管理人のイエイリです。
施工ロボットや施工管理アプリなどで建設現場のDX(デジタル・トランスフォーメーション)が進む中、課題となっているのはビル現場全体にデータ通信網を構築し、どこでも使えるようにする方法です。
これまではWi-Fi基地局を各フロアに配置し、基地局同士を有線LANケーブルで結び、現場事務所などから光ファイバーケーブルでインターネットに接続する方法が一般的でした。
しかし、光ケーブルやLANケーブルの配線、各フロアへの基地局設置に大きな手間ひまがかかっていました。
また、工事の進ちょくに伴ってケーブルの付け替えや断線、障害物によるWi-Fi電波強度の低下といった問題もありました。
竹中工務店は、建設現場でのケーブル関係の手間を減らすため、最先端技術を組み合わせたデータ通信網を同社が札幌市内で施工中の「(仮称)アクサ札幌PJ新築工事」で構築し、完全無線化することに成功しました。
まず、インターネットに接続する光ケーブルの代わりに使ったのは、
ナ、ナ、ナ、ナント、
衛星通信の「Starlink」
だったのです。(竹中工務店のプレスリリースはこちら)
Satrlinkとは、米国スペースX社が運用する人工衛星群を使ったインターネット接続サービスです。日本ではKDDIが提供しています。
十数GHz帯の周波数を使うSatrlinkはこれまで、人里離れた山間部や離島の現場で使われるイメージが強かったですが、Starlinkのウェブサイトによると、その回線速度は日本全域で下り速度150Mbps、上り速度25Mbps以上と、一般的な携帯電話の回線より速いレベルです。
光ケーブルによるインターネット接続まで高速ではありませんが、ケーブル設置の手間をなくせるという利便性を考えると、街なかのビル現場で導入してもおかしくありませんね。
続いて、各フロアの間をつなぐLANケーブルの代わりに使ったのは、パナソニック システムネットワークス開発研究所(本社:宮城県仙台市)が開発した無線通信装置「ecdi」です。
手のひらに載るほど小型・軽量の装置で、免許不要の60GHz帯という高い周波数を使います。周波数帯域を狭くする「ハーフバンド通信モード」によってノイズを押さえ、有線LANケーブル並みのスピードで通信できます。
最後に、同じフロア内の通信には、1.9GHz帯のPHS用の電波を使って、ローカルな4G携帯回線(ローカルLTE)を構築するソフトバンクの「sXGP」という通信ソリューションを採用しました。
Wi-Fiの電波には2.4GHzと5GHzの2種類がありますが、周波数が低い2.4GHzの方が壁や床などの障害物に強いというメリットがあります。1.9GHzのsXGPなら、さらに障害物をクリアしてフロアの隅々まで通信ができそうです。
現場で働く人がスマートフォンやタブレットなどを使う時は、Wi-Fiではなく携帯回線を「ローカル4G」に接続して使うというイメージですね。
これらの最先端無線通信技術を組み合わせた結果、データ通信網の構築にかかる時間は、
約80%も削減
されました。
建築面積5000m3、20階建て、利用期間2年を想定した試算では、データ通信網構築にかかるコストは30%程度削減できるとのことです。
まさかStarlinkが札幌という大都市で使われ、時間やコスト面でもメリットがあるとは思いもしませんでした。工事現場の生産性を高める“万能通信工具”として、Satrlinkは活用されそうですね。