共同カイテックが電力幹線「バスダクト」の設計をBIM化! Revitでデータ分断をなくし、リードタイムを3割以上短縮(オートデスク)
2021年9月7日

屋内外の電力幹線に使われる「バスダクト」の大手メーカー、共同カイテック(本社:東京都渋谷区)は、設計にオートデスクのBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)ソフト「Revit」などを含む「AECコレクション」を導入した。その結果、従来、数カ所にあったデータ分断や手入力がなくなり、製造までのリードタイムを3割以上、短縮することに成功した。

複数の導体をコンパクトなケースに収めた「バスダクト」(上)と、バスダクトのBIMモデル(下)

 8mm厚の導体をケーブル代わりに使用

「バスダクトの設計ワークフローにRevitを導入したところ、製造までのリードタイムを3割以上、短縮することができました」と共同カイテックのバスダクト事業部営業本部 EG統括課 業務改革チーム チーフの清水敬太氏はBIM化の成果を具体的な数値で語る。

電気工事と言えば、何本ものケーブルをラックや天井裏に通していくものというのが一般的なイメージだ。一方、共同カイテックでは、板状の導体を絶縁物で被覆し、鋼板ケースに収めた「バスダクト」を設計・製造し、現場に納品している。

各部材は規格化されており、直線部材のほか曲がり部、分岐部などの“役ものパーツ”を配管のようにつないで電気幹線を組み立てていくのが特徴だ。

共同カイテック執行役員 バスダクト事業部 副事業部長の藤原幸男氏は、「当社のバスダクトは国内シェア75%を誇っています。主力製品であるE-BD型絶縁バスダクトは、厚さ8mmの銅やアルミの帯状導体に絶縁シートを巻いたものを重ねてパッケージ化したものです。コンパクトなサイズにもかかわらず、600ボルトの電圧で6000アンペアの電流を流せるものもあります」と説明する。

バスダクトの中に納められている厚さ8mmのアルミニウム帯状導体がケーブル代わりとなり、最大6000アンペアの電流を流す(上)。バスダクトの直線部材を受注生産する綾瀬プラントには最新鋭の加工機が並ぶ(下)

Revit導入前は、設備サブコンから様々なCADデータやPDF図面を受け取り、それをAutoCADの図面に直して設計を進めていた。そのため、ワークフローのあちこちに「データの分断」や「手入力」が存在し、手戻りやミスの原因になっていた。

Revit導入前のワークフロー。黄色の部分にデータ分断や手入力のムダがあった

そこで同社は2018年に、バスダクトの設計をBIM化する検討を始め、社内の製造設計プロセスをRevitで一貫処理できるよう、製造用パーツなどを開発した。

「今は、サブコンさんからRevitのモデルを受け取り、社内でもRevitモデルのまま詳細化し、製造工程に渡すようにした結果、データの分断や手入力がなくなり、設計がスピーディーに行えるようなりました」と清水氏は振り返る。

Revit導入後の設計ワークフロー。設備サブコンから受け取る現場施工図の段階からRevitモデルで一貫処理するため、データの分断や手入力はほとんどなくなった

 Fabrication CADmepで製造用パーツを整備

BIMを導入するにあたり、困ったことはRevit用のバスダクトファミリがなかったことだ。海外でも事例は少なく、自社で作っていく以外、方法はなかった。

そこで役に立ったのが、AECコレクションに含まれている「Fabrication CADmep」という製造業向けのソフトだった。AutoCAD上で動くアドオンソフトで、工場製作用の詳細なパーツや接続ルールなどを定義でき、作成したパーツはRevit上で「製造用パーツ」として利用できる。

Fabrication CADmep(F印)で作成した製造用パーツをRevit(R印)に読み込んで、製造用BIMモデル作成に利用するイメージ

工場製作用のBIMモデルに求められることは、実際に作れるようにモデリングすることだ。例えば、直線部材の長さは430~3000mmという制限がある。バスダクトのエルボ部材は、直線部材とは接続できるが、オフセット部材とは接続できない。モデリング時に、こうした制約がすぐわかるようにしたい。

部材長やエルボ部材の接続には制約条件がある

エルボ部材と直線部材は接続できる(上方)。しかし、オフセット部材とは接続できないので、モデリング時に黄色いエラーが出るように接続性を設定した

また共同カイテックのバスダクトの特徴として、部材の接続部にはどこでも分岐ブレーカーを取り付けることができるというメリットがある。そこで、分岐ブレーカー部材を接続部に近づけたとき、所定の位置に「吸着」してくれると便利だ。

部材の接続部に分岐ブレーカーのパーツを近づけると自動的に所定の位置に吸着する機能

Fabrication CADmepは、こうした部材同士の接続可否の条件や、接続できる位置に自動吸着する機能などを盛り込んだ製造用パーツを作るのに使った。

このほか、長い直線部材に定尺部材を自動的に割り付ける機能や、バスダクトのルートの起点と終点を指定すると自動的に補完してモデリングする機能も開発した。これらはFabrication CADmepで作成された製造用パーツでのみ可能な機能であるが、Revit 上でも活用できるようにした。

