若手社員がBIM/CIM活用をリードするアサヒコンサルタント
iPadによる点群計測や設計の自動化で急速に生産性を向上(オートデスク)
2021年5月26日

鳥取市に本社を置く建設コンサルタント、アサヒコンサルタントはオートデスクのBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)、CIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)ソリューションを導入した結果、若手社員も難しい設計業務をこなし、作業スピードも大幅に向上させた。そのきっかけはRevitやCivil 3Dなどを使いこなす学生アルバイトの入社だった。

Revitで作成した砂防ダムのBIM/CIMモデル。今後、堆積する土砂量を求めるため、iPad ProのLiDAR機能で計測した点群データをCivil 3Dに読み込み、高精度で算出する

   若手社員がCivil 3Dで見せた設計力

自然の地形を相手に構造物を設計する仕事はこれまで、2次元の地形図から地形や高低差などを頭の中で描きながら、図面に落とし込んでいく“名人芸”が求められるものだった。

「入社して半年の新人が残土処分場を検討した際、2次元CADで行ったときは管理用道路の線形や処分場の盛土が現地の地形にすり合っていませんでした。しかし、BIM/CIMソフトのCivil 3Dを使って設計すると、しっかりした結果を出せたのには驚きました」と語るのは、アサヒコンサルタント設計部部長の鈴木健雄氏だ。

山間部の谷などを利用して建設する残土処分場の候補地選定では、収容できる土量や管理用道路の造成土量を正確に見積もることが重要だ。

「従来の2次元CADを使った設計では、土量計算の精度が悪いうえ、上司のレビューも含めて最低でも30日はかかります。一方、Civil 3Dだと7~14日程度と、作業時間も大幅に短縮されました」(鈴木氏)

Civil 3Dで行った残土処分場の候補地選定作業。新人でもCivil 3Dで3次元的に設計を行うことで成果が出せた

鳥取市に本社を置く、社員126人のアサヒコンサルタントでは、2016年からBIM/CIM活用を行っていたが、2020年から若手社員を中心に、BIM/CIMの活用が本格的に始まった。

以来、様々な構造物の設計を3Dで行うことにチャレンジし、成功体験を積み重ねることで自信を高めるという好循環が起こっている。

「BIM/CIMに目覚めたある若手社員は、以前とは別人のように生き生きと働いています。BIM/CIMを活用した設計業務には、自分が必要とされていることを感じているからでしょう」と、山下浩昭氏は語る。

この1年間ちょっとの間で、アサヒコンサルタントはどのような業務にBIM/CIMを活用してきたのだろうか。その実例を見てみよう。

オンライン取材に応えるアサヒコンサルタントのBIM/CIM関係者。左から代表取締役社長の澤克生氏、総務部長の大谷敏彦氏、設計部の宮内芳維氏

   BIM/CIMモデルで設計情報を一元化

アサヒコンサルタントのBIM/CIM活用の特徴は、単に構造物を3Dモデル化するにとどまらず、「プラスアルファ」な価値を加えていることだ。

まず効果を上げたのが、橋梁の補修設計業務で、設計に関するあらゆる情報をBIM/CIMモデルで一元化し、一つのデータベースとして活用するデータ管理だった。

これまで発注者とのやりとりは、補修図面のほか損傷一覧表をExcelや紙で見せながら行っていた。しかもExcelは方眼紙的にテキストを打ち込んだ“ネ申エクセル”と呼ばれるスタイルで、データの再利用がしにくいものだ。

当然、打ち合わせでは、あっちの資料、こっちの資料と、必要なデータを探す時間が多く、とても効率的とは言えなかった。

そこで、同社はすべての補修設計情報と構造物をデジタル化して、オートデスクのクラウドサービス「BIM360」で管理し、誰でも構造物のBIM/CIMモデルとデジタル化した補修設計情報を閲覧できるようにした。

