働く仲間の生産性向上をRevitでサポート
新菱冷熱工業が実践する「つながるBIM」(オートデスク)
2020年11月16日

新菱冷熱工業のBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)は、部材の干渉防止や手戻り防止を目指す「コラボのBIM」から、働く仲間の業務効率化を実現する「思いやりのBIM」、さらには建設フェーズ全体でBIMを活用する「つながるBIM」へと進化しつつある。それを支えるのは、同社BIM推進室の谷内秀敬副室長と佐藤啓明専任課長の「自社の利益だけではなく、外注先や競合他社も含めて設備業界の標準化に貢献したい」という熱い思いだ。

詳細情報を組み込んだ「Item」と呼ばれるBIMオブジェクトを整備するBIM技術者

 外注先の効率化も含めた”思いやりのBIM”

「私ども設備施工会社は、設備施工を行うため、施工図というものを作ってきました。ただ、今はそうした図面を描ける人材も減り、描かれた施工図を読める人も減ってきています。これは技術の継承ができていないということだと思います」と言うのは新菱冷熱工業BIM推進室専任課長の佐藤啓明氏だ。

「われわれは、一緒に働く仲間であるダクト・配管の加工会社の方々に施工情報を正しく伝えたいと思っています。BIMパーツの施工情報を使うことにより、これまで人海戦術で4人一組で手書きの図面を拾っていた状況を自動化できると考えています」。同社BIM推進室副室長の谷内秀敬氏はその強い思いを実現させるべく、現在RUG(Revit User Group)のFabricationタスクフォースのリーダーを務めている。

「例えば、私たちが描いた施工図をもとに工場が配管部材を作れるよう、フランジ端面間の寸法からガスケット厚やフランジ厚、溶接のギャップなどを引いたり、ねじ継ぎ手がある場合はその長さを足したりして配管を切断すべき寸法を出しています」(佐藤氏)

配管工場で大口径の鋼管切断加工・継手にフランジを溶接する様子

「しかし、これらの寸法は配管径や管厚などによって決まっています。それならあらかじめデータベース化して、配管やフランジのBIMパーツに情報を入れておけば、工場の人は何度も同じ計算をやらずにすみ、ヒューマンエラーもなくなるのではと思いました」(谷内氏)。

そこで、同社BIM推進室が採用したのが、配管やダクトの工場製作に必要な詳細な寸法情報まで含んだBIMオブジェクト「Item」である。(ItemとはAutodesk®のFabrication向け製品ラインのCADmep™で作成したBIMパーツであり、Autodesk® Revit®等でも活用できる)

新菱冷熱工業で施工モデルを作成する際、Itemを使って配管やダクトをモデリングすると、その段階で設備BIMモデルには工場製作に必要なフランジ厚や溶接のギャップなど、細かい寸法情報がインプットされる仕組みだ。これらのItemは、ダクトの製造・販売を手がけるフカガワ(本社:埼玉県川口市)などが作成中である。

フランジや溶接で配管を接続するために必要となる詳細情報

オートデスクがサンプルとして作成中の日本用Itemを使いAutodesk® Revit®で製造用パーツとしてモデリングした配管

フカガワが作成中のItem使いRevitで製造用パーツとしてモデリングしたダクト

ITMの登録作業画面

 溶接棒の量や工数も瞬時に計算

Itemとして作成したのは配管やバルブだけではない。溶接するときに、管と管、管とフランジの間を空けておく「ギャップ」もItemとしてパーツ化したのだ。

溶接ギャップのItemも用意した

「RevitでギャップのItemを集計すると、溶接ワイヤが何メートル必要なのかが瞬時に分かります。すると、工場側はRevitのItemモデルを受け取った瞬間に、管の製作に必要な溶接工の人数から作業時間までもすぐにはじき出すことができ、工程計画まですぐに作れるようになるのです」と佐藤氏はItemの効果を説明する。

Revitを使って自動集計した部材の一覧表のイメージ

Itemの利用は数量計算のほか、実際にものづくりや施工、維持管理を行う現場での手戻り防止にも役立っている。

例えばRevitでは初期検討ではBIMオブジェクト(ファミリ)を使ってモデリングをしてまずルート等を検討する。(その際には、作図スピードを優先するために任意の角度で作図するオプションもある)。そこからItemを使ってモデリングすることで、既製品の継手を使うことを想定して収まり検討を行うことができる。

また、バルブも、実際の部材に忠実に作られたItemを使ってモデリングすると、バルブとハンドルが隣の系統の配管に干渉するなど、ものづくりができない部分に気付き、自然に修正されることになる。

「600mm径程度の配管工事でバルブの干渉などが発生すると、数百万円単位で追加コストが出ることもあります」(佐藤氏)

Itemを利用することにより、メーカーから提供できる部品でモデリングができる。そうすることで、接続方法や角度など精度の高い寸法で実施することができる

バルブファミリを使ってモデリングした場合(左)。実在するバルブのItemを使うと、ハンドルが他の配管に接触することが事前にわかり、工事の手戻りを防げる(右)

新菱冷熱工業で配管のBIMモデルを作成するとき、従来のBIMオブジェクトに代えてItemを使うと、モデリングの手間はほとんど増えることなく、仕事を発注する工場側での手間は激減し、生産性向上につながる。まさに“思いやりのBIM”と言えるだろう。

「次工程を担う他社の業務効率化に役立つ施工情報を、われわれがBIMモデルに入れておくわけです。これまでは『もし、そのデータのミスが原因で工場に損害が発生したとき、誰が責任を取るんだ』という反発の声が出てきて『それならやめておこうか』ということになりがちでした。しかし、BIMを使って企業間をまたいだ生産性向上を実現するには、仕組みを変えていく必要があります」(佐藤氏)

