管理人のイエイリです。
米国サンフランシスコで開催された「Autodesk Media Summit 2012」の2日目である3月28日の朝、サンフランシスコ・オークランド・ベイブリッジの架け替え工事の現場見学に出掛けました。
サンフランシスコ湾を横断するこの橋は1931年に開通し、毎日28万台のクルマが通る交通の大動脈です。橋はヤーバ・ブエナ島を境に東西に分かれており、島の東側部分の架け替え工事が行われています。
我々が小型船に乗ると、カリフォルニア州交通局(Caltrans)のスポークスマン、バート・ネイ(Bart Ney)さんの“名調子”による解説が始まりました。
工事のポイントは3つあり、1つめは耐震性の確保、2つめは通行止めを最小限にすること、3つめはカテナリー(懸垂線)を生かしたデザインとのことです。
橋の架け替え工事現場(左)。名調子で現場案内をするバート・ネイさん(右)(写真:家入龍太。以下同じ) | |
手前が既存の橋。車線が上下2段に分かれている。1989年のロマ・プリータ地震で1カ所、上の桁が落下した |
新しい橋の特徴は、1本のアンカー付き自立主塔で支えた吊り橋構造を採用していることです。
ケープルは桁の東端から主塔→桁の西端→主塔→桁の東端というようにぐるりと回って設置され、東端で桁に固定される構造になっています。ケーブルはワイヤを束ねた「ストランド」というものを1本ずつ、下から上へと積み上げるように順序よく通していきます。
3月27日現在(現地時間)、137本中
117本のストランド設置が完了
しました。この作業はあと1週間ほどで完了するそうです。来年の開通に向けて、工事は佳境を迎えています。
架け替え工事の情報をリアルタイムで発信しているウェブサイト「(写真:家入龍太) |
ケーブルは桁の東端から自立式の吊り橋部分をぐるりと回って固定される構造になっている(資料:Caltrans) |
この工事では様々なソフトウエアが設計に使われていますが、中でも最も活躍しているのは、
ナ、ナ、ナ、ナント、
BIMで作った工事アニメ
なのだそうです。
「歴史に残る大工事」だけあって、工事がどのように進んでいるのかについて市民の関心も高く、完成後の橋のイメージや、耐震性確保のための鋼材の変形を利用した制震機構、仮設迂回路への切り替え手順などを分かりやすく説明するのに役立っているそうです。
これらのアニメの作成には、オートデスクの「Navisworks」などを使っているとのことです。
橋の完成予想図。クルマの動きも動画で再現し、完成後の様子がリアルに分かる(左)。鋼材の変形を利用した制震機構(右)(以下のCG:Caltrans) |
また、休日などを利用して2~3日という期間に既存の構造物を撤去して、新しい構造物を設置し、すぐに交通開放するという失敗が許されない工事が行われるときには、工事関係者が施工手順のアニメーションを見て全員が手順をよく理解できるようにしているそうです。
迂回路の切り替え前(左)と切り替え後(右)の手順もアニメで動画化した | |
ケーブルのストランド架設手順もアニメ化した | |
実際の施工風景 |
ひと昔前、瀬戸大橋や明石海峡大橋などが行われていたとき、米国では既に長大橋を架ける技術が失われている、といことが言われていました。
ところが、サンフランシスコ・オークランド・ベイブリッジの架け替え工事では、BIMやアニメーションを使って作業員など工事関係者の間で情報共有を図り、限られた通行止め期間の工事でも、予定をはるかに上回る短時間で完了させています。
高齢化が進む日本の建設業界でも、技術伝承にBIMやアニメーションの活用を考えてみてもよさそうですね。