管理人のイエイリです。
山岳トンネル工事では、発破によって掘削した直後に、岩盤が露出した掘削最前面の「切羽」で行う「アタリ判定」や「アタリ取り」という作業があります。
「アタリ判定」とは、トンネルの掘削断面が設計より内側になっている部分がないかを判断する作業です。当たり判定がNGになった部分は、油圧ショベルに取り付けたブレーカーで掘削面を広げる「アタリ取り」作業を行います。
これらの作業は、発破直後の切羽に判別者が接近して計測した後、重機に近づいてオペレーターに指示しながら行うため、岩などが落下する「肌落ち」に巻き込まれるリスクがありました。
そこで鹿島は、これらの作業をより早く、安全に行うため、3Dレーザースキャナーを搭載した重機を遠隔操作することにより、
ナ、ナ、ナ、ナント、
アタリ取りの遠隔・自動化
を実現したのです。(鹿島建設のプレスリリースはこちら)
これまで人間が切羽に近づいて判別していましたが、3Dレーザースキャナーを搭載したブレーカー付きの重機を遠隔操作で切羽に近づけます。
そして切羽の形状を点群計測して、その場で3Dモデル化。そのデータをトンネル設計断面のデータと比較することで、高精度にアタリ判定を行います。
後はブレーカーの遠隔操作でアタリ取りを行えば、人間は誰一人、危険な切羽に近づくことなく作業が完了します。
繊細な3Dレーザースキャナーを振動や飛び石から守るため、計測時だけ自動で開く防護カバーと、10Gの衝撃に耐える防振装置も取り付けました。
そして、アタリ取り作業の遠隔化・自動化が実現したことで、鹿島が2017年から開発を進めてきた、次世代の山岳トンネル自動化施工システム「A⁴CSEL for Tunnel」の開発は6ステップすべてで完了し、ついに、
山岳トンネルの無人施工
が実現したのです。(鹿島のプレスリリースはこちら)
これらの自動化システムは、2017年に開発に着手し、2018年11からは模擬トンネルで各重機の自動化開発や基本動作の確認を行いました。
さらに2021年10月からは、同社の神岡試験坑道(岐阜県飛騨市)で実証を行ってきました。7年越しの開発がついに実りました。
以前から機械化の点で建設工事の先端を走ってきた山岳トンネル工事は、さらに完全に遠隔化・自動化による生産性向上や働き方改革の時代を迎えました。
●「A⁴CSEL for Tunnel」の開発の足跡
穿孔:最適自動発破設計システム 穿孔時に取得した岩盤データから、最適な発破パターンが自動生成されるシステム。発破パターンデータを全自動コンピュータジャンボに転送することで、オペレーター1人での自動穿孔が可能に。これにより、余掘り量は従来施工比60%低減、サイクルタイムは同比20%短縮を実現。 装薬:バルクエマルション爆薬 装填機内では非火薬、穿孔した孔内で原料を混ぜ合わせることで初めて火薬化する現場製造式の爆薬。装薬の自動化に向けた第一歩として、現場製造式の「バルクエマルション爆薬」を採用した全断面発破を国内の山岳トンネル工事で初めて実施し、許認可関係省庁などに公開。 ずり出し:自動ホイールローダ、遠隔バックホウ ホイールローダに搭載したLiDARの計測データをもとに坑内の地図を作成しつつ、自機の位置をリアルタイムで推定するSLAM技術を活用。非GNSS環境下のトンネル坑内でも掘削ずりのすくい取りや運搬、荷下ろしの自動化を実現。遠隔バックホウとの連携による、ずり出し作業時の切羽近傍の完全無人化も実証。 アタリ取り:アタリガイダンスシステム、遠隔ブレーカー ブレーカー本体に搭載した3Dレーザースキャナーにより、切羽に立ち入らなくても発破直後の露出した岩盤形状を定量的、自動的に評価できるアタリガイダンスシステムを開発。また、ブレーカーを遠隔操作することで、アタリ取り作業時の切羽の完全無人化を実証。 吹き付け:エレクター付き2ノズル自動吹き付け機 2ノズル自動吹き付け機に搭載した、3Dレーザースキャナーによる切羽形状の測定結果をもとに吹き付け計画を自動生成し、左右2ノズルをプログラム制御する「自動吹き付けシステム」を開発。2ノズルによる自動吹き付けにより、従来の1ノズル自動吹き付けと比較して約50%の施工時間の短縮を実証。併せて、「建て込みガイダンスシステム」により、支保工建て込み目標位置に対する姿勢計算結果に基づいてエレクターを遠隔操作することで、所定の位置への支保工建込みが可能であることを実証。 ロックボルト打設:自動ロックボルト打設機 穿孔位置への誘導から穿孔、モルタル注入、ボルト挿入までの一連作業を自動化するブームを左右2つ備えた「2ブームロックボルト施工機」を開発。3~6mのロックボルトに対応可能で、施工速度や精度を確保したうえで、オペレーター1人によるロックボルト打設が可能であることを実証。 |