管理人のイエイリです。
山岳トンネルを掘るとき、トンネル上部の地下水が大量にわき出ることがあります。その結果、地下水位が下がったり、地中に含まれていたヒ素や重金属が流出したりして、環境に悪影響を与えることもあります。
こうした湧水を防ぐため、掘削中にはトンネルの前方や周囲360°に水を通しにくくするモルタルや薬剤を孔から注入する「グラウチング」を行い、その効果を把握・解析することが重要になります。
ただ、従来は2次元図面やデータから、トンネル周囲の透水性がどのように分布しているのかを立体的に想像しながら検討していたので、グラウチングの効果を把握したり、追加で施工する穴の位置を決定したりするのに時間がかかっていました。
そこで熊谷組は、トンネル周辺に施工したグラウチングのデータから、周辺地盤の透水性を
ナ、ナ、ナ、ナント、
3Dモデルで可視化
する「トンネルグラウチング可視化システム」を開発したのです。
地盤の水の通しやすさは「透水係数(cm/sec)」で表されますが、高い地下水圧化で行われるトンネル工事などでは、地下水圧1MPaのときボーリング孔1m当たり、1分間にわき出す地下水量のリットル数を「ルジオン値(Lu)」という指標で表します。
上記の画像は、トンネル周囲を30°の間隔でボーリングしたときのルジオン値が、トンネル周辺にどのように分布しているかを表したものです。
赤や黄色に近いほど、ルジオン値が大きくなり、水を通しやすい部分であることがわかりますね。
続いてさらに細かいピッチでボーリングを行い、すべての孔にグラウチング施します。その後にルジオン値がどうなったのかを表したのが、下の図です。
赤や黄色の部分が消えて、青や紫色の部分ばかりになりました。グラウチングによってトンネル周辺地山の
透水性が低減した
ことが、一目でわかりますね。
このシステムからは、各ボーリング孔のルジオン値を展開図上に色分け表示した「2次元ルジオンマップ」や、ボーリングの追加施工によってトンネル全体のルジオン値がどのように低減していったのかを表す「超過確率図」も出力できます。
なお、このシステムは五大開発の3次元地盤モデル作成システム「MakeJiban」によって開発されました。
このシステムによって、グラウチングの施工後、弱点の評価と追加施工の判断を行う「PDCA」のサイクルが早くなりました。
また、3Dモデルに切り羽写真や地上からのボーリング資料、注入日報などのトンネル施工データをリンクして、トンネルの完成後は維持管理資料として活用できます。
そのため、将来、地震によって湧水が増えたり、覆工コンクリートに不具合が起こったりしてときにも、原因究明と対策が行いやすくなります。
経験工学の塊である山岳トンネル工事の施工管理でも3D化が進み、生産性向上や世代間のデータ共有が行いやすくなってきましたね。