渋谷駅駅周辺再開発の施工に威力を発揮
BIMとCIMを統合した東急建設の「UiM」(オートデスク)
2015年6月23日

渋谷駅とその周辺でいま、大規模な再開発事業が行われている。その中でも多くの工事を担当する東急建設はそれらプロジェクトの施工管理などに、同社独自の「UiM(アーバン・インフォメーション・モデリング)」というコンセプト/ワークフローを活用している。それをソフトウェアの面で支えるのは、オートデスクのBIM/CIMソリューションだ。

【写真1】渋谷駅東口で進む大規模な再開発事業

【写真1】渋谷駅東口で進む大規模な再開発事業

 

【図1】地下で複雑に絡み合う土木(えんじ色)と建築の仮設の3Dモデル

【図1】地下で複雑に絡み合う土木(えんじ色)と建築の仮設の3Dモデル

   BIMとCIMを統合した東急建設独自の「UiM」

渋谷駅東口から南口にかけて、タワークレーンや移動式クレーン、バックホーなどの重機や仮設の工事用ステージなどが視界の多くを占めるようになってきた。

覆工版で覆われた下では、大規模な掘削が行われ、渋谷川を付け替えながら4000トンの雨水貯留槽や地下広場などの建設が進んでいる。

既存駅舎や百貨店ビルの解体と並行して、渋谷ヒカリエよりも高い地上47階建ての高層ビル、駅街区東棟も建設中だ。渋谷駅全体を作り変える大規模の複合再開発が、東口を皮切りに、まさに佳境に入ろうとしているのだ。

【写真2】地下では渋谷川の付け替え工事を行いながら、雨水貯留槽や地下広場などを建設している

【写真2】地下では渋谷川の付け替え工事を行いながら、雨水貯留槽や地下広場などを建設している

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東急建設建築本部建築部
BIM推進グループグループリーダー
越前昌和氏

既存のビルなどを解体しながら、地下から地上まで複雑に入り組む様々な土木構造物や建築物を同時進行で建設していく再開発プロジェクトの設計や施工管理を、従来の2D図面で行うのはもはや不可能と言っても過言ではない。

そこでこれらのプロジェクトに携わる東急建設は、建築のBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)と土木のCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)を統合した「UiM」(登録商標)という同社独自のコンセプト/ワークフローを導入した。

「渋谷駅周辺の再開発事業のように建築と土木が密接に絡み合ったプロジェクトでは、BIMとCIMを単独で使っていたのでは検討の網から漏れる部分が出てきてしまいます。そこで複数の建築物や土木構造物を様々な組み合わせで、あるいはすべてまとめて検討するため、東急建設ではBIMとCIMを統合したUiMという独自の概念を導入しました」と同社建築本部建築部BIM推進グループグループリーダーの越前昌和氏は説明する。

【図2】BIMとCIMを統合したUiMモデル

【図2】BIMとCIMを統合したUiMモデル

   オートデスクのソリューションでUiMを実現

2013年初頭から建築部門のBIM推進グループ、土木部門のCIM担当が連携しながらUiMを実践しはじめた。

そこで選んだツールが、BIMソフト「Autodesk Revit」やCIMソフトの「AutoCAD Civil 3D」、そして両者を統合して閲覧や干渉チェックなどが行える「Autodesk Navisworks」や「Autodesk Infraworks」などのオートデスクのソフトだった。

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東急建設建築本部建築部
BIM推進グループチームリーダー
吉村知郎氏

「単体の建物の施工にBIMを利用するのとは異なり、このプロジェクトでは大規模で広大な範囲を1つの3Dモデルにまとめる必要があり、ソフト間のスムーズなデータ互換性も求められます。そこで、建築ではRevit、土木ではCivil 3Dを使い、NavisworksやInfraworksで両者を統合することにしました」と同社建築本部建築部BIM推進グループチームリーダー吉村知郎氏は説明する。

さらに「無謀かもしれませんが、Revitに全データを統合することもなんとか実用レベルにしているんですよ」とも。

これらのBIM/CIMソフトを経済的に活用するため、同社は「Autodesk Building Design Suite」、「Autodesk Infrastructure Design Suite」というパッケージ製品を導入している。

