り口でまとめた。

属性情報を活用するための「4P3T」

属性情報を活用するための「4P3T」

壁のマテリアルの属性情報の内容を表示することにより図面の作成を効率化した例

壁のマテリアルの属性情報の内容を表示することにより図面の作成を効率化した例

「4P3Tは、仕上表や建具表を属性情報によって自動的に作成する業務などに生かせます。各社でこれらの表の書式は違いますので、カスタマイズして活用頂ければと思います。属性情報を生かすことが、BIMの特徴である整合性の高い図面を作成することになります。」(伊藤氏)。

また(4)の「マテリアルとレンダリング」では、Revitならではの多種多様なマテリアルの使い方を解説した。例えば、色付きガラスでできたカーテンウオールに「透明度」を設定したいとき、初心者はマテリアルに「ガラス」を選んでしまいがちだ。

「しかし、ガラスはもともと透明なので透明度を設定することはできません。こんなときに使えるマテリアルのシェーダに『一般』というものがあり、こちらの方がガラスの雰囲気をパースで表現しやすい場合があります」(伊藤氏)。

マテリアルのシェーダごとに設定できる属性を一覧表化し、ひと目でわかるようにした

マテリアルのシェーダごとに設定できる属性を一覧表化し、ひと目でわかるようにした

マテリアルを生かしたレンダリング

マテリアルを生かしたレンダリング

レンダリングはRevit独自で行うことも可能だが、オートデスクが提供するクラウドサービス「A360」の「レンダリング360」を使ったレンダリング方法も解説した。クラウドを使ったレンダリング中も、手元のRevitは中断することなく使い続けられる。そしていくつものレンダリングを同時並行で行えるメリットもあるのだ。

   基本から業界の改革までを5つのレベルで実現

「BIMによって組織や業界における業務の効率化や改革を行うためには、設計者個人のBIM活用スキルを高めることが先決だ」と語る伊藤氏は、5つのレベルを意識してBIM活用に取り組んでいる。

BIM活用における5つのレベル(資料:伊藤久晴氏)

BIM活用における5つのレベル(資料:伊藤久晴氏)

レベル1は自分の業務をBIMで置き換えること、レベル2は自分の業務をBIMで改善すること、とまずは個人の業務をBIMで行い、改善することが必要としている。

それが達成された後、レベル3で組織連携による効率化、レベル4で組織全体の改革、そしてレベル5で初めて業界の改革が実現できるというわけだ。

   学ぶ順番を間違えなければRevitは難しくない

本書では、設計者自身がRevitを当たり前のツールとして使いこなせるようになることを目指している。

「Revitには多くの機能が搭載されています。しかし、初心者がいきなりRevitで難しいことをやろうとしてつまずくケースを多く見てきました。まずは基本的な機能からマスターし、それを上積みしながら段階的にマスターしていけば、Revitは決して難しいソフトではありません」と伊藤氏は言う。

つまり、本書には初心者や中級者が、自分自身でRevitを3Dモデリングや属性情報の設定を行い、自分が思い通りの図面作成や設計図書を行えるようになるためのノウハウが整理されているのだ。さらには、大和ハウス工業の実務で使用実績のあるショートカットキーの設定データも、付録CD-ROMに収録した。

大和ハウス工業での実務で使用実績のあるショートカットキーの配置

大和ハウス工業での実務で使用実績のあるショートカットキーの配置

本書に書かれているRevitの操作手順は、建築には全く素人である日経BP社の編集者自身が実践して、解説通り動くことを確かめた。

「本書は設計者だけでなく、管理者にもお薦めしたいです。自分自身でRevitを一通り操作し、理解しておくことで、BIMオペレーターに作業を依頼するときの指示の仕方や成果も違ってくるでしょう。また、本書はRevitの入門書という位置付けで、基礎にすぎません。この本をベースに、カテゴリーごとの機能解説などの本を書きたいと考えています。」と伊藤氏は語った。

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Autodesk Revit公式トレーニングガイド

 20150407-RT-image012 著者:伊藤久晴
出版社:日経BP社
判型:B5
ページ数:300ページ
価格: 本体4,000円+税
ISBN:978-4-8222-9756-5
発行日:2014年12月8日
CD-ROM:あり修正データなどの情報が下記の日経BPのホームページに記載されています。http://ec.nikkeibp.co.jp/nsp/teisei/B26100.shtml
購入は全国の有名書店またはネットショップで
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