着工早期の合意形成から竣工後の施設保全までRebroを活用
竹中工務店、建築主視点のBIM に挑戦(NYKシステムズ)
2014年7月16日

竹中工務店は兵庫県尼崎市内の工場建設工事で、NYK システムズの設備用BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)ソフトウェア「レブロ」を活用。建築主のユースポイントの早期の合意形成取得、施工図の見える化による手戻り防止、長期的な保全業務のための3D 取扱説明書の作成を通じて、生産性と顧客満足度向上へ貢献するBIM活用術を模索した。

NYKシステムズのBIMソフト、Rebroで作成した「施工図見える化モデル」

NYKシステムズのBIMソフト、Rebroで作成した「施工図見える化モデル」

   設計段階のBIM モデルを生産側でリサイクル活用

「構造BIMデータを、IFC形式にして送っていただけませんか。現場で使ってみようと思っています」。

―――2013 年の春、当時入社3 年目を迎え、阪神地区FM センターに籍を置きながら初めて新築工事を担当することになった菊重有輝氏は、構造設計担当者へメールを送った。

配属された住友精密工業第10工場は、大型の熱交換器を製造する約5000㎡の工場であった。菊重氏は、NYK システムズの設備用BIMソフトウェア「レブロ」を活用し、施工段階での生産性向上ができないかと考えていた。

「BIM 活用の動きが活発化しているとはいえ、当時、特に生産部門では情報基盤整備も進んでおらず、活用事例にも乏しかった。所属していた阪神地区FMセンターでは、所長と上司の理解を得て、すでにレブロを導入していた。社内勉強会に参画し、レブロが、意匠や構造、他設備用CAD ソフトウェアのBIMモデルを読み込めることは知っていた。初めて新築を担当する若手がBIMでどこまでできるか、試してみたかった」と菊重氏は語る。

住友精密工業第10工場の建設工事でのBIM活用にかかわったスタッフ。竹中工務店大阪本店設計部設計第3部門設備グループの菊重有輝氏(左)とテクノ菱和大阪支店第一工事部第二課長の大室博之氏(右)

住友精密工業第10工場の建設工事でのBIM活用にかかわったスタッフ。竹中工務店大阪本店設計部設計第3部門設備グループの菊重有輝氏(左)とテクノ菱和大阪支店第一工事部第二課長の大室博之氏(右)

  「ユースポイント検討モデル」で迅速な合意形成

着工は2013 年6 月だったが、3 月末ごろより建築主と設計者との定例および設備分科会に同席を始めた。効率的に製品を製造するために、工場は南北方向へ等間隔に作業ブースが並び、複数台の天井クレーンとジブクレーンを用いて、加工途中の製品を移動させる仕様であった。

毎回その分科会で議論の主題となっていたのは、作業ブース周りのユーティリティ設備であった。各ブースで使用する生産機器に送られる配管・配線ができる限り作業空間に露出しないように、トレンチを用いて配管・配線することとなったがさまざまな条件が課せられた。

電源ケーブルは使用機器によりサイズが異なり、最大で外径が直径54mmにもなるものもあった。配管は冷却水、圧縮空気、アルゴン、低圧窒素の4 種類が並び、配管の修繕頻度よりも、ケーブルの入れ替え頻度が高いことから、トレンチ内部にラック式の架台を設けて、配管の上部にケーブルが配線できる仕様が求められた。一方で、フォークリフトが進入する建屋内の耐荷重を確保するため、トレンチはなるべくコンパクトに納める必要があったのだ。

これらの検討は当時、トレンチの平面図と断面図を用いて行われていた(図1) が、紙面上では上記の要望どおりになっているのかイメージしづらく、議論が難しい場面があったという。

(図1)トレンチの部分平面・断面図。空間のイメージが難しい

(図1)トレンチの部分平面・断面図。空間のイメージが難しい

一方で、設計部にて、レブロを用いて作業ブース周りのユーティリティ設備類の納まりを部分検討していたことがわかった。また、構造設計者が構造計算・解析する段階で生成される構造BIMモデルがあることもわかった。菊重氏は、まずはこれらのデータを集めて、イメージ共有のためのモデルを作るところから始めたのだ。

設備部分検討モデルは、2 つのブースとその間のトレンチ、ジブクレーン、各種ユーティリティ設備に関してモデリングされていた(図2)。ただし、初期検討であり、最新の建築主の要望に合わせる必要があった。

最新の分科会で要望を得たトレンチ内部の配管・配線用ラックについての部分モデルは、当時の設計協力会社にモデリングしてもらった(図3)。

構造設計より受領したBIM モデル(図4)には、梁、柱、ブレスに関する情報が入っており、着工前後で納まりを検討するには十分な情報量であったという。

(図2)設備部分検討モデル1(竹中プロダクト設計作成)

(図2)設備部分検討モデル1(竹中プロダクト設計作成)

(図3)設備部分検討モデル2(設計協力会社作成)

(図3)設備部分検討モデル2(設計協力会社作成)