土木構造物は公共座標系で設計・施工管理を行うのに対し、建築物は通り芯などによるローカル座標系で設計・施工とも進めるのが一般的だ。本プロジェクトでは、複数建築物の位置合わせに公共座標系を参照する方式とした。

【写真3】オートデスクのBIM/CIMソリューションで建築と土木を統合した3Dモデルを作成し検討する

【写真3】オートデスクのBIM/CIMソリューションで建築と土木を統合した3Dモデルを作成し検討する

「渋谷駅周辺には当社の施工事例が多く、隣接工事の検討も過去に行われてきたので、ビルや駅の図面を重ね合わせた2Dの総合図的なものが複数存在していたのですが、それらを重ね合わせた時点で図面が合わないというか、部分的にねじれがあるのか、とにかく全体の位置関係に確証が持てない部分も多くありました」と越前氏は語る。

「建築の座標系と土木や測量で使われる世界測地系とは、座標が単に平行にずれているだけではなく、座標軸が反転していたりします。さらに鉄道では線形座標も使われるわけで、建築や土木の構造物を正確な位置関係に配置するためには、分野の壁を乗り越えるというか、他国の言葉を理解するような心構えでやるしかありません」と吉村氏が引き継ぐ。

こうした複数の異なる工種を統合して設計・施工を行うために複数の座標系に対応し、BIMとCIMのモデルデータをスムーズに連携できるオートデスク製品の強みが生かされているのだ。

   合意形成や設計で効果を生んだUiM

同社では2011年に建築部門がBIMを、翌2012年に土木部門がCIMを導入し、同12月、経営層にBIMとCIMそれぞれの運用・推進組織の発足を諮ったところ、土木・建築部門で協力してすすめるよう示唆があった。

「無駄なく効率的にやりなさいというミッションだったと思うのですが、少しだけ拡大解釈した結果生まれたのがUiMという街づくり目線の仕事の進め方ですね」少しいたずらっぽく笑いながら越前氏が当時の経緯を語る。それから2年間で、UiMは早くも数々の効果を上げている。

渋谷駅駅周辺の再開発プロジェクト群では、時間とともに変化し続ける街並みや通路、ビルの解体や完成時期などの検証は必須で、そのためにUiMモデルが役立った。

「日々多くの人が利用する駅自体とその周辺で地下の土木工事やビルの解体工事と並行して新築工事を行うため、通路の位置や幅、アップダウンの歩行者用通路の状態もひっきりなしに変わります。地上や地下、建物内外、土木建築の工事区分にまたがり連続した経路として確保するためには、もはや2D図面のみの検討では不十分。さらに空間的、時間的に変わる工事の状況を、事業主をはじめとするステークホルダーにわかりやすく説明するのにもUiMは役立ちました。近隣関係者の皆さまへのご説明にも活用されたと聞いています」(吉村氏)

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東急建設土木本部土木技術設計部設計グループCIM担当課長代理
小島文寛氏

「さらに、UiMモデルを使って人の流れを分析する群集シミュレーションにも着手し、スムーズな通行ができるかの検証を目指しています。まだチューニング段階ですが、このことは2013年のAutodesk
University Japanでも発表しました」と語るのは同社土木本部土木技術設計部設計グループCIM担当 課長代理の小島文寛氏。

実際に、再開発の一部の現場では、現場の土木担当分のCIMモデルと建築担当分のBIMを施工計画の早い段階で合わせている。いわゆる、「スポットUiM」だ。

例えば、土木で使用する施工機械が建築で作る山留めのすき間を通れるかどうか、またその山留め構築後に土木の推進工法の反力架台が構築できるか。を検討している。(【図1】参照)

実際に、土木と建築の連絡会のなかで全員が同じモデルを見て担当個所をはっきり認識しておくことで、施工段階におけるフロントローディングを実施している。

【図3】UiMモデルを活用して行った群集シミュレーション

【図3】UiMモデルを活用して行った群集シミュレーション

   渋谷から全国の現場にUiMマインドを展開

東急建設のUiMの取り組みは、渋谷の再開発プロジェクトが第1号となり、建築と土木が一体となって挙げた成果を、社内にPRしている。そして、UiMの成果は全国各地の土木・建築それぞれの現場にも応用可能だ。

