管理人のイエイリです。
竹中工務店は、シンガポールの超高層ビルが立ち並ぶビジネス街で、「マーケット・ストリート・タワー(Market Street Tower)」(仮称)という地上40階、地下3階建てのオフィスビルを施工中です。
シンガポールのビジネス街で施工中の「マーケット・ストリート・タワー」の現場(写真:家入龍太。以下同じ) |
現場からマーケット通りをはさんだビルにある竹中工務店の現場事務所 |
設計はあの伊東豊雄建築設計事務所が担当しました。ダブルスキンに似た外装を取り入れ、その内部にはかなりの部分に壁面緑化を採用したのが特徴です。
また26階には床面積の半分くらいが4層吹き抜けの「スカイテラス」となっており、見た目もグリーンなデザインなのが特徴です。
さらに、面白いのは、屋上付近の冷たい風を取り入れて空調に利用するため、
ナ、ナ、ナ、ナント、
クールボイド
という空洞が建物全体を貫いているのです。
壁面のかなりの部分に緑化が導入されている(左)。建物内部には屋上付近の冷たい空気をビル内に取り入れる「クールボイド」が貫いている(資料:竹中工務店) |
このビルを施工するため、竹中工務店はBIMをフル活用し、デザインの詳細を詰めたり、意匠、設計、設備の干渉チェックや納まりを確認したりしています。
屋上にあるクールボイドの外気取り入れ口は、花が開いたような複雑な形をしており、この建物の外観上の大きな特徴にもなっています。
この取り入れ口の施工について知恵を絞っているのが、現場事務所でBIMマネジャーを務める石澤宰さんです。
「クールボイド」の空気取り入れ口。複雑な曲面形状をどう施工するかが問題だ(資料:竹中工務店) |
BIMマネジャーを務める石澤宰さん |
この複雑な曲面を表現するためには、平らな板材を切って張り合わせるのか、それとも無数の曲率半径からなる曲面に合わせてたたき出すのか、悩むところですね。
そこで石澤さんが考えたのは、
ナ、ナ、ナ、ナント、
アルゴリズミックデザイン
を導入することでした。
アルゴリズミックデザインとは、一定の数式や幾何学形状をルール化し、複雑な曲面などを作り出す設計手法です。
今回、石澤さんが行っているのは空気取り入れ口の複雑な曲面を、いかに少ない種類の曲率半径に分割するかという問題です。
石澤さんは「ライノセラス」という曲面デザインソフトに「グラスホッパー」というアルゴリズミックデザイン用ソフトを組み合わせて、この難題の解決に挑んでいます。
「板材を曲げ加工するためには、曲率半径に合わせた型を作る必要があります。アルゴリズミックデザインによって見た目は滑らかな曲面を保ちつつ、曲率半径はできるだけ少なくすると、品質とコストの両立が可能になります」と石澤さんは説明します。
空気取り入れ口の複雑な曲面をできるだけ少ない種類の曲率半径で表現できるかを検討するための3Dモデル(資料:竹中工務店) |
少ない種類の曲率半径で曲面を作り出すためのアルゴリズム(資料:竹中工務店) |
実は、石澤さんはアルゴリズミックデザインの大家として有名な、慶應義塾大学院政策・メディア研究科、池田靖史教授の教え子なのです。
アルゴリズミックデザインというと、人間が考え出せない曲面をデザインするだけでなく、品質とコストを両立させるための設計の最適化という場面でも使えるのです。
さすが、池田先生の教え子だけあって、海外プロジェクトでもBIMの最先端に挑戦していますね。アルゴリズミックデザインによってどのような施工につながるのか、大変、楽しみですね。