(図4)構造BIMモデル(構造解析ソフトより作成)

(図4)構造BIMモデル(構造解析ソフトより作成)

この構造BIM モデルに、2種類の設備部分検討モデルをコピー・アンド・ペーストの要領で重ねていき、一部不足する配管や建築部材の情報を付加し、これをユースポイント検討モデルと名付けた(図5)。定例の場でこのモデルをスクリーンに映し、それまでの検討内容の整理を試みた(図6)。

(図5)ユースポイント検討モデル(菊重氏作成)

(図5)ユースポイント検討モデル(菊重氏作成)

(図6)ユースポイント検討モデルを用いた分科会の様子

(図6)ユースポイント検討モデルを用いた分科会の様子

数回の定例を経て徐々にわかってきたことであるが、建築主にも2 つの立場の関係者が存在した。製造部門の関係者は、既存工場を踏襲しつつ、工場で実作業を行う人々の意見を取り入れ、さらに効率良く作業ができる作業空間を模索していた。

一方、設備部門の関係者は、製造部門の意見を最大限に取り入れつつ、維持管理面やコスト面についての制限も踏まえて、意見を加える立場であった。そして設計・施工を行う竹中工務店は、両者のニーズを把握し、関係者が納得の行く形へとまとめて行く必要があったのだ。

そのような状況において、ユースポイント検討モデルは、非常に効果を発揮した。紙図面よりも空間のイメージがしやすく、関係者全員のイメージ統一に役立った。そして、それまで見えなかった問題も顕在化した。構造ブレスが入ることで、生産用電源盤を分割せざるを得ないことも、構造図と設備図を3次元的に重ね合わせることで、初めて明確になった。

また、盤の向きはどちら側に向けるべきか、配管の立ち上がりはどの位置に設けるべきか、といったようなちょっとした検討であれば、その場でモデルを操作し、修正できた。さらに、より現場関係者の思いを反映させるべく、ユースポイント検討モデルを建築主に渡し、 レブロビューアを用いて、工場関係者間での打ち合わせの場でも、モデルを利用してもらった。

その結果、「ユーティリティ配管類の立ち上がりを、2か所に分散させたい」、「ジブクレーンの足元にブースを行き来する通路空間を確保したい」といった新たな要望を引き出すことができた。これらの情報を事前に提供してもらい、モデルへ反映し、次週の定例会で再び議論を行うという流れを繰り返した(図7)。このユースポイントの検討は、着工直前の5月末から7月中旬まで行われた。地中梁の躯体工事が行われていたころ、作業ブースをほぼ建築主のニーズを反映した仕様にできたという。

竣工後のCS アンケートでは、「3D-CADによって川上で突っ込んだ打ち合わせができた。図面の読めない関係者も議論に参加でき、手戻りはなかった」として、高い評価を受けた。「現場が終わってしばらくして、ある関係者に『あの最初の検討、楽しかったですよね』という感想をいただいた。一緒にモノづくりができたことを実感でき、とてもうれしかった」と菊重氏は語る。

(図7)作業ブース周りの変化の変遷1

(図7)作業ブース周りの変化の変遷1

(図8)作業ブース周りの変化の変遷2

(図8)作業ブース周りの変化の変遷2

(図7)作業ブース周りの変化の変遷3

(図7)作業ブース周りの変化の変遷3

(図7)作業ブース周りの変化の変遷4

(図7)作業ブース周りの変化の変遷4

  鉄骨製作図BIM モデルを施工図作成へ転用

前述のユースポイント検討を進める中で、本工場の鉄骨製作図をすべてBIMモデル化しているという情報が入った。竹中工務店調達部が主導となり、将来的なBIM モデルによる鉄骨発注を目指して、グループ会社のTAKシステムズで作図中とのことであった(図8)。

(図8)非構造部材までモデリングされた鉄骨製作図BIMモデル(TAKシステムズ作成)

(図8)非構造部材までモデリングされた鉄骨製作図BIMモデル(TAKシステムズ作成)

先に取得した構造BIM モデルは、耐風梁や、鉄骨同士を接合する仕口などは表現されないが、鉄骨製作図のBIMモデルには、事前に要望した梁下の設備用ピースまでほぼ完全に網羅されている。これがあれば施工図作成段階における協力会社の施工図担当の作図時間を短縮できると考えた。8月初頭、このデータをTAKシステムズより受領し、施工協力会社へ提供した。

協力会社の1社であるテクノ菱和では、現在レブロの活用を進めているとのことで、この現場にも導入してもらい、その上で従来と同じ2次元の紙図面での施工図提出と共に、空調・衛生設備のほぼすべてと、取り合いを要する主要な電気設備類、特殊ガス設備類をモデル化した「施工図見える化モデル」を、およそ月1回の頻度で提出してもらった。

「レブロの3D表現、特に機器の表現力は、他社のCAD より優れていると実感した。今後3DやBIMで取り組む案件は、レブロを軸にしていきたい」とテクノ菱和大阪支店第一工事部第二課長の大室氏は語る。

