管理人のイエイリです。
山岳トンネルの工事では、「切り羽」と呼ばれる掘削最前面の岩盤を注意深く観察し、岩盤の風化による変質の程度、割れ目の間隔・状態・向き、わき水の量などを目視で確認し、記録していきます。
このうち、岩盤の風化変質が進行すると、岩盤の崩落の危険が高まるので、風化変質の度合いによって、トンネル内面を支える鋼材の量や吹き付けコンクリート厚、さらに内側の2次覆工などの「支保パターン」を適切に決めながら施工を進めていくことが重要です。
しかし、特に難しいのは風化変質の度合いを定量的に判定することです。これまでは地質専門家の経験や技能に頼っていました。
そこで鹿島は、誰でも同じような定量的判定が行える山岳トンネル用の「風化変質判定システム」を開発しました。
ナ、ナ、ナ、ナント、
タブレットPCの内蔵カメラ
で切り羽を撮影し、画像解析によって風化変質の度合いを判定できるのです。
「風化変質判定システム」の概念図(写真・資料:鹿島。以下、同じ) |
風化変質の度合いを判定する決め手となるのは、切り羽の色です。岩盤の風化は、岩石に含まれている鉱物と浸透水が反応し、粘土鉱物に変わることで進行していきます。
粘土鉱物の色は、茶色、黄色、白色など風化前の鉱物と異なっています。そこでタブレットPC上で撮影した写真の色を解析することで、切り羽の風化変質の度合いを「弱風化」から「強風化」まで4段階に分類・色分け表示し、面積比を数値化して表示するシステムを開発しました。
デジタルカメラは色を光の3原色(RGB値)で表現するため、このシステムでは色調の比較がしやすい「L*a*b*値」に変換してしています。なお、このシステムの開発には、京都大学防災研究所の千木良雅弘教授の指導を受けました。
切り羽の写真(左)の色を画像解析して、風化部分を抽出し、風化度合いごとに色分け表示する(右) |
しかし、写真に写る岩盤の色は、トンネル内の照明やフラッシュの違いなどによって変わります。そこで、岩盤の写真を撮るときに、
カラーバーも一緒に撮影
し、これを基準に色調補正を行っています。
同社は宮崎県延岡市で施工した南久保山トンネルの低土かぶり部の風化変質評価にこのシステムを使用したところ、地質専門家の目視と同程度の評価が行えることを確認しました。
南久保山トンネルでの切り羽撮影風景。カラーバーも一緒に撮影している |
画面に表示された風化変質の度合い分布 |
土木が経験工学と言われるのは、こうした風化変質の判定などがあるからです。その一方、判定結果には個人差があり、経験のある専門家を現場に配置する必要があるなどの課題もありました。
切り羽の状態をデジタルデータとして記録・判定することで、新しい経験工学のスタイルが生まれてきそうですね。