管理人のイエイリです。
BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の普及によって、3次元での静的・動的な構造解析などが行いやすくなってきました。
構造物の3次元モデルに地震力などの荷重を作用させて、部材の応力度や変位などを計算。部材の応力度が降伏点を超えた後は「塑性ヒンジ」のように扱うソフトが多かったのではないでしょうか。つまり、各部材は最後までつながったままになるというわけです。
最近、Facebookなどで注目されている木造住宅の動的解析ソフトがあります。建築研究所材料研究グループの主任研究員を務める中川貴文さんが開発した木造住宅倒壊ソフトウェア「wallstat」というもので、
ナ、ナ、ナ、ナント、
木造住宅がバラバラに倒壊
するまでの過程を動的にシミュレーションできるのです。
木造住宅 倒壊解析ソフトウェア「wallstat」のウェブサイト(資料:建築研究所。以下同じ) |
付属のサンプルデータの建物を開いてみたところ |
いったい、どんな風に解析できるのかをまずはご覧ください。
初期の状態 |
一部の部材が破壊 |
建物が倒れ始める |
完全に倒壊 |
YouTube上で公開されている動画 |
木造軸組構法住宅の耐震性能を調べるため、これまで振動台を使った実物大の実験や数値解析が行われて、様々なデータが蓄積されてきました。
そこで建築研究所がこれらの知見を活用し、柱の折損や部材の飛散など、連続体がバラバラに壊れていく過程をシミュレーションできる数値解析ソフトとして開発したのがwallstatなのです。
例えば、柱と梁の接合部は、「回転バネ+弾塑性バネ」でモデル化され、引っ張りバネか回転バネのいずれかの耐力が0になったとき、破断したと判断し、バネが消滅するようになっています。
ソフトに付属しているsampleデータには、金物接続部の実験データがいくつか収録してあります。
柱と梁の接合部のモデル化方法 |
このソフトでは「個別要素法」という非連続解析法を基本理論として、建築研究所がオリジナルな解析手法を開発しました。そのため、建物が一部破壊し、さらに倒壊しても、計算を続行できるのが特徴です。
プログラムの開発に当たっては、数多くの数値解析や実験と比較しながら改良を行っているため、実物大の木造住宅が
振動台実験で倒壊する挙動
も、高精度で解析できるまでになったそうです。
振動台実験をwallstatで再現した例 |
wallstatは無償でダウンロードでき、建物のサンプルデータも付属しています。ただ外力となる地震動の時刻歴データは付いていませんので、ネット上で公開されているデータなどを自前で用意する必要があります。
このソフトを使うと、実物大震動破壊実験施設「E-ディフェンス」のような実験をバーチャルで行えるようになります。
現在は木質構造を専門とする研究者や技術者向けのソフトですが、将来、BIMモデルデータをこのソフトの入力データとして一般の設計者が使えるようになると、さらに設計品質が向上しそうですね。