管理人のイエイリです。
建設業界で使われているBIM/CIMソフトは、海外の製品が優勢です。
ところが自動車や電子機器などで使われているプリント基板や多数の配線を束ねた「ワイヤーハーネス」の設計分野では、図研(本社:横浜市都筑区)の製品が圧倒的な世界的シェアを誇っているのはご存じでしょうか。
この人気の秘密はどこにあるのかを、先日、オンライン会議で図研 オートモーティブ&マシナリー事業部の取締役事業部長、大沢岳夫氏にオンライン会議で直撃取材しました。
まず、大沢氏が指摘したことは、工場などでの配線の問題点です。
配線作業を行うときは回路図などに基づいて行いますが、その後の管理は「現物合わせ」が日常化しており、何の配線なのかがわからなくなることもしばしばだそうです。
そのため、新しい設備を入れるたびに古い配線は念のため放置しておき、新しい配線を追加するため、東京にある配線全体の
ナ、ナ、ナ、ナント、
60%が“死んでいる”
とも言われているとのこと。
こうした現物合わせによる管理をカイゼンしようと、同社では軽い3Dモデルを作れることで定評のあるラティス・テクノロジー(本社:東京都文京区)が開発した「XVL」形式の3Dモデルを導入し、配線のデジタルツイン化に取り組んでいます。
例えば、「XVL Studio WR」という配線ソフトによる作業手順を見てみましょう。
初めは、回路図の作成です。ここでは3Dの要素はなく、単に機器に付いている電源やコネクターなどのつながりを表した図です。ここで間違いのないように、コネクター同士を線でつなぐ作業はデータベースで自動化しています。
次に、機器などの3D形状を考慮した配線設計に移ります。機器の3Dモデルと回路図上のコネクターは、データ連携していますので、まずはコネクター同士を最短距離の直線でつなぎます。
このままだと配線が壁を突き抜けたり、機器をぶち抜いたりしますので、配線が通るべき点を指定してやります。
そして3D配線に変換すると、各配線はなめらかな曲線を描くように配線されます。電子回路の工作キットに付いている「実体配線図」と同じようなものができました。
すると各配線の仕様や長さ、重量などを一覧できる「ケーブルリスト」ができます。
これまでの配線は余裕をみて「長め」になる傾向がありましたが、3Dモデルから作られたケーブルリストからは、長すぎず、短すぎない最適な長さがわかります。また、ケーブルリスト材料の手配も簡単です。
さらに3Dモデルから、ビジュアルな作業指示書も自動的に作成されるので、これを電気工事の専門工事会社に渡せば、他社が行う配線などが考慮されたスッキリした配線が行えます。
このワイヤーハーネスの3D設計手法を拡張して、図研では今後、
建築設備をデジタルツイン
化する設計システムの開発も視野にいれているのです。
※デジタルツイン=実物の建物などをデジタルモデルで再現した「デジタルの双子」の意味
図研と言えば、2018年にDWG互換CAD「BricsCAD」のベンダーだったアルファテックを買収して図研アルファテック(本社:大阪市淀川区)とし、その後、BricsCADは“ジェネリックBIMソフト”と言っても過言ではないほど、3Dモデリングの機能が充実してきました。その裏には、図研のデジタルツイン設計戦略もあったのです。
すでに工場では、既存の建物や設備を“リバースエンジニアリング”によって回路図や配線図を復元し、新たに設置する設備を前述の設計手法で追加することで、工場のデジタルツイン化の事業を行っています。その次の戦略として、建築設備分野への進出も視野に入れているとのことです。
建築分野では電気設備のほか、配管やダクトなど空調・衛生設備のBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)導入が進みつつありますが、図研など他業界のノウハウを生かして進出してくる可能性もあります。
こうした刺激によって、建築設備の設計、施工、維持管理もデジタルツイン化が進んでいきそうですね。