 支持部材の自動配置にはDynamoを活用

一方、全体の部材にまたがる自動化処理には、Revitによるモデリングをアルゴリズムで自動化できるアドオンソフト「Dynamo」を使ってプログラムした。

例えば、縦方向のバスダクトが各階の床を貫通する部分に設けられる垂直支持部材の自動配置だ。

「最下階だけスプリングなし」「中間階以上はスプリング付き」「バスダクトの外形差に応じた背面金具を設置」といった敷設条件を自動的に判断して、垂直支持部材パーツを配置、編集する作業をDynamoで自動化した。

また、バスダクトの直線部分は受注生産で長さや断面の大きさなどの仕様がことなるため、系統ごとに連番を打って管理する必要がある。その作業もDynamoによって自動化した。

一方、バスダクト部材の製造用パーツは、Revitの機能を使って他の設備機器ファミリと合わせて数量集計が行えないため、Dynamoによってファミリに置換する機能も開発した。

各フロアの貫通部に設ける垂直支持金具をDynamoで自動モデリングした例

バスダクトの直線部材に系統別の連番を自動的に付ける機能もDynamoで自動化した

製造用パーツからファミリへの自動変換機能。この機能により、Revit上で他の部材とともに材料表を自動作成できるようになった

アルゴリズムによってRevitのモデリングを自動化するDynamoの動作イメージ。「ノード」と呼ばれるプログラム部品に条件やパラメーターを設定するとBIMモデルが出力される

 製造リードタイムを3分の2に短縮

共同カイテックの業務改革チームでは、バスダクトの設計をBIM化したことによる効果を検証するため、主力製品である「E-BD型」バスダクトを使った2つのプロジェクトについて2人の作業者に、従来のAutoCADを使った方法とRevitを使った方法による設計時間を比較した。

その結果、Revitを使った方法では、サブコンから受け取った施工図の画層整理時間がゼロになった。バスダクトの設置位置を決めるルーティング作業や、製造情報をプログラムに入力する作業もの時間が大幅に短縮された。

製造までにかかる時間を平均すると、従来の方法だと183分だったのが125分に短縮され、時間短縮効果は32%、1人・1時間当たりの労働生産性は43%向上した。

2つのプロジェクトを従来の方法、Revitを使った方法で、2人の作業者によって行った作業時間の比較。Revit導入後は画層整理時間がゼロとなり、製造情報のプログラムへの入力時間も大幅に短縮され、トータルで32%の時短を実現した

 今後はBIMで営業、製造工程をDX

今回、共同カイテックによって開発されたバスダクトの製造用パーツなどは、オートデスクのウェブサイトにある建設設備向けコンテンツライブラリ「BIM MEP HUB」で無料公開されている。

オートデスクの建設設備向けコンテンツライブラリサイト「BIM MEP HUB」

このパーツを使用した日本設計 環境・設備設計群 主管の大谷文彦氏は「バスダクトは受電室まわりで使われることが多いです。電気幹線が密になるので、これらのパーツはRevitの中でバスダクトのボリュームを検討するのに役立っています」と語る。

また、設備サブコンである弘電社 内線事業本部 技術室 技術課 課長 技師長の浦見成一氏は「共同カイテックのバスダクトは、接続部から自由に電源を取り出せるので、将来のリニューアル工事にも対応しやすいのが特長です。分岐部のパーツは自動的に正確な位置に吸着されるため、正確な施工図作成ができ、手戻りがないのがいいですね」と語る。

共同カイテックでは、BIMを活用した営業、製造工程でのさらなる建設DX(デジタル・トランスフォーメーション)の実現に向けて、取り組みを進めている。

「これらのツールを使うことで、設計者や施工者にとっては正確な設計ができ、手戻りがなくなります。また、当社にとっては受注までの営業段階で、設計者に当社のバスダクトを“スペックイン”してもらえるほか、生産工程に直結するデータを設計データに入れてもらうことで見積もりや営業の事務処理を効率化できるというWin-Winの効果が期待できます」と、共同カイテック 執行役員 バスダクト事業部 事業部長の高橋由行氏は説明する。

また、製造工程では現在も単体図や板金図、導体加工図などの図面作成を行っているが、将来はCNC(コンピューター数値制御)の工作機械と製造プログラムのデータを直結することにより、図面レスな製造方式へと進化させる予定だ。

これらのBIMオブジェクトや製造用パーツが広く公開・使用されることで、設計者や施工者の間にバスダクトというものの存在が広く知られると同時に、バスダクトの詳細を理解していなくてもメーカーでの製造工程を効率化するという“思いやりのBIM”の効果も生まれてくるようだ。

バスダクトの設計をBIM化した共同カイテックの関係者。左からバスダクト事業部営業本部 EG統括課 業務改革チームの中田美晴氏、同・チーフの清水敬太氏、執行役員・バスダクト事業部 事業部長の高橋由行氏、同・副事業部長の藤原幸男氏

【問い合わせ】
Autodesk Revit 日本公式Facebook
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