フルBIMの時代は終わった!仮想コンペ「BLC」参加チームを突撃取材
2012年9月28日

管理人のイエイリです。

9月26日の18時、BIM界恒例の行事となった仮想コンペ「Build Live Chiba 2012」が始まりました。今回の課題は、千葉県木更津市の東京湾アクアライン取り付け部付近で行われている「かずさアクアシティ」の再開発エリアに、約700人が業務を行う約1万4000m2のオフィスビルを社会人は48時間、学生は96時間設計する、というものです。

開始からまる1日が過ぎようとしていた昨日、社会人対象の「実務クラス」に参加している3チームを突撃取材してきました。

まずは大林組を中心とするチーム「Chain-Diver」です。3回目の参加ですが、今回は約10人の小規模な有志チームが大林組東京本社の一室に陣取り、作業を進めていました。これまでは意匠、構造、設備を含めた「フルBIM」の実践を目指していましたが、今回は意匠設計だけを行うとのこと。その理由は、「去年でIFC形式によるデータ連携はやり切った」からだそうです。

今回は、オープンオフィスやクローズオフィス、休憩室などの各部屋の最適な配置を、

ナ、ナ、ナ、ナント、

 

コンピューターに決めてもらう

 

という取り組みにチャレンジしているのです。

例えばオープンオフィスはくつろいだ雰囲気なので休憩室に近い方がよいとか、動線はできるだけ短くするなどの部屋の関係性をルール化し、「グラスホッパー」というアルゴリズミックデザイン用ソフトでVisual Basicによってものすごい数の組み合わせを試行錯誤し、最適な配置に収束させていく、という方法をとっています。

チェスに例えると、人間の名人の場合は直観力と勘によって駒を進めていきますが、コンピューターは何百万通りもの手を先読みして次の一手を決めていきます。これと同じような感じで建築設計を行っていました。

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大林組中心のチーム「Chain-Diver」の作業風景(写真:家入龍太。以下同じ)
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コンピューターで最適に配置した各室(左)とアルゴリズム(右)

次に突撃したのは、前田建設工業を中心とするチーム「SKUNK WORX5」です。谷田央治さんをリーダー、入社2年目の瀧田亮輔さんをサブリーダーとする若手中心のメンバー30数人が日常の実務をこなしながら、コンペの課題に取り組んでいました。今年は実務が忙しいため時間を確保するのが大変とのことです。

SKUNK WORKSでは、ゼロエネルギービル(ZEB)にこだわっています。建物全体を「ソーラーチムニー」とし、太陽熱による上昇気流や卓越風を使って風力発電や空調負荷低減を行うというユニークな設計です。

「昨年までで意匠、構造、設備をフルBIMでできることは分かったので、今回は設計の上流側を重視して取り組んでいる」とのことです。ここでもグラスホッパーによって建物のデザインを行っていました。

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若手中心のSKUNK WORX5。左からリーダーの谷田央治さん、サブリーダーの瀧田亮輔さん、元リーダーの綱川隆司さん(左)。ソーラーチムニーについて説明する谷田さん(右)
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グラスホッパーによる建物のデザイン(左)。作成中のCGには東京湾アクアラインまでモデル化されていた(右)

最後に訪問したのは、セコム中心の9人で構成するチーム「Space Innovation Lab.」です。「人のアクティビティと空間が対話する建築計画を実現する」ことが、参加の動機であり、セコムというセキュリティーサービスの企業であるため、どんな建築物を設計するのかと思いきや、

ナ、ナ、ナ、ナント、

 

意匠設計は行わない

 

という、驚きの発言がありました。

「10年後の人口を予測し、その時に最適になる建物を設計する」というのです。これまでBuild Liveでは風の流体解析シミュレーションなどによって建物の形を変えるという手法がよく用いられていましたが、このチームが設計上で重視しているのは人の視線です。

「風や音でなく、人の“注視量”によって建物の形を決めていく」という画期的な手法に取り組んでいます。ソフトとしてはArchiCADのほか、人の動きをシミュレーションする「EXODUS」やGISソフトの「ArcGIS」を使っているそうです。

いろいろと質問して、どんな方法なのかを聞いてみましたが、どんな建物ができるのか最後までイメージができませんでした。しかし、チーム名に「Space Innovation」と冠しているように、革新的な設計手法をデモンストレーションしてくれることを期待したいですね。

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セコム中心のSpace Innovation Lab.。左から井上雅子さん、櫻井利彦さん(左)。BLC2012のサーバーに提出された人口の3Dモデル。各街区の人口を現在と10年後の昼間と夜間で示している(右。資料:Space Innovation Lab.)
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IAI日本の飯田千恵さんも突撃取材(左)。ユーザーの陣中見舞いに訪れたグラフィソフトジャパンのコバーチ・ベンツェ代表取締役社長(右端)ら。ArchiCAD16の新機能「モルフツール」をその場でデモしていた(右)

今回は実務クラスの参加チームには「フルBIMはもう十分やったので、今回はBIMならではの設計にポイントを絞った」という感じが共通していました。Build Liveだからこそできる課題へのチャレンジで、日本のBIMはますます進化していきそうです。

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