管理人のイエイリです。
5/17~19、ワシントンDCで開催されたアメリカ建築家協会(AIA)の全米大会で、毎回、私が注目しているイベントは、マグロウヒル・コンストラクション社(McGraw-Hill Construction)の展示ブースで開催されるミニセミナーです。
というのも、建設ITの動向を技術と経営の視点で追跡し、情報発信を続けている同社のスティーブ・ジョーンズ(Steve Jones)氏が毎年、BIMのホットなトピックを提供してくれるからです。
米国で建設ITの情報を発信し続けているスティーブ・ジョーンズ氏(左)と、AIAの展示会場にあるマグロウヒル・コンストラクション社のブースでのミニセミナー(右)(写真:家入龍太。以下同じ) |
ジョーンズ氏はMBA(経営学修士)であり、設計の実務経験を積んだ後、マグロウヒル・コンストラクション社に転職し、建設ITの情報発信に努めています。
一方、私は日本の“プチMBA”である中小企業診断士の資格を持ち、鉄鋼会社で土木設計に従事した後、“日本版マグロウヒル社”とも言える日経BP社に転職し、建設ITの情報を追っかけています。
いわば、われわれ二人は
米国版イエイリと
日本版ジョーンズ
の関係にあると言っても過言ではありません。(笑)
ジョーンズ氏はこのほどBIM関連の調査レポート「SmartMartketシリーズ」の「The Business Value of BIM for Infrastructure」をまとめました。
いわば、米国の社会インフラ整備における「土木のBIM」の活用実態を調査したもので、今年のミニセミナーではその内容を紹介しました。
調査レポート「The Business Value of BIM for Infrastructure」。無料でダウンロードできる |
米国の社会インフラの状態について、米国土木学会(ASCE)は先進国の中で最も悪い「D」と評価しており、今後5年間で5兆5000億ドル(約500兆円)もの投資が必要になるそうです。
そこで建築分野で効果を上げているBIMを、土木分野にも活用し生産性向上を上げることが課題になっています。
既にワシントン州シアトルの高架道路の地下トンネル化プロジェクトではBIMが導入され、現在の高架橋が大地震の震動に見舞われたとき、崩壊する様子を解析に基づいたアニメーションで表現し、合意形成に役立てています。
また、トンネルやビルの基礎、ライフラインが複雑に交錯する地下の様子を、3Dで見える化することにより、計画や施工管理を行いやすくすることも行われています。
シアトルの高架道路のトンネル化工事ではBIMが導入されている(左)。基礎杭やライフラインなどが交錯する地下の状態をBIMで可視化することにより計画や施工管理が行いやすい(右) |
|
既存の高架橋が大地震に見舞われたときの崩壊過程を示したアニメーション |
このほかの土木のBIMとしては、 3Dレーザースキャナーによる維持管理の事例を取り上げていました。
既存の橋梁を3Dレーザースキャナーで計測した点群データを任意の断面で切って厚さを確認する事例や、クルマに積んだレーザースキャナーで道路を走りながら路面や周囲の街並みを高精度で記録する「モバイルマッピングシステム(MMS)」、さらには既存の構造物を3Dでモデル化し応力解析に利用するといった事例です。
3Dレーザースキャナーで計測した橋の点群データ(左)。任意の断面で切ると図面になる(右) | |
モバイルマッピングシステムで計測した道路の点群データ(左)と、点群を基に3Dモデル化した例(右) |
|
点群データから既設の水門モデル化し、応力解析を行った例(左)と様々なBIMの活用例(右) |
このレポートの作成に当たって、 マグロウヒル・コンストラクション社は2011年10月~11月の約1カ月間、ネットで調査を行い466件の回答を得ました。
その結果、
ナ、ナ、ナ、ナント、
46%が「土木のBIM」ユーザー
だったそうです。
この中には3Dモデルを作っている人、作ってはいないが業務で利用している人が含まれています。
米国における「土木のBIM」ユーザーは、既に46%に達しているという |
調査によると今後も「土木のBIM」は急速に普及していきそうで、来年(2013年)の予測は、ヘビーユーザーと超ヘビーユーザーを合わせると52%になる見通しで、ライトユーザーの21%を大きくしのぎそうな勢いです。
日本の土木業界も、うかうかしていられませんね。