9月時点の施工図見える化モデルと、竣工1 カ月前の現場写真とを比較すると、当然のことながら両者はほぼ一致する(図9)。 当時の現場は、鉄骨工事が終わったころで、設備工事は土間配管のみであった。設備工事が未着手の状態でも完成形がイメージできたことで、その後の建築担当や、建築職番頭との作業調整にも役に立ったという。

「天井クレーンの点検歩廊下には、バスダクト、ケーブルラック、冷却水、圧縮空気、アルゴン、窒素など、設備3 社11 種類の配管・ラック・ダクト類が集中した。これらの取り合いも、テクノ菱和が主導して詳細なモデリングを行い、各設備を通すルートを明確化することで、施工中の手戻りを最小限に抑え、短工期で整然とした納まりを実現できたと思う」と菊重氏は語る。

(図9)2013年9月時点での施工図見える化モデル

(図9)2013年9月時点での施工図見える化モデル

(図9)2014年1月時点での現場の様子

(図9)2014年1月時点での現場の様子

(図9)天井クレーン点検歩廊下の設備類の収まり。アングル材の1本ずつまでモデリングされている

(図9)天井クレーン点検歩廊下の設備類の収まり。アングル材の1本ずつまでモデリングされている

(図9)現場の状況

(図9)現場の状況

作成された施工図見える化モデルは、「レブロビューア」をインストールしたWindows版のタブレットPC端末を用いて閲覧・操作できることを確認した。今回は実運用までたどり着けなかったが、「現場で施工図を見える化したモデルをさまざまな角度から見られるようになるので、将来的には紙の施工図を持ち歩く必要がなくなるのかもしれません」と竹中工務店大阪本店設備部設備計画グループ長の渡邉啓太郎氏は語る。

(図10)「施工図見える化モデル」をタブレットPCで閲覧。現場でのBIMモデル活用に役立ちそうだ

(図10)「施工図見える化モデル」をタブレットPCで閲覧。現場でのBIMモデル活用に役立ちそうだ

  モデルに保全情報を付加した「3D 取扱説明書」を作成

現場が1月末に竣工し、1カ月ほどで竣工図や引渡書類をまとめた後、菊重氏が阪神地区FM センターに戻り最後に取り組んだのが「3D取扱説明書」であった。

2013年に、レブロに新しく搭載されたハイパーリンク機能によって、作成したモデル内の配管や機器に対して、PDFやその他のデータを関連付けし、CG画面上の簡易な操作で、それらのデータを引き出せるようになった。

菊重氏は、「施工図見える化モデルを作成したことで、ほぼ完成形のモデルができていたことから、このモデルの機器類に対して、メンテナンスに必要なデータを付加することで、建築主の長期的な保全業務に活用できる」と考えた。

テクノ菱和の協力を受け、空調機やチラー、受水槽や給茶器といった、空調・衛生設備機器類に対して、機器完成図、システム取扱説明書、機器取扱説明書、定期点検表などを関連付けし、3D取扱説明書として、建築主へ試験的に納品した。

「キングファイル数冊分にもなる膨大なデータをCD-R1枚で管理できるため、書類を保管するスペースが削減できるだけでなく、緊急時に必要な書類を探す時間も削減される。建築主にとっても、われわれ施工業者にとっても有用である。今回の3D取扱説明書はテストケースとして作成したが、保全段階におけるBIM活用の方法として、今後の展開も検討している」と渡邉氏は語る。

(図11)「3D取扱説明書」。CG上での簡易な操作で必要な書類が閲覧できる

(図11)「3D取扱説明書」。CG上での簡易な操作で必要な書類が閲覧できる

  横断的BIM 活用におけるレブロの優位性とは

竹中工務店の今回の取り組みは、設計段階で生成されるさまざまなBIMモデルを、施工側へ引き継ぐことで、建築主との早期の合意形成や、手戻りの削減など、生産性向上に利用できることを示した。また、竣工後のCSアンケートでは、川上段階での非専門の関係者も巻きこんだ作り込みを高く評価されたとのことから、BIMが顧客満足度の向上へも寄与できる技術であることも証明した。

BIMの共通データフォーマットとなるのがIFC 形式であるが、「実際に構造BIMモデルや、別の設備用CADで作成されたデータの受け渡しを行う中で、レブロは情報の欠落が少なく、IFC形式のデータ運用に対する高い柔軟性を有していることを確認した」と、菊重氏は語る。

また、「3D取扱説明書に活用したハイパーリンク機能や、タブレットPC上での操作が可能なことなども、BIM本来の目指す姿である設計から施工、維持管理までの横断的な活用という点において、レブロが優れていることを示したのではないか」とした。

最後に菊重氏は「一連の取り組みは、建築主、社内勉強会、内勤設備部計画Gや、阪神地区FMセンター、何より協力会社の皆さんの強力なサポートがあって遂行できた。NYKシステムズの技術的なサポートも心強かった。この場をお借りして、厚く感謝申し上げたい」と締めくくった。

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