 BIM 360でスポーツ施設全体の設備工事を統括

自社だけでなく、他社の生産性向上も視野に入れた新菱冷熱工業のBIM活用姿勢は、他社の信頼も集めている。

例えば、複雑な製薬工場や大規模オフィスビルの新築工事では、サブコンでありながら元請け建設会社からの依頼で、給排水、ガス、電気などの設備工事全体を統括し、干渉の防止や工程の調整などを行った。

その結果、実際の施工時にはほとんど手戻りなどの問題が生じず、予定通りのスケジュールで工事を終えることができている。

現在、新菱冷熱工業は、北海道で施工中の「球団スポーツ施設」の工事で、同様の役割を果たしている。

給排水やガス、電気のほか、消火設備や通信ケーブルまですべての設備全体の施工を統括し、各部材の現場への搬入から据え付け、試運転、そして検査に至るまでの工程管理を、一手に引き受けているのだ。

スポーツ施設工事計画において設備データを統合したモデル

「これらの管理には、オートデスクのクラウドシステムBIM 360やForgeを使う計画です。いつでもどこでも、クラウド上で設備工事の最新状況が3Dで見られると、多数のサブコンがリアルタイムに工事の進ちょく状況を共有できます」と佐藤氏は説明する。

さらにBIM 360のデータを利用して、配管やダクトの系統や管種、サイズからそれにかかわる工事の進ちょく状況なども調べられるようになるという。

 コラボを重視し、Revitを便利に活用

新菱冷熱工業でのBIM活用の歴史は長く、その前身となる3次元CADの活用は1990年代には始まっていた。

以来、設備用3次元CADソフトを導入し、自社の業務に合わせてカスタマイズし、様々な実務に活用してきた。新入社員教育や中堅社員教育でもBIM研修を取り入れている。

同社では複数のBIMソフトを活用している。以前は設備工事を行うための施工図の作成がBIM活用の目的だったが、これからは施工情報となるデータベースの管理と共有が重要になりつつある。そこで現在、BIM要望の案件で使っているのは2013年に導入を開始したRevitだ。

「これからのBIMは、他社との間でデータ交換しながらコラボレーションすることが不可欠です。そこで、中間フォーマットなどへの変換に手間取っていては、生産性向上に限界が出てきます。その点、Revitは国内外ともユーザー数が多く、また意匠・構造・設備を一貫して取り扱えるため、便利なBIMソフトとして活用しています」と谷内氏は説明する。

「さらに、Revitデータをクラウド上で共有しながらコラボできるBIM 360には、大きな可能性を感じています。意匠、構造、設備のBIMモデルをクラウドにアップして、1つの統合モデルとしてブラウザ上で確認できるからです。当社でもベトナムやインド、中国など世界中の6拠点でBIM 360を使ったコラボレーションを行っています。また、シンガポールなど海外プロジェクトを受注する上でもRevitがあると安心です」(佐藤氏)

BIM 360を使いコロナ禍にも負けず国内外の拠点とコラボする新菱冷熱工業BIM推進室

 自ら発注者としてBIMの最適化にも挑戦

BIMを活用するメリットは発注者、設計者、施工者、そして維持管理者と、それぞれの立場で異なる。その一方で、全体として重複作業をなくし、全体最適化を図ることも重要だ。

そこで新菱冷熱工業は、自社が茨城県つくば市に建設する約5000m2の中央研究所新築工事(地上3階、S造)で、自らが発注者、設計者、施工者、そして使用者としてBIMを活用するという壮大な実験的プロジェクトに挑むことになった。

国土交通省が公募した「令和2年度BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業」で、採択されたものだ。

「建物のライフサイクルトータルバリューの向上と高品質な空間性能の実現」を目的に、設計、施工、運用段階で様々なBIM活用を行い、その成果を検証する。特に重視しているのは、発注者にとってのBIM活用メリットを明確化することだ。

そのため、このプロジェクトではBIMによる建築コストの算出工数削減効果を定量化したり、発注者が工事契約に先立って示す「BIM発注者情報要件(EIR)」や、入札者が発注者に対してBIMの使い方を提案する「BIM実行計画書(BEP)」に必要な要件を分析したりする。

このほか、「施工技術コンサルティング業務のありかた」も目的としており、設計段階で施工計画の検討を前倒しで行って工期短縮を図ったり、コンサルタントの役割やメリットに関する分析を行ったりする。

茨城県つくば市内の中央研究所に新築する建物(赤枠内)

モデル事業提案書からの抜粋

新菱冷熱工業のBIM活用は、他社との情報共有を徹底して干渉などを防ぐ「コラボのBIM」から、外注先の工場の生産性にコミットする「思いやりのBIM」、さらにはプロジェクト全体をBIMでスムーズに連携させる「つながるBIM」へと進化しつつある。

「BIM活用の利益を、自社だけではなく、外注先の企業や競合他社を含めて分かち合いたい。そのために業界の仕組みを変えていきたい」と佐藤氏は言う。他社の利益や生産性向上のためにBIMを活用する姿勢は、持続的な成長を目指す国連の「SDGs」とも相通じるものがある。

オートデスクのRevitやBIM 360などのBIMソリューションは、その進化を裏方として支えている。

新菱冷熱工業 BIM推進室専任課長の佐藤啓明氏(左)と同・副室長の谷内秀敬氏(右)

【問い合わせ】
Autodesk Revit
日本公式Facebook autodeskrevitjapan@facebook.com
https://www.facebook.com/RevitJapan

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