東日本大震災で被災した岩手県大船渡市で同社をはじめとするJVが進めている復興プロジェクトでは、Infraworksを使って将来的な街の姿や、施工順序などを3Dでモデル化し、住民説明や工事関係者間の合意形成に活用している。

【図4】Infraworksで大船渡市の復興計画を3D化したもの

【図4】Infraworksで大船渡市の復興計画を3D化したもの

「かさ上げするエリアの境界部分では、電線が斜めになって地面との間隔が小さくなりすぎるので、境界部分に電柱を増設してもらう必要があります。施主に電柱の増設を依頼するとき、平面図と違ってUiMのモデルなら直感的に理解してもらうことができました。」(小島氏)。

また、鉄筋が密集するプロジェクトでは、鉄筋を3Dモデル化してNavisworksで干渉チェックを行うこともある。この3Dモデルは鉄筋工事会社との打ち合わせにも使い、干渉のリスクの確認や3Dモデルから鉄筋組み立てを効率化する気づきを発見することもある。

「3次元的な鉄筋の加工をすると合理的な組み方ができるが、鉄筋加工図は2次元が主流であり、加工図のまま組もうとすると干渉して組めない場合や、施工が煩雑になることがある。構造的な要求性能を満たすような組み方や加工図を示し、さらに職人の工夫が入ると、もっと現場は合理化や省力化ができる。」と小島氏は言う。

干渉個所を発見しリスクを把握するだけでなく、もっと現場が省力化できることはないか?と考える。CIMは、土木技術設計部内で担当しているため、構造系の専門技術者にもすぐ相談ができる。日常の打ち合わせでも活用し、構造的な検討することで要求性能を満たしながらも合理的な鉄筋の組み方を提案している。

鉄筋工事会社からは「人員不足の中、省力化にもつながるだろう。」との声も聞くという。

【図5】鉄筋の3Dモデルは鉄筋工事の煩雑さを未然に防いだ

【図5】鉄筋の3Dモデルは鉄筋工事の煩雑さを未然に防いだ

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【図6】3Dモデルによって合理化した配筋設計。変更前(左)と変更後(右)

   安全管理やシミュレーションではUiMへのフィードバックも

東急建設でのBIM・CIM活用の歴史は長いものではないが、今後、UiMとBIM・CIMそれぞれの利活用成果を相互にフィードバックしていこうと計画している。「ちょっと格好つけて『相互成長エンジン』なんて呼んでいるんですけど」(越前氏)。

「3Dに時間軸を加えた4Dで現場を再現し、ウオークスルーで重機の位置や車両の出入りなどを確認すると、どんな危険が潜むのかを事前に予測できるでしょう。こうした取り組みは既に神奈川県の物流倉庫の現場で始まっています」と吉村氏は語る。「そんな取り組みを渋谷再開発の複雑な空間の現場にも適用すべく、準備をしています」(同)。

このほか、街並み全体での気流や光、群集などのシミュレーションをUiMの大容量モデルにも適用できるようにしていく計画だ。オートデスクなどソフトベンダーの協力を得ながら、UiMのモデルデータを生かし、様々なシミュレーションを行えるようにしたいと考えている。

「UiMは大規模プロジェクトがさらに複合した状態を1つのモデルにまとめて俯瞰(ふかん)することができ、必要に応じて細部を拡大して確認することもできます。つまり、マクロとミクロを行ったり来たりしながら検討できる「スケーラビリティ」がUiMの強みだと思います」と越前氏は語る。

今後は竣工したUiMのモデルデータを、維持管理にも生かしていくことを検討している。建築と土木を融合した東急建設のUiMは、様々な建設、維持管理プロジェクトのQ(品質)、C(コスト)、D(工期)、S(安全)、E(環境)を改善していくために活用されていきそうだ。その技術力を、オートデスクのBIM、CIMソリューションが支えている。

【写真4】大きく変容をとげつつある渋谷駅前の風景

【写真4】大きく変容をとげつつある渋谷駅前の風景

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