降伏後も土圧と戦う!鹿島が山岳トンネルの鋼製支保工の設計を変えた
2012年9月14日

管理人のイエイリです。

山岳トンネルの工事では、切り羽で土砂を掘削した直後、地山の表面をアーチ型の鋼製支保工と吹き付けコンクリートで保護し、土砂の崩落を防ぎます。

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鋼製支保工と吹きつけコンクリートにより地山を支える山岳トンネルの工事現場(写真・資料:鹿島。以下同じ)

地山の土かぶりが大きかったり、地盤が特に軟弱だったりする場合には土圧が大きくなり、鋼製支保工とコンクリートに作用する応力も大きくなり、弾性理論に基づいた設計手法では下図の左側のように鋼製支保工の応力が先に許容応力を超えてしまいます。この許容応力は鋼材の降伏応力に設定されています。

そこで鋼製支保工をワンランク大きな断面のものにすると、右側のように鋼製支保工の応力が下がりOKとなります。

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従来の解析手法に基づくトンネル支保工の設計方法

しかし、弾性理論による解析では、現場で実際に起こっていることとの違いがありました。鋼材が圧縮力を受けてひずみが大きくなり、降伏点に達した後は、

 

降伏応力より大きくならない

 

からです。

つまり許容応力度を超えることはありません。弾性理論の頭で考えていると、つい見逃してしまいがちなところですね。

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一般的な鋼材の応力-ひずみ関係。降伏後の応力は降伏応力のままひずみだけが大きくなる

鋼製支保工が降伏した後も、吹きつけコンクリートの応力はまだ許容応力には余裕があります。そこで鋼製支保工を応力が降伏した後は、吹きつけコンクリートの支持力を使って土圧を支えることができるのです。

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実現象におけるトンネル支保工への作用土圧と支保工応力の関係

この考え方に基づき、鹿島はFEM(有限要素法)を使った新しい支保工設計プログラム「トレーシー(TRASY:Tunneling Rational Analysis with Support Yielding model)」を開発しました。

トレーシーで設計を行うことで、鋼製支保工は

 

従来より小さいサイズ

 

を使えることになります。

鹿島はトレーシーを北海道開発局発注の音威子府トンネルに適用して支保工のダウンサイジングを実現しました。

このトンネルは土かぶりが250mもあり、現場では蛇紋岩のもろい層が出現しています。従来の解析プログラムで計算するとH-300の鋼製支保工が必要でしたが、断面が大きいため狭いトンネル内では施工がかなり困難でした。

そこでトレーシーで設計したところ、サイズの小さいH-200でも十分対応という結果が出ました。トンネル現場での実測値との比較でも精度よく再現されており、現在、H-200の支保工で掘削しています。

今回の鋼製支保工の合理化は、FEMによる弾塑性解析を上手に生かした事例だと思いました。

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