管理人のイエイリです。
国土交通省が事務局を務める建築BIM推進会議は今年(2020年)3月、「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第1版)」を公表しました。
そのポイントは、設計から施工、維持管理へと、建設フェーズの間をBIMデータでスムーズにつなぐBIMのワークフローを実現することにあります。
このガイドラインを踏まえて、国交省はBIM導入のメリットを検証する取り組みを支援するため、「令和2年度BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業」を募集していましたが、6月30日に8件の採択提案を決定したことを発表しました。
設計事務所や建設会社、ビル管理会社など、様々な企業やコンソーシアムから出された提案に共通していることは、発注者や設計者、施工者と異なるBIMプレーヤーに対して、
ナ、ナ、ナ、ナント、
“思いやりのBIM”
を実践することで、互いのメリットを生かす「Win-Win」を追求していることなのです。(国土交通省のプレスリリースはこちら)
●採択された8件の提案
番号 | 採択提案名 | 事業者 |
1 | RC造及びS造のプロジェクトにおけるBIM活用の効果検証・課題分析 | 竹中工務店 |
2 | エービーシー商会新本社ビルにおける建物運用・維持管理段階でのBIM活用効果検証・課題分析 | 安井建築設計事務所、日本管財、エービーシー商会 |
3 | BIMを活用した不動産プラットフォームの構築による既存オフィスビルの施設維持管理の高度化と生産性向上 | 東京オペラシティビル、プロパティデータバンク |
4 | 維持管理BIM作成業務等に関する効果検証・課題分析 | 前田建設工業、荒井商店 |
5 | 建物のライフサイクルを通した発注者によるBIM活用の有効性検証 | 日建設計コンストラクション・マネジメント |
6 | Life Cycle BIM | 日建設計、清水建設 |
7 | 新菱冷熱工業株式会社中央研究所新築計画における建物のライフサイクルにわたるBIM活用の効果検証と課題分析(ステージS2~S4) | 新菱冷熱工業 |
8 | 病院実例における維持管理までのワークフローを含めた効率的なBIM活用の検証 | 久米設計 |
それぞれの提案には、どんな“思いやりのBIM”が盛り込まれているのかを、イエイリの独断と偏見で見てみましょう。
まず、「RC造及びS造のプロジェクトにおけるBIM活用の効果検証・課題分析」(竹中工務店 )には、VR(バーチャルリアリティー)による合意形成や、3Dモデルによる設計承認、タブレットによる施工管理、BIMと360°カメラの連携などを行います。
その結果、不整合個所や品質指摘事項、現地確認業務をそれぞれ50%も削減することを目指しています。一言で言うと「手戻り防止のBIM」といったところでしょうか。
2番目の「エービーシー商会新本社ビルにおける建物運用・維持管理段階でのBIM活用効果検証・課題分析」(安井建築設計事務所、日本管財、エービーシー商会)の特徴は、なんと言っても「BIMとIoT環境センサー」の連携です。
つまりBIMにリアルタイムの建物情報をリンクさせて省エネなどを実現する「デジタルツインのBIM」と言えそうです。
※IoT(モノのインターネット)、デジタルツイン(デジタルの双子)を意味する
3番目の「BIMを活用した不動産プラットフォームの構築による既存オフィスビルの施設維持管理の高度化と生産性向上」(東京オペラシティビル、プロパティデータバンク)は、BIMモデルが存在しない東京・西新宿にある築24年の大型複合施設「オペラシティビル」のために維持管理用のBIMモデルを作成し、様々な情報を連携させることで維持管理の高度化や長寿命化、そして「Whole Life Cost」を最適化するものです。
「Whole Life Cost」とは、従来の「ライフサイクルコスト(LCC)」に加えて資産価値の向上効果も加味して、オーナーのコストを評価する考え方です。そのため「コスト最適化のBIM」と言えるでしょう。
4番目の「維持管理BIM作成業務等に関する効果検証・課題分析」(前田建設工業、荒井商店)は、現在施工中の床面積5300m2のオフィスビルの施工BIMモデルから、維持管理BIMモデルを作ることで維持管理業務などの手間を10%減らすことを目指しています。べたですが、「維持管理のBIM」でしょう。
5番目の「建物のライフサイクルを通した発注者によるBIM活用の有効性検証」(日建設計コンストラクション・マネジメント)は、建物のライフサイクルコストのうち75%を完成後の維持管理段階が占めることに着目。このフェーズを担う発注者が利用しやすい「やさしいBIM」をめざしています。
6番目の「Life Cycle BIM」(日建設計、清水建設)は、既に設計・施工が終了した尾道市役所の庁舎におけるBIM連携を振り返り、検証することで、今後に生かそうというものです。
「計画の際にも設計施工連携を試みましたが、スケジュールや事前の統一したルールができていなかったことから、うまく連携できませんでした」といった言葉が、提案書の内容を象徴しています。こうした「反省のBIM」こそ、BIMプロジェクトをやりっ放しにするのではなく、PDCA(Plan→Do→Check→Action)をして改善するために重要と思われます。
7番目の「新菱冷熱工業株式会社中央研究所新築計画における建物のライフサイクルにわたるBIM活用の効果検証と課題分析(ステージS2~S4)」(新菱冷熱工業)は、新菱冷熱工業が自社の研究所ビルを自ら企画から施工、維持管理まで行う過程を通じて
「つながるBIM」
を実践するものです。
1社で施主や施工者、維持管理者を兼ねて行うことから、当然、「全員にとってムダ」なことは行わないはずです。これまでの建設ワークフローを見直し、プロジェクトの全体最適化を図るBIM活用についての知見が得られそうです。
8番目の「病院実例における維持管理までのワークフローを含めた効率的なBIM活用の検証」(久米設計)は、病院特有の複雑かつ多岐にわたる条件や部屋の使用、医療機器のほか建築関連法規や医療法など、様々な要素をBIMで一貫管理し、維持管理BIMにつなぐことを検証します。
医療施設には医師や看護師、事務職員など多くの関係者が存在し、それぞれ異なるニーズを持っています。これらを「医療関係者のBIM」によって、両立できるかが試されています。
BIMによる生産性向上は、もはや自社だけでは限界があります。これからは、他者のために役立つBIMの活用方法をお互いに考え、実践していくことでBIMの活用効果が飛躍的に高まりそうです。
国交省が今回、行っているモデル事業は、他者の生産性向上にコミットする「思いやりのBIM」をさらに普及させてくれるのではないでしょうか。