管理人のイエイリです。
日本の建設業界で使われている3次元CADの多くは外国製で、国産のソフトはほとんどありません。そこで関西大学を中心とした産学連携のプロジェクトチーム「関西大学カイザー・プロジェクト」は、4年の歳月をかけて3次元CADの中心部となる国産の「3次元CADエンジン」をついに完成させました。
その最終報告会が昨日(12月18日)、東京駅に隣接する関西大学東京センターで開催され、ついにそのベールを脱いだのです。
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国産3次元CADエンジンを使って開発した簡易3次元CADソフトの画面(資料:関西大学カイザー・プロジェクト) |
会場には
ナ、ナ、ナ、ナント、
約200人の建築・土木関係者
などがつめかけたのです。
会場は超満員。そして冒頭には関西大学の楠見晴重学長があいさつするなど、関西大学の国産3次元CADへの力の入れ方と注目度の大きさがよく表れていました。
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あいさつする関西大学の楠見晴重学長(左)と関西大学総合情報学部の田中成典教授(右)(写真:家入龍太。以下同じ) |
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会場は約200人の来場者で超満員 |
この日、発表されたのは「3次元CADエンジン」とは、建物や土木構造物などの3次元形状や属性情報を作成したり、編集したりするソフトの中核部分となるものです。
モデリングにはISO10303(STEP)に準拠した「パラメトリックモデリング」という方法を採用しており、建物などを構成する各部の断面(スケッチ)を作図し、それをスイープ線やガイド線に従って押し出す(スイープ)させることによって立体を表現します。
各部のモデルには、BIMソフトなどで用いられる属性情報も自由につけられるようになっています。これらの操作履歴はすべて記録されて残り、後の操作で利用できるようになっているのがパラメトリックモデリングの特徴です。
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破線内が3次元CADエンジンが受け持つ機能 |
会場では、この3次元CADエンジンを使って開発した、最低限の機能を持つ3次元CADソフトを使ったデモンストレーションが行われました。気になる機能をご紹介しましょう。
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スラブのモデル作成例。まず断面をスケッチ(左)し、スイープして立体のスラブ(右)にする | |
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鉄道や道路のスイープ例(左)。ブーリアン演算機能で作成したマンホールと管路を接続したモデル(右) | |
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3次元モデルの面取り(左)とフィレット(右) |
さらに建設業界向けの機能も含まれています。それは、時間軸を考慮した施工シミュレーションや点群データの読み込みにも対応できるようになっていることです。
属性情報には「型枠設置時期」や「コンクリート打設時期」のような細かい施工スケジュールや、「供用開始時期」、「次回改修時期」といったマクロな維持管理のスケジュール情報も管理できる仕組みになっています。そのため施工シミュレーションやファシリティー・マネジメントなどでの活用も可能です。
また、3Dレーザースキャナーで計測した「点群データ」も読み込んで地形のモデリングが行えます。64ビットマシンの場合、約50万点の点群が読み込めるとのことです。
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時間軸情報を使った高架橋の施工シミュレーションのイメージ | |
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点群データを読み込んで作った地形に盛り土、切り土をモデリングし、さらに高架橋のモデルを配置した例 |
会場では、これまで国土交通省のCALS/ECで「SXF形式」による2次元CADデータの互換性向上に取り組んできた土木関係者や、既にBIMソフトをバリバリに使いこなしている建築関係者の両方が同じ発表を聞いていました。しかし、
両者の感想は少し違った
のではないかと思います。
これまで2次元図面に慣れ親しんできた土木関係者の多くは、「いよいよ土木も3次元の時代か」「点群も読み込んでモデリングできるのはスゴイ」といった驚いたのではないでしょうか。
一方、各社のBIMソフトを使い目が肥えている建築関係者からは「今後、いかに使いやすいインターフェースが作れるのか」、「BIMモデルのデータ交換標準として普及しているIFC形式をどれだけ意識して開発したのかが気になる」といった意見が聞こえてきました。
この3次元CADエンジンの開発に参加したフォーラムエイトや建設システム、日本工営はそれぞれ自社製品や独自開発ソフトにこのエンジンを採用し、実用化する計画を持っています。
開発に参加しなかったソフトベンダーも、このエンジンを「外国製に比べて安価な価格」で購入して、製品化することができるとのことですので、今後、どのようなBIMやCIMのソフトが生まれてくるのかが楽しみですね。