そして、Autodesk Viewerを用いることで、補修設計情報を一元化し属性情報として埋め込んだBIM/CIMモデルの共有URLを発行することができるのだ。

一つのBIM/CIMモデルをデータベースのように使うことで、分散していた設計情報は一元管理できたほか、属人化しがちだった情報も見える化できた。

橋梁補修設計の設計情報をデジタル化し、BIM/CIMモデルで一元管理した例。一部、Forge Viewerを使ってカスタマイズしている

設計業務の完了検査で、発注者の検査官からは特に好評を得た。設計業務の情報がデジタルで一元化されていると、工事発注時にとても助かる。3Dモデルがベースなので360°、どの方向からも確認できるのでわかりやすい、ということだった。

構造物の外観や設計情報を確認できる環境を構築したことで、コミュニケーションコストも低下した。従来は、熟練技術職員が設計業務のチェックを行うために、担当技術職員が多くの紙資料を説明する必要があったが、熟練技術職員だけでチェックが可能になったのだ。

BIM/CIMモデルで設計業務の情報を一元管理することは、設計業務の関係者だけでなく、次の施工フェーズの関係者も含めた生産性向上に寄与したのだ。

このほか、多くの構造物が入り乱れる現場では、各構造物をBIM/CIMモデル上で整理するという取り組みも行っている。2次元の図面だけでは各構造物の位置関係や施工手順などを発注者に説明しにくかったが、BIM/CIMモデルで協議することで高い評価点を獲得したこもある。

多数の構造物が入り乱れる現場を一つのBIM/CIMにまとめて発注者との協議に使用している。高評価や高い評価点を獲得した例もあった

   Generative Designで設計業務を自動化

上下水道の設計ではこれまで、ダクタイル鋳鉄管の手作業による「管割り作業」に手間ひまがかかっていた。

ダクタイル鋳鉄管はソケット付きの規格品があり、さまざまな長さや曲率半径の部品を選んでつなぎ、所定のルートの配管を行うものだ。

しかし、途中に障害物などがあると、それを避けるように配管する必要があり、まさにパズルのような作業と言っても過言ではない。そのためベテラン技術者でも物件によるものの、最低2日はかかる作業だったのだ。

同社はこの手間ひまのかかる管割り作業をわずか5分に短縮することに成功した。その秘密は、オートデスクの「Generative Design」や「Dynamo」を使って管割り作業を自動化したことにある。

Generative DesignとDynamoでダクタイル鋳鉄管の管割り作業を自動化したプログラム

配管ルートに合わせるように、管の選定や設置位置の決定のほか、管の本数集計や帳票の出力までを自動化したことで、作業は一瞬で終了するようになった。また初心者や若手社員もベテラン社員並みのスピードと品質で設計が行えるようになった。

同社は管割り作業以外の設計業務にも、この手法を使えるように開発する予定だ。

   iPad Proで点群計測、BIM/CIMで検討

これから有望なのは、iPad ProのLiDARセンサーとBIM/CIMを組み合わせた生産性向上だ。

橋脚などのコンクリート構造物のひび割れ調査を行うとき、まずはコンクリート構造物のひび割れなどの変状をチョークでマーキングする。

これまではマーキング後の現場を写真撮影し、1枚に合成した後、CADを使ってひび割れを図化。さらにひび割れの長ささなどを人間の目と手で拾うという労働集約的な作業が必要だった。

この作業を効率化するために目を付けたのが、iPad ProやiPhone 12 Proに内蔵されているLiDARセンサーだ。これは赤外線を使った3Dスキャナーで、構造物の表面をカラーの点群データとして計測することができる。

写真撮影の代わりにLiDARで構造物を計測するだけで、1つの3Dモデルとして出力でき、そのままRevitに読み込める。その後は3Dモデル上でひび割れをトレースし、
ひび割れ幅ごとにフェーズ機能で管理・分類した後、数量はDynamoで作成したプログラムで自動集計するという方法だ。

