管理人のイエイリです。
東日本大震災では、長周期地震動により震源から数百キロも離れた都心の超高層ビルが長時間、大きく揺れました。今後、東海、東南海、南海地震などが発生した場合にも同様の現象が起こるとみられています。
そこで竹中工務店は鉄骨造のビルを対象に、二次部材や設備などを含む建物本体の被害額、つまり復旧費用を推定するシミュレーションシステムを開発しました。
建物の3Dモデルに想定地震の地震動を入力し、地震応答解析を行って柱や梁ごとの損傷を評価するものですが、
ナ、ナ、ナ、ナント、
約1000種類の地震動
を使って徹底的にチェックするのです。
評価に使う建物の3Dモデルの例(資料:竹中工務店。以下同じ) |
まず想定地震を中央防災会議などの公開データをもとに設定し、国土交通省の手法に準拠して1つの想定地震あたり約1000個の地震動データを生成します。
この地震動データすべてについて3次元地震応答解析を行い、建物がどのように揺れるかを計算します。その結果から、柱や梁などの部材ごとの疲労による損傷や、躯体、内装、外装、設備などの部分ごとに被害額を算定します。
当然、1000の入力地震動ごとに被害額を表す「損失率」が違い、正規分布のようにばらつきます。そこで90%の確率で生じる最大の値を「最大損失率(長周期地震動によるPML)」として算定する、という仕組みです。
最大損失率の算定方法。1000の地震動で損失率を計算し、累積確率が90%になる被害額を最大損失率(この例では6.5%)とする |
このシミュレーションシステムは、基本的には既存建物の評価を目的としていますが、設計の初期段階で使用することで、費用対効果の高い対策を設計に盛り込むことも可能です。このシステムは、既に東京・内幸町の飯野ビルディングで使用されました。
ところで、なぜ、このようなシステムが作られたのかというと、不動産を売買するときに建物の価値を調査する
デューデリジェンス
の高度精度化に対応するためです。
現在、J-REIT(不動産投資信託)などで不動産を取得するときに必要な「エンジニアリングレポート」という建物の現状を評価した報告書には、長周期地震動は対象外とされていますが、今後は考慮すべき事項として挙げられています。
つまり、建物を売買するときに求められる建物の情報が、どんどんガラス張りになっていっているというわけですね。
今、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の維持管理への活用が話題になりつつありますが、維持管理用の生きたBIMモデルがあることでエンジニアリングレポートやデューデリジェンスの評価が高まり、不動産価値の向上につながるようになれば、BIMの新たな価値が経営者にも評価されるのではないでしょうか。