戸田建設は岐阜県大垣市内に建設した複合施設のマンションで、YSLソリューションと共同開発したiPad用仕上げ検査システム「LAXSY(ラクシー)」を全面活用。従来の紙図面を使った検査方法に比べて、作業効率を大幅向上させた。その秘密は、「紙に勝る操作性」を実現したことだ。仕上げ検査はどう変わったのかを、戸田建設のマンション建設現場の技術者に直撃した。
2時間の指示書作成が5分に短縮
現場はJR大垣駅のすぐ前に立つ112戸からなる17階建てのマンションだ。「この現場では紙図面の代わりにiPadを使って仕上げ検査を行いました。その結果、専門工事会社に修正作業を依頼する指示書の作成作業が格段に楽になりました」と、作業所長の工藤高久氏は語る。
仕上げ検査とは、建物が設計通りにできているか、工事中に発生した傷や汚れはないかといった最終確認を行うものだ。特にマンションの場合は、住戸ごとに内装仕上げのタイプが異なる、多くの作業員が仕上げ工事のために出入りする等の理由により、細かな指摘事項が多く発生しがちである。
戸田建設では従来、仕上げ検査を行うときにA3サイズの図面付き用紙を住戸ごとに準備し、現場で指摘事項を手書きし、検査後に現場事務所で専門工事業者ごとに指摘事項を整理した指示書を作る方法をとっていた。
それを、戸田建設とYSLソリューションが共同開発したiPad用の仕上げ検査システム「LAXSY」に切り替えたのだ。
「従来の方法だと、指示書を作るのに2時間はかかっていました。ところがLAXSYだと、システム上で指摘事項を自動的に整理し、専門工事会社ごとの指示書も自動的に作ってくれます。そのため、指示書をプリントアウトする5分だけで済むのです」(工藤所長)。
指摘事項の入力から写真撮影までをiPadで
LAXSYは、iPadを端末として使う仕上げ検査用のクラウドサービスだ。サーバーからiPadに図面付きの入力フォームをダウンロードし、それを用紙代わりに現場で指摘事項を入力していく。
「iPadには図面が鮮明に表示され、拡大・縮小やスクロールもスムーズに行えます。指摘事項を発見したときは、図面上にその位置を表す色付きの『ピン』を立て、それに部位や不具合内容などをひも付けて記入していきます」と、内装工事を担当する建築主任、寺嶋哲夫氏。
現場での入力作業は、オフラインで行えるのでLANやインターネット回線が使えなくても大丈夫だ。現場から事務所などに持ち帰ったiPadを、無線 LANなどに接続すると、検査結果のデータはサーバーにアップロードされ、一元管理される。
「紙図面の場合、同じ住戸を複数の作業員が同時並行で検査したとき、各作業員が記入した検査結果を1つにまとめる作業も必要でした。その点、LAXSYだとシステム上で自動的に検査結果をまとめてくれます」と寺嶋氏は、クラウドならではのメリットを語る。
「プルダウン廃止」で紙に勝る操作性を実現
戸田建設では以前、別のタブレットを用いた仕上げ検査システムを開発したことがあった。しかし、そのタブレットが市場から消えていくと共に、自然に使われなくなったという。
「以前のタブレットを用いているときは、プルダウンメニューでスクロールしながら『壁』→『巾木』といった具合に入力していました。しかし、この入力方法は検査データの登録に時間がかかり、立会い検査のスピードに追い付かないため、中小規模のマンションでは使われなくなりました。その結果、紙図面に記入する方法に自然と戻っていきました。」と本社建築工務部工務2課の丸岡亜衣氏は振り返る。
そこで、戸田建設は2015年1月、YSLソリューションに相談し、以前から導入していた同社の図面共有アプリ「CheX(チェクロス )」をベースに、現場での実用にたえるiPad用の仕上げ検査システムの開発を持ちかけたのだ。
その声にこたえて、YSLソリューションはシステムの開発をスタートした。操作性をよくするため、入力項目は①部位(クロス、巾木、枠など)、②不具合内容(ふくれ、傷、焼けなど)、③専門工事会社名(最大20社くらい)、④入力日(自動入力)の4つに絞り込んだ。
「LAXSYではプルダウンメニューの代わりに、入力項目を1つの画面ですべて見えるようにレイアウトし、該当する部分をタップする方式にしました。また、『クロスのキズ』のように繰り返しが多い指摘は、あらかじめ専門工事会社名や指摘事項などを登録したピンを用意し、現場ではそのピンを図面上に配置するだけで1件の入力が完了する『プリセット機能』も作ってもらいました。その結果、紙図面に勝る操作性が実現しました」(丸岡氏)。
しかし、現場では壁紙と下地材にまたがった傷など、メニューを選ぶだけでは表現しきれない不具合も多い。そんな場合に備えて、図面上にフリーハンドで記入できる機能も設けた。
「不具合の状態を表現しきれない場合は、現場の写真を撮ってピンにひも付けし、『これをなんとかしてほしい』と書いておくだけでOKです」と丸岡氏は言う。つまり、定型的で数の多い不具合から、特殊で表現が難しい問題までをiPadだけで扱えるようにしたことが、iPad化に成功した大きな要因だ。
年配者も1日でマスターできる簡単さ
これまで、長年の間、紙図面をベースに仕上げ検査を行ってきたベテラン作業員も、このシステムになじむことができるのだろうか。
副所長の柴田哲二氏は「操作自体はマニュアルがなくてもできるほど簡単なので、年配の人でも半日もあればマスターし、現場で使えるようになりました」と言う。
専門工事会社による修正作業が終わった後のチェックも、LAXSYなら簡単だ。「図面上で指摘事項を表すピンと現場を見比べて、OKならばピンを消していくだけです。作業が進むと、どんどんピンの数が減っていくので、充実感がありますね」と柴田氏は笑う。
仕上げ検査の効率を上げるためには、必要な選択項目を充実し、不要なものは極力なくす必要がある。その点、LAXSYはマンション、学校、病院、オフィスビルの4種類の建物用に入力項目を設定するためのマスターデータを内蔵している。他の建築現場でも、マスターデータを用いることですぐに仕上げ検査が可能だ。
戸田建設の仕上げノウハウを公開
前述した通り、戸田建設では仕上げ検査の効率化には、以前から取り組んでおり、自社でシステムを開発したこともある。今回、開発した「LAXSY」にも、戸田建設の仕上げ検査ノウハウが満載されている。にもかかわらず、戸田建設はこのシステムを自社内での使用に限定することなく、他社もLAXSYを使用できる事にした(サービス提供元・販売元はYSLソリューション)。
「技能労働者の減少が著しい中、建設業における生産性の向上は、当社だけでなく業界全体の課題です。YSLソリューションを通じてサービスを公開することで、より多くのユーザーの意見を取り入れながら、更に使いやすい仕上げ検査ツールへ継続的に改善していきたいと思っています」と丸岡氏は言う。
利用に当たっては基本料金が1プロジェクト当たり毎月1000円(以下、税別。1GBのオンラインストレージ付き)で、IDが1つ当たり毎月1万円だ。このほか、マスタの登録や操作説明会などの支援も有償で受けられる。
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