管理人のイエイリです。
資源に乏しい日本ですが、海底に目をやると日本近海には貴金属や銅、鉛などの金属を含んだ海底熱水鉱床やコバルトを含む鉱物、そしてメタンガスが氷状に固まったメタンハイドレートなどの資源が眠っています。
こうした資源探査や海底の開発で必要なのが水中での通信技術です。水中では電波が届かないので、音響を使った通信になります。
この水中音響通信の技術開発を行っているOKI(本社:東京都港区)は、2023年3月、2隻の試験船を使った実証実験を駿河湾で行い、見事成功しました。
約2km離れた試験船同士の間で、
ナ、ナ、ナ、ナント、
32kbpsの通信速度
での安定した通信を行うことに成功したのです。(OKIのプレスリリースはこちら)
32kbps(ビーピーエス)とは、アナログ電話回線を使ってインターネットに接続する「ダイアルアップ回線」程度の速度で、粗い画質のテレビ電話が行える程度です。
当時のインターネット界から四半世紀遅れて、水中での通信もついにそのレベルまで追いついたことになりますね。
今回の実験は、水中音響通信を水平方向へ拡張することを目指して行ったものです。水深約1000mの海域でOKIコムエコーズ(本社:静岡県沼津市)製の送受波器「OST2120」を海面下約15mに吊り下げて通信を行いました。波高は約1mでした。
OKIは2020年10月に、水深約100mの駿河湾海域で鉛直方向での32.2kbps通信に成功しています。(OKIのプレスリリースはこちら)
今回、水平方向への通信が成功したことで、水中での中継器をつないでさらに遠距離通信を可能にする
水中マルチホップ
通信の実現へ、一歩前進したのです。
2023年6月18日に発生したタイタニック号見学ツアーの潜水艇事故でも指摘されたように、地上での無線通信と比べて、水中の通信には様々な困難があります。
例えば水中での音波の伝送速度は毎秒1.5km程度と電波に比べてはるかに遅いうえ、波の影響によるドップラー効果や、音波が海面や海底に反射することによるマルチパスによる“混信”などがあるからです。
今後、OKIでは水中での1対Nでの複数通信や、水中マルチホップ通信などの開発を進めて、複数の水中ドローンやロボットが広範囲で利用できるシステムの開発を目指すとのことです。
これらの困難を乗り越えて“深海無線LAN”が実現できると、海洋資源の調査や沖合養殖の設備管理などの強力なインフラになりそうですね。