Revitを単なる3D-CADとして使用するのではなく、情報マネジメントを行うためのデータベースとして使用しているのだ。

「従来の方法だと写真を1枚に合成するだけでも1日~3日かかっていましたが、iPad ProのLiDARとRevitによる方法だと合成写真の作成はわずか5分程度でできるようになりました。協力会社にお願いしていた作業も3~4割は減り、利益率の向上につながりそうです」と、アサヒコンサルタント設計部設計2課3次元チームの宮内芳維氏は語る。

iPad Proによる構造物の点群計測作業

iPad ProのLiDARセンサーで計測したコンクリート構造物の点群データ

Dynamoでの数量拾いの様子

iPad ProのLiDARセンサーは、砂防ダムの計画にも活用が広がりそうだ。

砂防ダムの計画では、今後、上流からどれだけの量の土砂が流下してくるかを正確に見積もることが重要だ。これを「移動可能土砂量」という。

これまでは、崩壊の可能性がある部分の体積を計算するのに、渓谷の断面を単純化して扱う平均断面法を使っていた。現場に出掛けて、いくつもの横断面をポールで測量し、その結果をCADに読み込んで図化するという煩雑な作業が必要だったのだ。

しかし、その手間ひまにもかかわらず、渓谷の河床に大きな岩が存在する場合など、イレギュラーな形状の場合は誤差が大きく、砂防設備設計の精度が下がる恐れがあった。

「そこで、渓谷の断面をLiDARで3次元計測し、Civil 3Dに読み込んで処理する方法を考えました。複雑な地形を一瞬で3Dモデル化できるうえ、そのデータを使って移動土砂量を計算すると、従来の方法よりもずっと正確で、しかもスピーディーに行えるからです」と宮内氏は語る。

従来手法であるポールによる横断測量(左)と、Lidar計測による横断測量(右)

   新入社員がBIM/CIMの社内普及に貢献

アサヒコンサルタントは、BIM/CIM活用を本格化し始めてから1年足らずにもかかわらず、すでに数々の生産性向上を実現し、DynamoやGenerative Designを駆使して設計の自動化まで行えるようになった。

こうした社内普及を支えたのが、入社2年目の宮内氏だ。鳥取大学在学中からRevitなどを使いこなしていた宮内氏は、2019年12月から学生アルバイトとしてわずか4カ月の間に、BIM/CIMを使って業務を行う環境を着々と整えていった。そして2020年4月に入社したのだ。

若手技術者が中心となってBIM/CIMソフトを活用する

その後は、以前からBIM/CIM推進を行っていた鈴木氏と連携し、BIM/CIM活用に関するアイデアを出し合っては、澤社長の承認を得て実行することを繰り返しながら、急ピッチで活用の高度化を実現していった。

現在、RevitやCivil 3Dなどを含むBIM/CIMソリューション「AECコレクション」は15ライセンス、クラウドサービスの「BIM360」は100ライセンスを活用するまでになった。

そして、同社代表取締役社長の澤克生氏が「経験工学と言われる土木の世界でも、どんどん若手に裁量権を認めて任せる方針を採っています。『地方の建設コンサルタントにはBIM/CIMはできない』という先入観を拭い去り、大手コンサルタントに負けない、業界のリーダーとなれるよう頑張っていきたいと考えています。」とまで語るほど、同社の技術力は急速に高まっている。

同社のBIM/CIMに対する取り組みの話は、自然に周囲にも広がることになり、今では発注者や教育機関、他社などからも講演や講習の依頼が舞い込むようになった。

アサヒコンサルタントのBIM/CIM活用は話題を呼び、社外から講演や講習を依頼されることも多くなった

最後に宮内氏は「BIM/CIMは発注者に言われて使うのではなく、自社のために能動的に活用し、BIM/CIMによるDXを実現していきたいです。また、BIM/CIMのMはModelingだけでなくManagementとしても活用することで、『若者の生き方改革』にもつなげたいです」と語った。

アサヒコンサルタントの本社社屋

【参考】
BIM-Design
http://bim-design.com/infra/
Autodesk CIM Facebookページ
https://www.facebook.com/Autodesk.CIM
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